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学修成果の把握・可視化の方向性、概要と課題について~教学マネジメント特別委員会(第6回)の資料より~

令和元年7月5日(金)10:00~から中央教育審議会大学特別分科会教学マネジメント特別委員会の第6回が開催されます。
※本記事は開催前に執筆しています。

この第6回の資料は7月4日(木)に公開されており、議題は「教学マネジメントに係る指針及び学修成果の可視化等について」となっています。

さて、この会議の資料で非常に気になるのは、学修成果の可視化の①把握・可視化の義務付けが考えられる情報の例、②把握・可視化の在り方について一定の指針を示すことが考えられる情報の具体的な内容が提示されている事です。

なお、学修成果の可視化や把握といった点については2018年11月26日の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)(中教審第211号)」の中の学修成果の可視化と情報公表の促進に記載されています。

【参考①】把握・公表の義務付けが考えられる情報の例
(学修成果・教育成果の可視化に関する情報)
・単位の取得状況、学位の取得状況、進路の決定状況等の卒業後の状況(進学率や就職率など)、学修時間、学生の成長実感・満足度、学生の学修に対する意欲等
(大学教育の質に関する情報)
・入学者選抜の状況、修業年限期間内に卒業する学生の割合、留年率、中途退学率、教員一人当たりの学生数、学事暦の柔軟化の状況、履修単位の登録上限設定の状況、授業の方法や内容・授業計画(シラバスの内容)、早期卒業や大学院への飛び入学の状況、FD・SD の実施状況等
【参考②】把握や活用、公表の在り方について一定の指針を示すことが考えられる情報の例
(学修成果・教育成果の可視化に関する情報)
・アセスメントテストの結果、TOEICやTOEFL等の学外試験のスコア、資格取得や受賞、表彰歴等の状況、卒業論文・卒業研究の水準、留学率、卒業生に対する評価 等
(大学教育の質に関する情報)
・ナンバリングの実施状況、履修系統図の活用状況、GPA の活用状況、IR の整備状況、教員の業績評価の状況等

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1.把握・可視化の義務付けが考えられる情報の例

学修成果の把握・可視化の義務付けが考えられている情報は6つになります。なお可視化をする意義も会議資料では記載されていますが、そちらは資料をご覧下さい。

http://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/07/__icsFiles/afieldfile/2019/07/04/1417846_6.pdf

単位の取得状況

単位の取得状況といっても提示されている内容は成績から能力の達成状況まで含まれています。具体的には下記になります。

・科目名、到達目標、到達目標と「卒業認定・学位授与の方針」との対応関係、成績評価基準、成績評価手法及び評定の分布状況
学生個人の評定及び同一科目履修者内での当該評定の位置付け
・個々の学生の取得単位数、単位取得の履歴及びその時点において標準的に期待される取得単位数
・「卒業認定・学位授与の方針」に定める能力を直接的に測定することができる科目においては、当該能力の達成状況

ここで大学としてやる事が必要なのは①各科目の成績分布の公表や②(単位の実質化に基づいた)単位の取得単位数がかどうかの確認、卒業認定・学位授与の方針(以下、「DP」)に基づいた科目と評価方法の開発などでしょう。

成績評価基準や成績評価手法については既にシラバスで公表している大学が多いと思いますが、例えば成績評定は組織として各科目でまとめ、公表している例は中々見ない気がします。以前、科目ごとの成績分布一覧を作ったことがありますが、教員によって成績分布が明らかに違うケース、同一科目複数クラスなのに成績分布が違うといった事があり、あまり公表したくない大学も多いのではないかと思います。

また上記の赤字の箇所については大学として情報を出し渋る所かもしれません。学生個人の評定とはGPAを持ってかえるとすると、学生のGPAとその学生のGPAがどの位置にあるかといった事を把握・公開する必要があるかもしれません。そうすると学位プログラムごとのGPAの平均値なども明らかにしていく必要があるかもしれませんね。実際GPAの平均値は学位プログラムによって異なる事が多いです。

この単位の取得状況については、標準的に期待される取得単位数の把握が求められていますが、この標準取得単位数(例えば124単位)から、あまりに逸脱している学生が多い場合は認証評価で指摘されそうなポイントですね。

あとはキャップストーン科目でどのような学修成果の把握をするか、例えばルーブリックを使うのは、直接的なテストにするのか、複数人の教員で評価するのかといった議論が必要になりそうです。(ただキャップストーン科目は4年次のゼミとする場合が殆どでしょうが、ゼミが蛸壺化している場合は組織としてどのように評価をするかは検討しないといけないですね)

学位の取得状況

学位の取得状況については、学位を取得する為にようする平均年数ですので、留年等が多い大学でなければさほど重要な内容にはならなそうです。

学位の名称、学位に係る「卒業認定・学位授与の方針」に定める能力及び当該学生が属する学位プログラムにおいて当該学位を取得するために要する平均年数
・学生が学位取得に要した年数及び上記平均年数との比較

進路の決定状況等の卒業後の状況(進学率や就職率)

専門職養成の学位プログラムで専門職の就職率であれば話は分かるのですが、学修成果の一つとして進路があるのは疑問でもあります。

・学生の進路(進学、就職等)に対する希望状況
・学位プログラム修了者の進路(進学先や就職先等)及びその全体状況(修了者の総数を母数とする進路毎の割合等)
・特定の職域の人材育成を目指すなど、「卒業認定・学位授与の方針」に照らして期待される進路がある場合には、実際の進路動向との一致の程度

