近年、大学の質保証やアセスメントに関する議論が盛んです。学生のアウトカム(何が出来るようになったか)が重視され、大学は成績評価だけではなく、ポートフォリオやルーブリック、そして各種調査などがやるものが格段に増えました。
特に学生に対する調査は、昔は学生生活実態調査や授業アンケートだったのが、入学時調査・在学中に行う学修行動調査、卒業時調査などを行う大学もあります。
この理由として、学生の教育成果を測るから調査を始めたという内部・自発的な理由ではなく、外部から求められたからという理由もあります。
その理由の1つとして私立大学では、補助金(私立大学等改革総合支援事業や経常費補助に関する「教育の質に係る客観的な指標」)があると考えられます。これらの補助金では、設定された設問の要件を満たす場合は得点がつき、総得点数によって補助金が変わるものです。
特に私立大学等改革総合支援事業は今までに学修行動調査、卒業時調査、卒業生調査の実施を私立大学に求めてきました。
※学修行動調査は2019年度は教育の質に係る客観的な指標の設問
さて、令和元年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1では、新規の設問が沢山追加されました。今年度、該当の補助金を申請された大学はかなり苦労したかと思います。
昨年の改革総合支援事業でハードルが高く、各大学は昨年慌てて対応した調査として「卒業時調査」があります。
これは「学修成果に係る自己評価に関する」調査と定義され、卒業時または卒業予定の段階で実施したアンケート調査を実施しているかが問われます。さらに回収率が80%以上でないと満点が取れない設問なので、かなり厳しいです。また卒業時調査については調査分析結果を公表することが求められています。
そこで今回は2019年10月時点に、大学で公開している卒業時調査(の実態)について調べたものをまとめました。
なお調査は、Googleで「大学 卒業時調査」と検索し、上位10ページに出てきた2017年度及び2018年度に実施されたと確認できる大学の結果のみを対象としています。ついては、全国の大学の実態を網羅したものではありません。
卒業時と卒業予定の定義について
卒業時調査では、卒業時または卒業予定の段階で実施した調査と要件付けられています。ただこの辺りは定義があいまいな事があるので、まずはきちんと意味を確認します。
卒業時とは何を意味するか
卒業時の意味を検討するまえに、まずは卒業について確認していきます。
まずは卒業とは何でしょうか。例えば大学設置基準では次のように記載されています。(大学設置基準第32条)
第三十二条 卒業の要件は、大学に四年以上在学し、百二十四単位以上を修得することとする。
この卒業要件は、必ず大学の学則や履修規程などに規定されているかと思います。
また卒業要件を満たすと、卒業については学長が決定を行うにあたって、教授会で卒業について意見を述べる手続きがされます(学校教育法)
第九十三条 大学に、教授会を置く。
2 教授会は、学長が次に掲げる事項について決定を行うに当たり意見を述べるものとする。
一 学生の入学、卒業及び課程の修了
二 学位の授与
三 前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、教授会の意見を聴くことが必要なものとして学長が定めるもの
本学の場合、後学期の授業が1月に終わり、2月下旬に成績が出て、3月最初の決められた日の教授会で卒業について議題が上がります。卒業が決まるのは教授会終了後、学長が決定をしますので、3月2週目ぐらいに決定します。
卒業時とすると、本学の場合は卒業が決定した時なので、3月中旬が適当であろうと考えています。
卒業予定とは
就職活動では卒業見込証明書を発行し使う事があるかと思います。このように大学では卒業見込という言葉は一般的だと感じます。卒業見込証明書はおそらく4年生になると大学が発行してくれるようになりますね。
ただ卒業予定証明書という名称は殆ど聞いた事はありません。(卒業予定者へというネット上での掲示はたまに見ますね。)
卒業予定という言葉を聞くのは、キャリア関連、特に就職活動かと思います。例えば、大学の就職率に関する資料などに就職予定者数と記載するケースもあるでしょう。
