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財政制度分科会から見る高等教育や私立大学の将来~定員割れ大学の補助金~

 2018年10月24日に開催された財政制度分科会の資料が10月25日に公開されています。 

www.mof.go.jp

この分科会では、「文教・科学技術」、「エネルギー、中小企業、環境、出入国在留管理・治安関係」「防衛」についての資料が配布・公開されています。

この「文教・科学技術」の資料としての論点は次となっています。

論点1 公財政教育支出
論点2 幼児教育の無償化
論点3 義務教育
論点4 私立高校授業料の実質無償化
論点5-(1) 高等教育<教育の質の確保と経済的負担の軽減>
論点5-(2) 高等教育<私立大学の質の向上>
論点6-(1) 科学技術<科学技術関係予算>
論点6-(2) 科学技術<国立大学法人の質の向上>
論点6-(3) 科学技術<官民の役割分担と執行上の問題>

今回は、出てきた資料を見て財務省がどのように高等教育や私立大学について考えているかについてです。

教育の質の確保と経済的負担の軽減

資料として出されているOECD「Education at a Glance 2018」では、日本の高等教育進学率は80%、学位保持率は69%と示しています。

学位保持率は、最初は人口に占める学位保持者の割合かと思いがちですが、ここでは「高等教育課程(2年生大学等も含む全高等教育課程)の初回卒業率」と解説されています。

また所得階層別の高等教育進学率は、中所得層は(OECDの)平均並のアクセス機会の確保がされ、低所得層のアクセス機会がやや低いと指摘しています。

ここについてまとめるとこんな感じです。

  • 既に日本は進学率も卒業率も高い
  • あとOECDの平均より上回っているから問題ない(?)
  • 低所得層の進学だけはちょっとフォローしないといけない

以前「2位じゃダメなんでしょうか?」が流行語となりましたが、「平均じゃダメなんでしょうか?」と言っている印象を受けます。

低所得者層の支援と大学側の要件

高等教育へのアクセスの均等の方策として奨学金制度があります。例えば有利子の奨学金や無利子の奨学金、給付型の奨学金、さらには授業料減免の制度があります。さらに今後は高等教育段階の教育費負担軽減が、2020年4月から実施予定です。

この教育費負担軽減に関して、支援対象者や対象となる大学について、資料の中で改めて要件の確認がされています。

(⽀援対象者の要件)
① ⾼等学校在学時の成績だけで否定的な判断をせず、レポートの提出や⾯談により本⼈の学習意欲を確認
② ⼤学等への進学後については、その学習状況を毎年確認し、
1年間に取得が必要な単位数の6割以下の単位数しか取得していないとき
・ GPA(平均成績)等を⽤いた客観的指標により成績が下位4分の1に属するとき
は、当該学⽣に対して⼤学等から警告を⾏い、警告を連続で受けたとき、退学処分・停学処分等を受けたときは、⽀給を打ち切る。

支援対象者は、AO入試や推薦入試は面接があるのでそこで確認できます。ただ一般入試(筆記試験)だと、学習意欲の確認はレポート提出や面接実施が必要となると思います。

年間に必要な単位数は、年間や半期で履修できる単位の上限を設定するCAP制度によって変わりそうです。私が知っているCAP制度では、一番少ないものは半期で16単位もありますし、年間で50単位に近い大学もあります。前者だと年間19単位未満、後者だと30単位未満がボーダーでしょうか。CAP制度の運用によって難易度は変わるかもしれないと感じます。