ただ就職率に関して言えば、ステークホルダーからは求められる情報ではありますし、どこの分野(業界)に就職しているかも既に公表している大学が多いですので、現状と変わらずでしょう。

学修時間

学修時間について、資料の中でもどのような集計をするのか、1時間単位か幅を持たせるのかといった事がありますが、どの学年でやるか、いつ時点のものなのかといった事は記載されていません。

・同一の学位プログラムに属するそれぞれの学生が授業内外それぞれの学修に費やした時間の平均値(①)及び当該学生の履修科目数等から想定される授業内外それぞれの学修時間数の平均値(②)

・個々の学生が授業内外それぞれの学修に費やした時間数 (③)及び当該学生の履修科目数等から想定される授業内外 それぞれの学修時間(④)

・上記①及び②、①及び③並びに③及び④の比較

これを見る限りは、履修科目数(履修単位数)から考えられる学習時間と実態がどれぐらい乖離あるかを各大学は把握すべしという内容ですね。これには2点の課題がまず思い当たります。

1つ目は、授業外の学習時間は何かという事をきちんと明確にしておく必要があります。例えば、学修行動調査ではある国家資格取得を目指す学科の4年生の授業外学習時間が非常に多かったのですが、授業アンケートで聞いた各科目の事前事後学習時間は短かったという事例があります。これは学生は回答時に、学修行動調査では資格の勉強までを授業外学習時間に入れていた為に起こった現象です。

2つ目は、学生のある時期の履修が2単位の講義科目であれば計算はしやすいのです。しかし実習や実技科目の履修があると面倒な計算になります。実習の場合は1単位あたり30-45時間の大学が定める範囲の授業時間となります。大学が実習科目全て1単位あたり30時間授業と決まっていればいいのでしょうが、本学のシラバスを見ると実習科目によって事前事後学習が必要な30単位としているものもあれば、全て実習で単位に必要な時間をまかなう45時間としているケースもありました。

またいつ、何年生に、どのように調査したかによって結果がだいぶ変わってしまうものではないかと思っています。

 

学生の成長実感・満足度

これ学生のアンケートの主観的な評価でいいとの事です。

・同一の学位プログラムに属するそれぞれの学生の、「卒業認定・学位授与の方針」に定める能力の伸長に対する主観的な評価の平均値
・「卒業認定・学位授与の方針」に定める能力の伸長に対する 個々の学生の主観的な評価

ただこれもいつ測るか、恐らくは4年生でしょうが、卒業時だけでいいのか、それとも各年次ごとで把握して経年比較をしないといけないかといった具体的な事はまだのようです。

学生の学修に対する意欲

・同一の学位プログラムに属するそれぞれの学生の、大学における学修活動への意欲の平均的な傾向
・個々の学生の学修活動への意欲

これらを見る上でアンケート調査や学習ポートフォリオ等の提示があります。ただ小規模大学にとって学修ポートフォリオシステムは非常に高価なのはネックです。またポートフォリオの運用は非常に人的コストがかかります。この辺りはどうするかは課題ですね。昔、海外のある大学にポートフォリオのヒアリングに行った時はブログに似たようなサービスを使っている例もありましたし、ペーパーでのポートフォリオも考えられますが、ちょっと頭が痛い課題です。

 

把握・可視化の在り方について一定の指針を示すことが考えられる情報

こちらは一定の指針であり義務ではありません。こちらも全部で6つありますがこちらは気になったもののみ記載します。

アセスメントテストの活用

一時期、あるテストが大学業界で多く取り入れられました。それについての是非は今回の話とはあまり関係ありませんが、アセスメントテストというのは、それが客観的であり適正かといった事などの検証が必要になります。

これを見ると、国の指針からという事で各社からの様々なテストが各大学へアプローチするかもしれません。ただ私はアセスメントテストより、成績評価の厳格化と間接評価を組み合わせてやっていけばいいのではないかと考えています。

そもそもアセスメントテストは値段が高くて、4年生全員に導入するだけでも定員厳格化と消費税アップのダブルパンチをくらう小規模私学には導入はかなり難しい話です。

TOEICやTOEFLの活用

大学や学部等の全体で一斉受験している所であればこれはあまり問題にはならないのですが、個人受験しかしていない大学は難しいですね。
例えば学修成果の把握をするから個人受験の結果を出せと言われても自分であればたぶん提出しません。それなら大学で受験料を負担してくれと言われるでしょう。

卒業生に対する評価

DPに定める能力に照らした卒業生の雇用主等からの評価が該当するようです。数は少ないですが、就職先にアンケートをしている大学はありますね。

www.hirosaki-u.ac.jp

 

終わりに~学修成果の可視化とコストの課題

学修成果の可視化は大学としてやらなければならないという事は重々承知しています。ただそれのコストはかなりあります。例えば卒業論文に学科でルーブリックを導入する場合、「ルーブリックを作ったから使ってね」ではなく、ルーブリックをやってみてカリブレーションを何回もして評価の目線合わせをする必要があります。

評価を外から持ってきて、それを大学でやればいいという訳ではないはずですので、今から大学として色々と考えないといけないかと感じています。