また就職状況調査でも、卒業予定者とされています。
平成29年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(12月1日現在):文部科学省
上記の文科省の調査だと10月から行う調査から卒業予定者としているようです。
インターネット上だと、就活に関するサイト等で「卒業見込み」と「卒業予定」の違いについて解説をしているようですが、明確なエビデンスに基づいたこれだというものもありません。
そこで「予定」と「見込み」について言葉の定義を確認すると下記の通りとなります。
【予定】
前もって定めておくこと。あらかじめ見込みをつけること。また、その定められたことや見込み。
"よ‐てい【予定・預定】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-10-18)
【見込み】
(1)見た様子。みば。みえ。見かけ。外観。
(2)目をつけてねらいとするところ。手に入れようとめざしているもの。めあて。
(3)先行きの予想。また将来の可能性や望み。あて。
(4)刀の鍔などの細工物で、入念な細工をした物。
(5)茶碗や鉢の内面。
(6)建築で、部材の側面。
"み‐こみ【見込】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-10-18)
どうも日本国語大辞典の言葉の説明を見ると見込みより予定のほうが確実性が強いようです。
卒業時と卒業予定について
今までをまとめると、個人としては4年次前期までは卒業見込み、4年次後期からは卒業予定としてもいいかと感じます。
ただ、大学によっては教学は卒業見込み、就職は卒業予定と使うケースもあるでしょうし、時期によって変えている事もあるでしょう。また大学側がそのように定義しても、改革総合支援事業に関しては卒業予定と判断するのは先方ですので注意しましょう。
(ふと思うのは、改革総合支援事業の設問を作った人はあまり意識せずに卒業時調査の要件を書いたのではないでしょうかね)
大学の卒業時調査の実態
大学ではどのような卒業時調査が行われ、回収率はどうなっているのでしょうか?
今回、「卒業時調査」で検索をかけた結果をまとめました。なお本記事は一度2018年度に調べています。そこで2019年度調べた結果と2018年度調べた結果を掲載します。
2019年10月にピックアップした大学と卒業時調査の公表URL
〇京都精華大学
〇工学院大学
〇京都産業大学
https://www.kyoto-su.ac.jp/about/torikumi/ir/s1gk4u000000s2k8-att/h30_report01.pdf
〇横浜商科大学
〇大正大学(概要は把握できていないため、設問のみ参考)
https://www.tais.ac.jp/guide/estimation/
〇大阪薬科大学
〇法政大学
各種アンケート調査結果|法政大学 総長室付 大学評価室|法政大学
〇宮崎国際大学
https://www.mic.ac.jp/files/uploads/investigate_graduate.pdf
〇関西学院大学
〇東京電機大学
〇聖心女子大学
聖心女子大学 | 2018年度 新卒業生アンケート結果のご報告
〇鶴見大学
〇帝塚山学院大学
https://www.tezuka-gu.ac.jp/about/satisfaction/pdf/sotsugyo_2018.pdf
〇星槎道都大学
2018年度卒業時調査の概要
では、先ほど一覧にした大学の卒業時調査の概要はどうなっているかを下記の表としてまとめました。
大学名 | 実施年度 | 調査目的や概要 | 実施期間 | 方法 | 対象者数 | 回答者数 | 回答率 |
京都精華大学 | 2018 | 本学学生の 4 年間を通した学びの成果を把握するための基礎データを収集し、本学の教育の質向上を図る。 | 2019/1/15(火)~2019/3/22(金) | 教学システムのWEBアンケートフォームより実施 | 700 | 286 | 40.9% |
工学院大学 | 2018 | 1174 | 93.5% | ||||
