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経団連の大学への提案「今後の採用と大学教育に関する提案」の概略のマインドマップと所感

経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)から、提言として「今後の採用と大学教育に関する提案」が12月4日に出されました。

経団連:今後の採用と大学教育に関する提案 (2018-12-04)

この提言は、経団連からの採用だけではなく大学教育に踏み込んだ内容になっています。

提案には複数のスライドで構成されている概要版も公表されていますが、大学で働く立場として重要と思われるキーワードから、提案を1枚のマップを試作し、所感をまとめました。

なお、今回の提案は「早くから自由に採用活動やりたいから、学生や大学は早くからその準備をしなさい。」というのをヒシヒシと感じる内容です。

 

今後の採用と大学教育に関する提案 要点マインドマップと要点マップ

経団連の提案をタブレットのマインドマップアプリを用いて、マインドマップを試作しています。

今後の採用と大学教育に関する提案の要点マインドマップ

 

そしてマインドマップをさらに要約したマップを作成しました。

今後の採用と大学教育に関する提案の要点マップ

これを見ると、今回の経団連の提案は企業にヒアリングをした結果をもとした企業の採用の現状や課題、今後予想される社会情勢をふまえ、大学だけではなく学生や文部科学省に対しても要望を出しています。 

 

Ⅰ.企業の新卒採用の現状と今後に向けた課題整理

1.新卒採用時の企業の対応の現状

ヒアリングをもとに経団連の企業の新卒採用の現状と課題がまとめられています。
採用は、文系はポテンシャル採用、理解はジョブ型採用と相対して説明している一方、専門職種も合わせて記載されています

ここでは企業側が学生に求める資質・能力を記載しており、①社会人の資質と②学生に求める能力の例示が出されています。

まずは資質と能力の定義をしておきます。日本国語大辞典を見ると「資質」と「能力」は次のように定義されています。

資質とは

生まれつきの性質や才能。資性。天性。

能力とは

(1)物事をやり遂げることのできる力。事をなし得る力。有効にはたらく力。はたらき。才能。
(2)({英}faculty の訳語)心理学で、知性・感情・記憶などの精神作用の実体として仮定されたもの。→能力心理学。
(3)法律上、一定の事柄について必要とされる人の資格。権利能力、行為能力、責任能力、犯罪能力など。民法上は、法律行為を単独で完全にすることのできる行為能力をいう。

これを見ると、社会人の資質とは社会人になった時に必要な性質や才能と解釈すればいいでしょうか。そうすると①社会人の資質も②学生に求める能力も、入社するにあたって求めているものと思っていいのでしょう。

今後、(新卒採用等で)検討が必要な課題

新卒採用のあり方は、一括採用ではなく通年や対象の多様化が挙げられています。また高度な人材採用についてジョブ型雇用の仕組みや採用の多様化を求めています。

ただ企業が求める人材像の共有とありますが、経団連側は企業が求める人材像にあった学生を育てる事を大学に求める事が読み取れます。例えば、企業が求める人材像に対応した人材育成のための学修の選択や課外活動、さらには早期且つ長期のインターンシップなどです。

ただ早期・長期のインターンシップは現実的にはカリキュラムや卒業単位の124単位には組み込みにくい、課外活動にした場合の学生の負担などを考えるとあまり現実的ではありません。

むしろ、4年制の場合は600時間以上の企業実習が義務付けられた専門職大学が適切でしょう。

また今回、ジェネラリストに対して「「就社」ではなく「就職」」と述べられています。もしかすると人材の流動化といった意味があるでしょうか。

でも、ジェネラリストで果たして、人材の流動化が進むのでしょうか?単に経団連側の企業達が人材を使いつぶしやすいような印象を受けます。 

 

Ⅱ.大学に期待する教育改革

経団連側が大学に対して望むことと言っていいかと思います。まず、さほど2040年度高等教育グランドデザインと変わらないですが、経団連側のご都合の書き方をしています。

大学にどのような教育を求めているか

今回、リベラルアーツやリテラシーと提案の中に記載されています。

ここでのリベラルアーツは、「倫理・哲学や文学、歴史などの幅広い教養」と定義されています。またリテラシーは「読み書きやある分野に関する知識・能力」という意味であり、情報科学や語学教育が求められています。

また分野別の教育にも言及しており、理系では語学教育の高度化、文系でもプログラミングや統計学を求めています。

でも「企業が求める人材像の共有の在り方」では「大学の段階から将来のキャリアを念頭に置いた専門知識の習得が求められる」とあるので、リベラルアーツのみならず専門知識とも言っているのは忘れてはいけません。

まあ何でも企業が必要としている能力は大学でパッケージにして詰め込みなさいといっている気もしてなりません。

大学教育の質保証

経団連は成績評価の厳格化、少人数教育、実務家教員について述べています。ただ少人数教育ではPBL(project based Learning)のみ記載しています。何故これしか書いていないのかは、企業で働くうえですぐに役立つ力を育成したいでしょうか。

今回非常に気になるのは成績評価についての指摘です。成績は、試験などによる一時的な知識の習得状況や授業への出席率の評価だけではなく、学生がどれだけ主体的に学び、深く考え抜いたかというプロセスや知的作業の結果を評価するものとすべき

到達度評価というよりプロセスも評価しなさいと言っているのでしょう。ただ頑張った人は報われるというのは分かりますが、教育の順次生体系性といった観点も含めて考えると頑張ったけど理解はしてないよ、でも単位は取ったから次の応用科目を履修するという事が仮に起こってもいいのでしょうか。

大学のグローバル化と学生の早期からの学び

グローバル化にあたって、「人材育成のために異文化や異なる価値観を体験させることが重要」だそうです。ここでは海外留学やギャップイヤーの取得が奨励・促進が提案されています。

情報開示の拡充と学修成果の見えるか

学修ポートフォリオ推しの経団連ですが、経団連加盟の企業で儲かる企業がありそうですね。(例えばベ●ッセとか。)

ただ学修成果について、「学部内での相対的順位の表示なども検討すべき」とあるのは引っかかります。大学内で成績、例えばGPAを学科ごとに見た場合、本学では学科によりGPAの平均値が異なります。

また相対的順位はGPAで出せますが、それが正しいのしょうか(なお、奨学金や総代選出などはGPA等を用いる事はあります)

初年次教育におけるキャリア教育の実施

ここ、印象を一言でいうと「企業担当者がウブな学生に自慢したい」です。また「学生が企業で実地の職務に従事することが重要」だそうです。

そもそも従事は「ある物事に関係して、それを仕事としてつとめること。たずさわること」(日本国語大辞典より)という意味があります。学生のキャリア教育ではなく、兵隊として使いたいだけなのでしょうか。

あと、何でもかんでも学生に対して1~2年生に求めすぎではないでしょうか。早期からのインターンシップや企業での実地の実務に加えて、早期からの異文化や異なる価値観を体験する。さらに授業がある。経団連は学生に何をさせたいのでしょう。

まとめ

今回の提案は「金は出さないけど、孫の教育に口を出す祖父母」という印象が非常に強いです。言わんとしている事は分からなくもないですが、大学で働いている立場としては、

これが良い教育というのであれば、大学側に求めるだけではなく、良い手本を示してはどうでしょうか。例えば経団連が全額寄付して、学費無料の専門職大学をつくってみてはどうだろうかと思います。