※本記事は2022年10月1日改正について一部追記しました。なお、基本的な考えとして改正前のものを軸にしています。
「大学生の勉強時間が足りない」と言われて続けています。では勉強時間が「足りない」の根拠は何でしょうか?
例えば諸外国の調査結果との比較で話がされる事があります。また日本の大学の単位制度の観点から論じられることもあります。ただ自分もそうでしたが、学生の時は単位制度についてはよく分かりませんでしたし、大学の単位制度がどのようになっているかをきちんと説明出来ない人も大学の中にはおります。
そこで今回は、大学生や大学で働き始めたばかりの人が分かるように大学の単位制度について解説をしていきます。
また遠隔授業に関してはこちらが関連記事になります。
なお、設置基準の改正前と改正後の話がでてきますので、R4年9月までの大学設置基準を旧基準、R4年10月以降の基準を新基準と本記事では表記します。
- 大学の単位制度とは
- 単位制度の学習時間の考え方
- 実験、実習及び実技の学習時間と単位の考え方
- 新基準による学習時間の把握のさらなる必要性
- 何故、大学職員は単位制度を理解しなくてはいけないか
- 100分授業の大学の増加
- (新型コロナウイルス対応関連)授業実施回数と実施に係る私論
大学の単位制度とは
今の(大学の)単位制度は、第二次世界大戦後にGHQの指導により、米国に倣って導入されたものといわれ、各科目の学修の必要な時間を単位としています。
また単位は1単位45時間が原則ですが、これは社会人が1週間に労働する時間(平日8時間・土曜5時間)であるというのが定説です。(ただ諸説あります)
では単位制度の時間(1単位=45時間)は何をもって定められているのでしょうか?
この単位制度の根拠は「大学を設置するにあたり、必要な最低の基準」である大学設置基準の第21条となります。
(単位)第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、第二十五条第一項に規定する授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、おおむね十五時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位として単位数を計算するものとする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。3 前項の規定にかかわらず、卒業論文、卒業研究、卒業制作等の授業科目については、これらの学修の成果を評価して単位を授与することが適切と認められる場合には、これらに必要な学修等を考慮して、単位数を定めることができる。
この省令で特に押さえておくべき点は「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもって構成する」です。
一単位の授業科目は45時間の学修が必要だという事が基本です。
<以下参考、R4の大学設置基準改正前の単位制度>
第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。
三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合については、その組み合わせに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
3 前項の規定にかかわらず、卒業論文、卒業研究、卒業制作等の授業科目については、これらの学修の成果を評価して単位を授与することが適切と認められる場合には、これらに必要な学修等を考慮して、単位数を定めることができる。
単位制度の学習時間の考え方
大学の単位に関して、新基準には次のように記されています。
一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、第二十五条第一項に規定する授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、おおむね十五時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位として単位数を計算するもの
さっき「大学設置基準に1単位は45時間の学修と必要とする」だったのに「15-45時間の授業でいいの?」と思うかもしれません。初めて読む人は何を言っているかが分かりにくい文ですね。
この点ですが、まず1単位は基本45時間であるが前提です。
この45時間の内、15時間から45時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもって1単位とできるということです。つまり15~45時間は大学によってフレキシブルに設定が出来ます。
(※大学の上位規程である学則(「大学 学則」で検索かけるとたくさん出てきます)を見ると必ずこの単位に関する部分があるかと思います。いくつか学則を見てみましたが、設置基準(旧基準)に則って定めている大学が多いようです)
この大学が定める時間の授業ですが、教室内等で授業を行う時間とイメージして下さい。要は、時間割で組まれている時間の授業時間です。
講義演習で1単位の場合
例えば、旧基準に沿ってみていきましょう。1単位の講義演習は45時間で、授業時間を15時間とした場合、学習時間の内訳の例として下記が考えられます。
1単位だと45時間の内、授業時間は15時間必要です。45時間-15時間で残りは30時間となり、この30時間は授業外での学習時間、つまり事前事後(予習復習)の時間となります。
例えば1単位の講義の授業で15回実施するものはあまりないかもしれませんが、例えば15回の授業で授業時間が30時間で開講すると、事前事後学習は毎回の授業で(事前事後合わせて)1時間だけやればいい事になります。(上図の破線で囲まれた箇所の部分の話です。)
もちろん新基準では45時間の授業(事前・事後学習なし)で行うことも可能です。