京都産業大学 | 2018 | 京都産業大学学長室 IR 推進室では、本学学生が本学でどのような学びをし、どのような成果を得られたのかを把握し、本学の今後の展開に生かすことを目的として、本調査を実施しました。 | 2019 年3月 16 日・17日 | 卒業式当日に調査票を配付、回収 | 2739 | 2267 | 82.8% |
横浜商科大学 | 2018 | 237 | 199 | 83.5% | |||
大阪薬科大学 | 2018 | 卒業時調査として、平成 30 年度薬学部卒業者を対象に、本学の教育満足度、教育全体を通じて身についた能力、本学の施設・設備の満足度、学生生活の経験、実社会において必要と考える能力、今後本学の教育や学生支援に期待すること、生涯学習に関して本学に期待すること等についてアンケートを実施しました | 327 | 270 | 82.6% | ||
法政大学 | 2018 | 9 月卒業生:2018 年 9 月 15 日~2019 年 4 月 17 日回収分までを集計対象。 3 月卒業生:2019 年 3 月 24 日~2019 年 4 月 17 日回収分までを集計対象。 |
学位記交付会場または学部窓口にて配布、回収 | 6172 | 5639 | 91.4% | |
宮崎国際大学 | 2018 | 78 | 95.0% | ||||
関西学院大学 | 2018 | 関西学院大学を卒業する学生を対象とした「卒業時調査」を実施し、教育内容・方法のあり方などを点検・評価し、これからの改善方法を考える際の資料として活用しています。 | 2019年3月18⽇(月)卒業式当⽇ | 2018年度学部卒業生全員 | 90.3% | ||
東京電機大学 | 2018 | 卒業生の現状の満足度を可視化し、改善ポイントの明確化、優先順位付けを行う | 2019年3月18日配布・回収(一部後日回収) | 学位記授与時に配布 | 右記は学部生対象のみ | 1667 | 92.0% |
聖心女子大学 | 2018 | ミッション推進会議と入試課・広報課の合同で満足度や成長実感を聞いているものです。 | 89.4% | ||||
鶴見大学 | 2018 | 平成28年度より、鶴見大学・鶴見大学短期大学部では、主に学生の学修成果を測定する。 | 平成31年3月14日 | A4サイズ1枚のアンケート用紙を卒業式後の学位記授与式各会場で配付し、式典終了までに回収する。 | 729 | 713 | 97.8% |
帝塚山学院大学 | 2018 | カリキュラムや教育内容への満足度、成長実感、卒業時点における本学に対する評価を把握すること | 2019 年3月 20 日卒業式当日 | 卒業式後のゼミ単位での卒業証書授与時に最終進路調査票」の裏面を用いて回答を得た。 | 335 | 287 | 85.7 |
星槎道都大学 | 2018 | 卒業生を対象に本学の提供した教育及び学生生活支援に対する満足度について、具体的に把握すること | 平成 30 年度卒業式当日(平成 31 年 3 月 15 日)に調査 | 164 | 143 | 87.2 |
今回の大学は私立大学等改革総合支援事業で回収率が80%以上か50%以上が求められている関係からか、回収率が高い大学が公開しているだけという可能性もあります。
調査の目的としては質向上や学生の学修成果測定が殆どですが、満足度を把握するという大学もいくつかあります。
調査の実施方法については、回収率を高めるために卒業式(学位授与式)当日に配布回収が多いですね。WEBだと期間を設けてもどうしても回収率が低くなってしまうのかもしれません。(これは2018年度に調べた下記の結果を見ても同様です)
2018年9月にピックアップした大学と卒業時調査の概要一覧
これらの調査について、調査実施期間や実施方法、そして回答率など公表されている範囲でまとめました。(以下は、2018年度9月に調査したものです。記録として残しておきます)
終わりに
回答率を高めるには卒業式に実施するのが良さそうですが、回答する時間があまり取れないこともあるので、質問内容を厳選するといった工夫が必要かもしれません。
また回答率を高める工夫として面白いものにICUがあります。
ここでは「期間中に回答してくださった方には卒業証明書(日・英)、成績証明書(日・英)を各1通ずつ無料で差し上げます。」との事です。