大学は学校教育法109条により、自己点検・評価を行い結果を公表することや認証評価を受けることが定められています。この認証評価ですが、大学の評価機関は現在は5つあります。
- 公益財団法人大学基準協会(平成16年8月31日認証)
- 独立行政法人大学改革支援・学位授与機構(平成17年1月14日認証)
- 公益財団法人日本高等教育評価機構(平成17年7月12日認証)
- 一般財団法人大学教育質保証・評価センター(令和元年8月21日認証)
- 一般財団法人大学・短期大学基準協会(令和2年3月30日)
<参考>認証評価機関の認証に関する審査委員会 認証評価機関一覧(令和2年4月1日現在):文部科学省
一般財団法人大学・短期大学基準協会はまだ2020年度の認証評価は行われていませんが、他の4つの評価機関は2020年度に大学の認証評価を実施しています。
また認証評価機関は機関が異なっている場合は同一の評価視点や方法ではなく、ある程度特徴があるのですが、今回は大学基準協会に焦点をあて、第3期認証評価の3年目にあたる2020年度の認証評価で重要な内部質保証や教育においてどのような指摘がされているのかをみてみましょう。
2020年度大学基準協会の認証評価結果
今回対象とするには2020年度の評価を受けた39大学です。なお、今回は再評価や追評価の大学は対象としておりません。
大学基準協会の認証評価は10の基準で構成され、評価結果によっては基準ごとに「長所」「改善課題」「是正勧告」が附されます。詳細については大学基準協会の大学評価ハンドブックをご参照下さい。
さて2020年度の評価結果として不適合の大学はありませんでした。
なお追評価の大学で不適合は1大学あります。
では各基準ごとにどのような提言があるのでしょうか。各基準での提言の数は次となります。
長所 | 改善 | 是正 | |
1.理念目的 | 4 | 2 | 0 |
2.内部質保証 | 2 | 17 | 5 |
3.教育研究組織 | 3 | 0 | 0 |
4.教育課程・学習成果 | 13 | 59 | 22 |
5.学生の受入れ | 1 | 33 | 13 |
6.教員・教員組織 | 2 | 15 | 0 |
7.学生支援 | 19 | 0 | 0 |
8.教育研究等環境 | 8 | 2 | 0 |
9.社会連携・社会貢献 | 26 | 0 | 0 |
10.大学運営 | 5 | 0 | 1 |
10.財務 | 1 | 2 | 1 |
多くの大学では4.教育課程・学習成果に多くの提言が附されていることがわかります。また学生の受入れも多く提言がありますが、定員を満たしていないなどですので本記事では省略します。
また社会連携・社会貢献は長所の獲得ポイントになっていますがここも毎年度の傾向を変わらないですね。
さて、次に大学別の状況です。表で掲載するとおさまりきらないので図で掲載します。
提言の数でランキングとかつくるのはナンセンスですので、ここは参考としてご覧下さい。
内部質保証における提言について
まずは重要な内部質保証から見てみましょう。長所→改善→是正の順で評価結果から重要だと思われる箇所を抜き出しています。重要な提言と思われる箇所には赤字にしています。
内部質保証の長所について
- 自己点検・評価の結果に基づき、全学及び各学部・研究科における課題と優れた取組みの一覧化及び共有、さらに改善・向上の実施。
- 内部質保証の客観性や改善・向上に向けた取り組み
- 外部評価による(内部質保証)システムの適切性の確認体制の整備
長所では、全学的であること、学内外に共有や連携を行い改善・向上を図ること、内部質保証システムの実効性を高めることや適切性をつねに確認することなどが長所としてあげられています。
大学基準協会では全学としてどうするかが問われ、全学的な内部質保証システムの構築が求められていますが、それに甘んじることなく常に内部質保証システムについて点検・評価していくことが必要です。
内部質保証の改善課題について
- 内部質保証が自己点検・評価のみになっている。
- 内部質保証推進組織のマネジメントが不十分。
- 内部質保証が中期計画等の進捗管理・評価にとどまっている。
- 内部質保証の組織と他の組織との連携不足や役割分担が不明瞭。
- 各部局への改善に向けたフォードバックが十分とはいいがたい。