なお、1単位講義は資格系の学科などで、専門科目で単位を沢山取らないといけない時に英語や教養科目を1単位講義科目とする場合があります。
講義演習で2単位科目の場合
ただ、セメスター制度の大学も多く、半期で2単位の授業がかなりあると思います。そこで2単位(1単位の授業時間は15時間と設定)の場合を見てみましょう。
大学が講義科目の授業は1単位は15時間とした場合のケースで2単位の場合、必要な授業時間は下記の通りです。
授業時間は「1単位15時間の授業時間×2単位=30時間(授業時間)を基礎としますので、1単位は45時間の学修(時間)を忘れてはいけません。2単位ということは90時間の学修時間が必要です。
90時間(単位)ー30時間(授業時間)=60時間。つまり60時間は授業時間以外での学習の時間となるわけです。これは15回の授業の2単位の講義だと、15回×2時間授業時間で、各回の授業に2時間の事前学習と2時間の事後学習が必要です。これがオーソドックスですね。
各回の授業で4時間もの事前事後学習は多いよと思う場合は、授業時間60時間の講義もなくはありません。そうすると、15週で授業を終わらせる場合は、週に2コマの授業を入れて、毎週の事前事後学習は2時間にする事も制度上は出来ます。(ただこういう事は大学側の負担もありますし、殆ど見ない例です)
さらに4単位の講義で15回だと週に2コマの授業を実施、事前事後学習は毎週8時間があるという場合もあります。
最初の話に戻りますが、2単位の科目だと60時間の事前事後学習が必要なのに、実際にはそんなに事前事後学習をしていない事が多いので「学生は勉強していないから足りていない!単位制度が実質化していない」と言われている訳です。
特にオンライン授業でこんなに課題がでるとはというニュースが当時でましたが、単位制度から考えると当然のことだと思います。
実験、実習及び実技の学習時間と単位の考え方
旧基準では実験、実習及び実技の学習時間は下記のように定められていました。
(旧基準)実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする
これをもとに1単位あるいは2単位について見てみます。(実習は4単位などもありますが、考えは全て同じです)
実験、実習及び実技については30-45時間までを授業時間と出来ます。つまり45時間全てを授業時間に全振りする事も出来ます。
1単位30時間で計算すると、2単位の実習や実験であれば、60時間の授業時間が必要になります。例えばスポーツの実技の科目2単位の場合は、週に2コマ(連続)で授業を行い、授業時間で60時間を確保し、残りの30時間を事前事後学習といった事もあり得ます。1単位の実習で集中授業であれば、1日9時間程度で5日間で45時間とする場合もあるでしょう。
ただし、R4年10月以降の新基準では、大学が実験や実習でも自由に定めることが可能です。例えば、セメスターで実習2単位の授業だと今まで週2コマだったのが事前事後学習を増やし、週1コマと設計することもできます。
新基準による学習時間の把握のさらなる必要性
令和4年度10月での大学設置基準の改正により、大学は自由に単位での必要な授業時間を設定することが可能となりました。講義などはあまり変わらないかもしれませんが、実技や実験などは大きな変更です。
いっぽう、(量的な学習時間として)単位がきちんと実質化しているのかは、今後より厳しくみられるかもしれません。そのためにはシラバスに事前事後学習時間の目安の記載(可能であれば授業回ごと)や、各種調査による実際の学習時間の測定なども必要でしょう(既に補助金などの項目で求められてはいます)
何故、大学職員は単位制度を理解しなくてはいけないか
まず、単位、特に講義や演習は授業と授業外の学習で構成されていることを押さえましょう。その上でで教育そのものではなく教育研究支援として授業外学修を増やすための取り組み(例えば学習空間の構築など)が職員に求められます。例えば、ラーニングコモンズなどの教育研究環境の充実などがあるかと思います。
また最近は公開しているシラバスに授業時間について記載するケースが(補助金の条件もあり)増えました。たまにこの部分を大きく間違えているシラバスもあって、ここをきちんとチェックできるようになる事は最低限求められる能力知識だと思います。
100分授業の大学の増加
近年は、さらに100分授業で14週の授業を行う大学も増えてきています。15週確保する為には学年暦上、かなり切羽詰っており、14週にする事で余裕をもったスケジュールを組むことが出来ます。
ただ単位制度についての考え方、特に事前学習と授業と事後学習がある事は変わりません。まずはきちんと基本を理解する事が不可欠です。
(新型コロナウイルス対応関連)授業実施回数と実施に係る私論
2020年度の新型コロナウイルス感染拡大防止に伴い、授業実施開始日を遅らせるといった大学があります。そこで授業回数をどうするのかといった懸念もあるでしょう。
詳細は「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&A等の送付について」に書いてありますが、要点だけ書いておきます。
・授業の期間、つまり10週あるいは15週の期間を弾力的に取り扱えるのは元々ありました。例えば大学によっては、地域のPBLを行う授業などがあれば講義と土曜日に授業を行い、週数は少ないけど、1単位45時間の学修時間を確保するという事をやっている事はありませんか?
⇒講義2単位であれば、15週を原則としつつも、学修時間90時間を担保出来ると大学が考える方法を検討する。(極論だと6月から集中で行う事も可能かもしれない。休みなくやれば1日8時間×90日で16単位分となる)
・弾力的とは、1単位45時間の学修を少なくすることと同義ではありません。今回の場合は、課題を出す、遠隔授業、夏に一部を補講(集中)で行うなどが考えられます。
・面接(対面)授業に遠隔授業を導入する場合は、面接が主となるように配慮する。仮に遠隔授業のみの場合は、遠隔授業60単位上限に留意するだけではなく、学則や規程の確認と必要に応じて改正を検討します。
(更新 2022年10月28日)