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教育効果を授業アンケート等で説明する違和感

2020年9月23日(水)に立正大学から興味深いプレスリリースが出ました。

www.u-presscenter.jp

タイトルだけを見ると、前学期にコロナ禍においても教育を何とかきちんと続けようと取組んだオンライン授業は効果があったと理解出来ます。また調査を見ると、おそらく授業アンケートに類するものであると解釈しました。

特にオンライン授業は、「教育の質が低い(悪い)」といったご意見も聞く事があり、大学としてはオンライン教育の効果についてどうだったのかを検証し、肯定的な成果があったと出したいと考えている大学は少なくないはずだと思います。

ただプレスリリースを見るとどうも違和感を感じています。しかし大学によって調査をどのように位置づけるかは異なります。立正大学はプレスリリースのように公表していますが、あくまでも私個人の違和感であり、それに対するまとめをしてみます。

授業アンケートは単純に経年比較していいのか

大学は沢山の調査が行われています。 

www.daigaku23.com

そのうちの一つである授業アンケートは比較的昔から行われているアンケートです。昔は各科目で学生の評価をもとに授業改善を行うという位置づけが強かったと思うのですが、近年は各大学の授業アンケートの設問を見ると能力の育成として「この授業で〇〇が培われたか?」というような設問が含まれ、アセスメントの一つとして使われているのだろうなと思うケースもあります。

さて、授業アンケートはどのレベル「科目(教員)・学位プログラム等・大学」で見るのか、どれを重視するのか、分析はどうするのかは大学によって考えが異なることでしょう。

特に大学や学位プログラムレベルだと経年変化で見るという事もするでしょう。対外的には経年変化で例えば授業アンケート結果で学生の授業外学習時間が伸びたというのは非常に分かりやすい成果でもありますね。

ただ厳密にいうと回答者が毎年度異なるものを経年変化でまとめていいのかといった批判は当然ありますので、結果の限界というのでしょうか、それを認識しなければならないと思います。

調査や統計の先生からフルボッコにされそうな案件なので、私は経年の数字は出したことがありますが、そこからどうだったかは報告書には書きにくいと感じています。

満足度=教育効果か

昔、ある大学(学校法人)に話を聞いた時に学生等の満足度を非常に重視していると言っておりました。話を聞いた時は「学修成果より満足度重視」という方針は非常に考えさせられるものでした。

この学生満足度については、例えば授業全体の教育に対する満足度は授業アンケート、大学の環境は学生生活調査、卒業時の満足度は卒業時調査などで見ることが出来ますね。

ただ授業アンケートの満足度を教育効果として出すのは私自身は躊躇しています。例えば授業アンケートの満足度とは何なのか?、教育効果とは何か、満足度は何に規定されるのか、他の学習成果とはどうなのかなと様々な面から定義づけや検証して、授業アンケートの満足度と教育効果がきちんと説明できるようにしなければならないと思っている為ですね。

例えば本学の授業アンケートの満足度の大きな規程要因の一つとして「教員の話し方」が毎年出てきます。

授業アンケートだけで教育効果が高まったといえるのか

今回の一番の違和感は一つの調査だけで教育効果が高いとしている事です。こんな報告だしたら高等教育系の学会だとフルボッコだろうなと思いつつ、プレスリリースだから関係ないのかとも思うのですが…。

自分自身は今まで学習成果(アセスメント)に関する仕事をしてきたのもありますが、学生の学習効果としてアセスメントを一つの指標だけで見てはいけないという考えが根底にあるので他のアセスメントの結果も検証しないと教育効果について論じる事が出来ないと思う訳です。

そもそもアセスメントには様々なツールがあります。これを整理したものとして山田先生の学習成果アセスメント・ツールの類型の図が分かりやすいです。

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図1 学習成果アセスメント・ツールの類型(山田2013)

また各大学はガイドラインに沿ったカリキュラムポリシーを策定している場合、ポリシーの中にどのように教育評価を行うかについて記載をしている大学もあるでしょう。それらも踏まえて、色んな面から今年度のオンライン教育の評価を行わなければならないのだと考えています。

今回はそのスタートとして、授業アンケートの結果があったと捉えるもので、今後成績やいくつものアセスメントツールを検証し、その結果をもとに大学が教育研究の改善を行う必要があるのだと思います。

参考文献

山田剛史,「学びと成長を促すアセスメントデザイン:第3回 認知的側面に偏らない評価指標設定に知恵を絞ろう」『Between』2013年8-9月号,pp32-34.

http://www.shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2013_08_assessment.pdf (2020年9月24日閲覧)