大学は法令により7年に1回、認証評価を受審する必要があります。またこの認証評価は2018年度より第3サイクル目となっています。認証評価は第1サイクルは自己点検・評価が出来ているか、第2サイクルは内部質保証の仕組みがあるか、第3サイクルは第2期認証評価で確認された内部質保証の構築・仕組みが適切に出来ているかが問われています。 つまり内部質保証システムが適切に運用されているかが確認されます。
内部質保証の構築といっても、それは一つの事例のみで正解ではありません。大学の規模、組織、文化などによって、最適な内部質保証の仕組みは変わります。
ただ内部質保証は、自分が所属する部局や部署のみで考えると理解が難しいです。IRや評価系のセッションに出ていても、内部質保証とは何かが理解しにくいとかという意見を聞きます。
例えば下記の記事は内部質保証について、大学質保証ポータルの記事や今はあまり引用されない古い文献の内容を多く使われてご説明されていますが、一般向けにかみ砕かないとなかなか分かりにくいですね。(ブログがなくなっていたので、リンク削除)
そこで今回は第3期認証評価における内部質保証とは何かを見ていきます。
なお、内部質保証の説明は弊ブログのカテゴリー「内部質保証」や書き散らかしさんの記事もあわせてご覧下さい。
内部質保証とは何か
認証評価機関の1つの大学基準協会では、大学評価ハンドブックの「大学基準の解説」の中に内部質保証について次のように述べています。
大学教育の質を保証する第一義的責任は大学自身にある。大学は、その理念・目的の実現に向けて、内部質保証システムを構築し十全に機能させ、恒常的・継続的に大学教育の質の保証及び向上に取り組まなければならない。内部質保証とは、PDCAサイクル等を適切に機能させることによって、質の向上を図り、教育、学習等が適切な水準にあることを大学自らの責任で説明し証明していく学内の恒常的・継続的プロセスのことである。
内部質保証に関わる学内の様々な取り組みが円滑に進むよう、大学は、その理念・目的等に照らして、大学全体として内部質保証の推進に責任を負う組織(以下、「全学内部質保証推進組織」という。)を整備するとともに、内部質保証のための全学的な方針及び手続(以下、「内部質保証の方針及び手続」という。)を明示しなければならない。大学は、この内部質保証の方針及び手続に、内部質保証に関する大学の基本的な考え方、全学内部質保証推進組織の権限と役割、全学内部質保証推進組織と学部、研究科その他の組織との役割分担、教育の企画・設計、運用、検証及び改善・向上のための指針等を定める必要がある。
この解説の中で言われているのは大きく3つです
- 内部質保証とは何か
- 全学の内部質保証推進の組織の設置
- 内部質保証の方針や手続
では、これらについて少し細かく見てみましょう。
内部質保証とは何か
内部質保証は「教育、学習等が適切な水準にあるか、もしくは水準に達していない場合は自らが改善するプロセスがあるか、それらは恒常的かつ継続的にできている事」です。ただ、第3期認証評価では内部質保証が出来ている事を示す必要があります。上記内部質保証組織や内部質保証の方針や仕組みづくりを示しているのです。
また最近は「大学 内部質保証」で検索すると色んな方針が出てきますね。
ただ、方針や仕組みがあっても内部質保証が出来ているとは言い切れません。例えば一定の質の保証の為に、改善活動を示す資料を提示する事や外部評価を活用するといった事が考えられます。
改善活動を示す資料も、どのように問題を認識したか、どのように計画を策定し、組織として改善することを審議し決定したか、どのように改善したか、その成果は何かといったものを用意する必要があるのです。その資料として会議資料や議事録といった書類が重要になります。
全学内部質保証推進の組織の設置
この内部質保証推進組織は、分かりにくく、どういう機能を持たせればいいのか迷う所です。例えば、既に自己点検評価を担う組織・委員会があり、それと別々にしないといけないのか?それともこの組織を内部質保証を推進する組織としてもいいのかといった事も迷うポイントでしょう。
さて、まずは自己点検評価を担う組織はどのような組織なのかを確認する必要があります。そもそも内部質保証は自らの質の保証や向上を恒常的・継続的に取り組むものですので、自己点検評価を担う組織でこれらが出来ているかのチェックが必要です。単にPDCAサイクルを管理監督するだけや自己点検評価をしているだけでは、内部質保証を担う組織とは言い切れません。
例えば、大学の理念や3つの方針や他の方針(例えば大学基準ごとの方針)を照らし合わせた自己点検評価結果から、課題や改善について計画策定や実施の指示をする機能、もしくはそれらを学内の適切な組織に実施を依頼(指示)する組織が内部質保証の推進する組織と言ってもいいのかもしれません。
この内部質保証の組織は教育課程だけではなく、教員組織や学生支援、社会貢献に対しても改善支援などを行うことが求められます。つまり教育だけに限定した組織ではないという事です。また全学(大学)としての組織とされている事にも注意が必要です。
2018年度に大学基準協会で受審した大学の評価結果を見ていると、規程にない組織が内部質保証を実質的に担っており、それが指摘されている大学もありました。必ず該当組織が規程で確認できることも必要です。
内部質保証の方針や手続
内部質保証の方針は、全学的な方針である必要があります。この方針には、大学基準の解説にも書かれていますが、大学として内部質保証をどのように考え(定義)しているかを示す必要があります。
またこれらの方針は、学内外にどのように公表しているかも問われますので、学内への周知方法や理解の為の取組み、ホームページなどでの公表も検討する必要があります。
内部質保証システムは一義的なものなのか?