(⽀援措置の対象となる⼤学等の要件)
実務経験のある教員が卒業に必要な単位数の1割以上の単位に係る授業科⽬を担当するものとして配置され、学⽣がそれらを履修できる環境が整っていること。
② 理事に産業界等の外部⼈材を複数任命していること。
③ 授業計画(シラバス)の作成や評価の客観的指標を設定し、適正な成績管理を実施・公表していること。
④ 法令に則り、財務情報と教育活動(定員充⾜、進学・就職の状況)に係る情報を含む経営情報を開⽰し、多くの国⺠が知ることができるようホームページ等により⼀般公開していること。
専⾨学校については、外部者が参画した学校評価の結果も経営情報の⼀環として開⽰していること。
(注)例えば、経営に問題があるとして早期の経営判断を促す経営指導の対象となっており、かつ、継続的に定員の8割を割っている⼤学については、対象にしないことなどを検討する

 実務家教員については、過去記事でいくつか指摘をしています。 

www.daigaku23.com

「評価の客観的指標を設定し、適正な成績管理を実施・公表」とありますが、具体的なイメージはあるのでしょうかね。本学も検討してますが、学部や学問分野によって考えも違うでしょう。(KPIとか、数値で全て管理できるとか本気で考えてそうです)

大学生の学修時間は小学生よりも短い

スライド32枚目に、学校段階別の学修時間(1日あたり)で小学生は5.9時間、大学生は4.4時間とあります。だからこのような衝撃的な見出しをつけているのでしょう。まるで週刊誌の電車の中吊りのようですね。

ここで感じるのは、小学校の制度や学習時間と大学の単位制度はまったく異なります。異なるものを2つ並べて、比較検討する事には違和感を感じます。

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資料に掲載されている大学生の数値4.4時間を見てみると、学業は約4時間、学習・自己啓発・訓練が0.4時間ぐらいでしょうか。4時間であれば、1日2~3コマを履修しているとも言えそうです。これだと1日に履修しているコマ数は普通ぐらいの印象です。

また小学生のように1日に6時間の学修(=4コマ)の科目を履修していたら、単位制度から考えると、予習復習時間合わせ1日22時間は勉強する事になります。

学生に足りないのは昔から言われている授業の事前事後学習ですが、異なる制度間を比較してキャッチ―なコピーをつけるのはいただけません。

 

私立大学の質の向上

私立大学が狙い撃ちされています。確かに私立大学の中には収容定員割れをしている大学もかなりあります。また資料によると資金がショートを起こす恐れがある経営困難大学が103法人あると記載されています。

さて、私立大学の補助金には教職員の給与費、教育と研究の経費等を対象とする一般補助と、特定の分野や課程等に係る教育・研究の振興を図るために特別補助一般補助と特別補助があります。

財務省は「定員割れ大学でも98%が特別補助の支援対象になっている」と記載しています。これちょっと引っかかりまして、今後は定員割れ大学は特別補助は出さないという布石ではないかと勘繰ってしまいます。

特にあとの資料に「私学助成により、定員割れ大学であっても手厚い支援がなされている」ともあるので、なおさらです。注意が必要なのは、財務省の資料の中で定員割れ大学の定義が収容定員充足率100%未満です。近年は、入学定員抑制の政策により大学は100%ギリギリになるように調整しています。もし収容定員ぴったりの学生数でも数人退学したら、財務省的には定員割れ大学との事です。近年の定員に近づけた学生管理だと、ちょっと何かあると定員割れ大学になってしまう可能性が高いのです。

財務省の検討の方向性

今までの事は、検討の方向性に下記のように書かれています。

私学助成については、教育の質に応じたメリハリ付けを⾏い、定員割れや⾚字経営の⼤学等への助成停⽌等も含めた減額を強化すべきではないか。
経営困難な⼤学法⼈等に対しては、教育活動資⾦収⽀差額・経常収⽀差額や、外部負債の残⾼等に応じて、必要な指導をすべきである。安易な救済が⾏われることがないよう、経営改善等がない法⼈は、特別補助等の助成対象から除外すべきではないか。

自らを改革できない大学はなくなってもやむを得ないというのが文部科学省の方針でした。財務省は、「赤字大学は落ちつつある崖から這いあがれないようなら、背中を押してやろう」という方針ですね。

今後、大学経営はさらに厳しい局面と向かっていきますね。