大学基準協会は、大学基準の中で内部質保証は内部質保証の方針や内部質保証推進組織が必要であるとされています。ただ、大学で内部質保証構築の仕事をしていると、方針や組織以外にも人や(組織)文化が重要であり、内部質保証の実質化する上で必要であると感じています。
内部質保証について、大学基準協会の内部質保証ハンドブックやその解説本を読むと、内部質保証システムの例示が出ています。
内部質保証システムと認証評価の新段階 ─大学基準協会「内部質保証ハンドブック」を読み解く
- 作者: 早田幸政、工藤潤(編著)
- 出版社/メーカー: エイデル研究所
- 発売日: 2017/03/17
- メディア: 単行本
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本の中には、大学によって異なるという文言はありますが内部質保証システムのおおまかなイメージというのは、このハンドブックや解説書にあるものは定着しているのではないかと感じています。
ただ、私自身は内部質保証システムは、大学がトップダウンかボトムアップかや、大学の規模や学部・キャンパス数に応じてかなり異なるのではないかと考えています。
小規模大学の1学部1学科の大学であれば、内部質保証システムは非常にシンプルでしょう。一方、大規模大学で複数キャンパスがあれば、内部質保証システムや教学マネジメントは複雑化していそうです。
私自身は中規模大学の複数学部がある中で内部質保証システムに関する仕事もしていますが、方針や文化等が違いますし、例えば単科大学とは異なる内部質保証システムであろうと思います。
内部質保証システム程、大学ごとの状況が反映されて、1つのものに集約は出来ません。よく事例で内部質保証の方針や組織の発表がありますが、それだけでは自学の内部質保証システムに活かすには不十分ではないでしょうか。事例だけではなく、自学の分析も必要ですね。
内部質保証は自己点検・評価の負担を重くするのか?
認証評価を受審する数年前に学内で慌てて説明会をやる大学もあるかと思いますが、内部質保証から自己点検評価の話になるとこんな話が聞こえてきます。
現場レベル
・内部質保証と自己点検評価の違いがよく分からない
・忙しい中で、毎年点検評価をするのは大変。
・改善の余地がないのに、点検評価をする意味がない
・点検評価が、上からの一歩的な押し付けになっている(トップダウンになっている)
・内部質保証や点検評価の成果がまったく見えない。
・点検評価を行う上で判断となる方針や指標が複数あり、混乱が生じている。
一方、大学の執行部からはこんな話になったりもします。
上層レベル
・点検評価の結果が、大学の方針や法令とはまったく異なるものになっている。
・適切な点検評価になっていない。
・自浄作用が出来ていない。
・組織としての点検評価ではなく、個人の作文になっている。
ただこんな話を聞いていると考えるのは、自己点検評価は大学にとって負担になっている事は間違いありません。
内部質保証や自己点検・評価の徒労感の原因
例えばその原因としていくつか考えられます。
1つ目は毎年行う(行わなければいけない)自己点検評価です。毎年PDCAサイクルを回せと言われますが、果たして全ての分野で毎年PDCAサイクルは回す必要はあるかは大学として考える必要があると考えています。
例えば、教育研究等環境といった施設や管財は毎年点検評価を行う必要はあるでしょうか?もしかすると3~4年スパンでの点検評価でも良いかもしれません。
また学生支援とかは2~3年スパンでもいいかもしれません。一方、教育や入学者の受入れは毎年その結果がどうだったかをきちんと検証する必要があるでしょう。
2つ目は自己点検評価が一方通行になっているという点です。
現場からすると自己点検評価をやるだけやったのに執行部は何も聞いてはくれないという徒労感に変わっていくのだと思います。確かに自己点検評価は、方針や大学が定める指標といったものを基に行います。
(方針に基づいて)計画を策定し、実施、点検、改善策の立案といった自己点検評価を行った際に、方針や指標の見直しが必要になるかもしれません。また、法令や政策が変わり見直しをする必要や、当初の計画と想定されていたアウトプットやアウトカムと異なり、思いもかけない成果が出る事があるかもしれません。
その場合、自己点検評価の報告書に記載することによって、大学執行部へと上がっていく事になります。つまり、学部・研究科などの意見がボトムアップ によって、伝達されることになります。
ただこれは執行部が自己点検評価報告の結果をきちんと受け止め、大学の改善に活かしていくという表明が必要です。
内部質保証や自己点検評価を行っていく上で、業務を増やすことは簡単ですが、いかに簡素化出来るかという事も合わせて考えないと、俗に言う評価疲れに陥ってしまいます。第3期の認証評価は内部質保証がきちんと出来ているかが問われますが、単に業務を増やすだけではなく、自己点検・評価の負担を減らせるかといった視点も必要です。
悪評高いというか、嫌われ者の内部質保証を行う上で欠かせない自己点検評価について、とりあえず書いておけと思うものも中にはあるかもしれません。
自己点検・評価のPとC
自己点検・評価をどのように行うかは大学によって異なります。
例えば認証評価機関が示す評価の指針や指標を参考に、各分野で基準や指標を定め、その指標に基づいて各部局や委員会に自己点検・評価を行ってもらう大学もあります。
他には、大学としての方針(3つの方針や大学基準ごとの方針)等に基づいて、各部局や委員会がある程度決まった様式はあっても、自分達で自己点検・評価を行うものなどが代表的かと推察しています。
前者は評価の指標などが示され、それに対してどうだったかを書けばいいので、さほど苦労はないのですが、後者の自己点検評価を行う上で、例えばPDCAのPとCをどのように行うのかといった例をまとめてみます。
Plan(計画や目標について)
ここでは計画を立てる、目標を立てるというように言われています。そこで目標について少し考えてみます。まず目標ですが、関口は下記に示すようにいくつか目標の型があるとしています。
成果型 | 成果の(もしくは成果を間接的に表現するものも含んだ)目標。例えば達成に関する数字なども含めた目標とする。 |
プロセス型 | 成果の達成につながるプロセスの中に位置づけられる活動や取組みを目標とする。プロセス型目標は特に根拠データを集積することが重要。 |
アウトプット型 | 計画によって実施した事業の成果(制度や仕組みの導入、量的データ、活用頻度など)を表現し、制度や仕組みの機能状況を目標とする。 |
インプット型 | 予算や人員配置などの資源投入や、組織の設置・整備・再編などを記載した目標。 |
[関口正司, 2004]から一部加筆し作成
上記に示されているインプット型の目標は、中期計画や大学全体として示されるものがある事が前提ではないかと思います。お金や人事などの権限が各委員会などでない場合は、インプット型の目標をたてても意味がないものをなってしまいます。
目標を立てる際は、成果型・プロセス型・アウトプット型を検討する必要があります。また、目標には定量的目標と(定量化できない)定性的目標があります。定量的な目標である事が望ましくはありますが、定量化できない分野も多くありますので、大学としてどのように記載いただくかは予めアナウンスが必要です。
Check(点検・評価について)
点検評価を行う際は次のことに留意しています。
- (客観的に)どのように実態や事実を確認し、評価するか。
- アウトカムやアウトプットだけではなく、プロセスも点検評価を行う。
- 評価を行う際は、目的・方針や目標、さらには大学の制度も鑑みた上で行う。
- エビデンスを整理し、示す。
- 出来ていないものは、事実や実態だけではなく、可能な限り要因まで点検評価を行う
点検評価でたまに見られるものとして、「○○○」という結果について、非常に良く出来ているという評価があったりします。しかし、「○○○」は、その組織としては良いという評価かもしれませんが、大学の目的・方針とは異なるものである場合や、法令から鑑みると、異なる評価になる事もあります。
まて点検評価報告書を見ていて「う~ん」と思ったものにこんなものがありました。
- P 「〇〇の数字、〇〇%を達成」
- D 「〇〇について数字をあげるよう取り組んだ」
- C 「〇〇は××%で未達成だった」
- A 「来年も頑張る」
これだと、単に事実のみで、結局何もしてないのではと思うだけなんですよね。
大学が内部質保証を推進するためには方針の理解が不可欠
大学が認証評価、特に第3期の評価を受審する時は、各大学が自らの質を保証できるだけではなく、自らが設定した方針を達成するために常に改善し続けたり、問題がある場合には自らが問題を認識し、改善することが出来るという自浄作用がある事を示す必要があります。
では、大学にはどのような方針があるのでしょうか?
まずは殆どの大学で平成28年度に策定し、平成29年度から策定した3つの方針でしょう。まず(方針を定めた単位である)学位プログラムごとに平成29年度末に3つの方針について点検評価をしているでしょうか?
また3つの方針以外に、大学基準協会では評価の観点である大学基準ごとに方針を定める必要があります。
例えば内部質保証、教育研究組織、教員・教員組織、学生支援、教育研究等環境、社会連携・社会貢献、大学運営について方針は策定されているでしょうか?おそらく大学基準協会の第2期の後半に認証評価を受審した大学は、方針を策定しているはずです。
例えば人事の担当であれば、教員・教員組織の方針の理解が必要です。もしくは学生生活やキャリア支援などの部署であれば学生支援の方針の理解が必要になります。
大学の殆どの部署は、上記で示した方針には関連しています。各部署や委員会は、これらの方針を達成する為に、計画を策定し、実施、点検評価をしていく事が自己点検評価の原則となります。(なお、方針は1年間で達成するのではなく、中長期的な視点も必要です。)
自己点検評価では、法令等を最低限の要件とし、各大学が独自に定めている方針を踏まえて、より良い方向や改善をしていく事が求められています、そのため、大学は学内の構成員に対しても、どのような方針があるかを伝え、理解してもらう努力をしていく必要があります。
<引用文献>
関口正司. (2004). 教育改善のための大学評価マニュアル. 九州大学出版会.