- 内部質保証の委員会と自己点検・評価委員会の役割・責任及び位置づけが不明瞭。
- システムの適切性を定期的に点検・評価すること。
- 情報公開が適切にされていない。
- 大学と短大の共通部門の組織で短大側の委員会のみが点検・評価をし、大学として適切な点検・評価を実施しているとはいいがたい。
- 前回の認証評価での指摘事項について対応が不十分。
- 所掌業務の範囲が不明確な組織による自己点検・評価及び改善支援。
他の評価機関の評価結果を読むと全学的に自己点検・評価をやっていれば内部質保証としてOKみたいな印象もありますが、大学基準協会では自己点検・評価をやっているから内部質保証OKではありません。
また内部質保証システムのあり方は大学によって異なり、複数の委員会によってシステムが構成されていることが多いのですが、各組織の役割分担及び責任、さらに連携については毎年指摘されやすいので留意点です。
内部質保証の是正勧告について
- PDCAサイクルに基づく大学全体としての内部質保証システムが確立されていない。
- 自己点検・評価が主体的かつ組織的に行われていない。
- 方針に基づく点検・評価が行われていない。
- 内部質保証に関する方針がない。
- 組織図にない謎の組織がPDCAサイクルにかかわっている。
大学基準協会の第3期認証評価の1年目で謎の組織による内部質保証という指摘があり、今回も類似の指摘があります。(個人的には院政みたいなものかなと思っています)
また自己点検・評価が主体的かつ組織的というのは重要なキーワードだと思います。例えば自己点検・評価の報告書が求められると誰かが作文して適当に出した場合はどうなのでしょうか。大学として組織的とはどういうことかははっきりと明示しておく必要があります。
教育課程について
続いて意見が多くついている教育課程です。こちらも長所→改善→是正の順で評価結果から重要だと思われる箇所を抜き出してまとめています。
教育課程・学習成果の長所について
- アセスメントポリシーを定め、学科・専攻の自己評価と妥当かどうかを評価するカリキュラム・アセスメントの実施。
- 卒業予定者から教育課程への意見のヒアリングの実施と改善。
- DPに示した能力に関する個々の修得状況をレーダーチャートで可視化
- 主体的な学習計画の立案や学びの実践を促す取組(リメディアル教育、ポートフォリオ、FDハンドブックなど)
- ラーニング・アシスタント制度の導入と参加が「評価しきれない個性ある挑戦や力を評価認定する制度」への追加。
- 学修ポートフォリオと教務システムの統合による学修成果の修得状況等の認識への容易さ。
- 卒業論文の必修化や学部ごとのルーブリック型評価の実施。
- ディプロマサプリメントの発行。
- 全学教養教育科目(プロジェクト、副専攻プログラム、文理融合等)の実施
- 教育改革のための特色ある教育プログラムへの財政支援と学内での実践
ディプロマサプリメントをはじめとして教育評価に関する取組みが多く長所としてあげられているように思います。ただ教育評価はやっただけではなく、そこからカリキュラムや教育方法の改善に結び付けることが求められています。
教育課程・学習成果の改善課題について
- 履修登録の単位数の上限が年間50単位超。(同じような指摘である条件下で年間72単位や64単位まで履修OKという大学も指摘)
- 一部の科目を履修登録単位数数の上限から除外している。
- 履修登録上限が定められていても、これをこえて多くの科目を履修している学生が相当する。
- 新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う遠隔授業により、履修登録上限を外している。
- 教職関連科目など資格関連科目は履修登録上限をこえて履修登録することが認められているが、実際に多くの単位を履修登録する学生が相当数おり、単位の実質化を図る措置は不十分。
- 2つの学位でDP・CPが共通の内容となっているので学位ごとに明示が必要。
- シラバスに事前事後学習時間・内容は記載しているが、アンケートでは半数以上の学生が授業の準備・振り返り時間が不足している。
- 学習成果が多面的ではなく、成績評価のみで把握している。
- 外部テストを取り入れて学習成果を客観的に把握することを試みているが、DPとの関連性が明確でない。
- 卒業時調査での学修成果の把握・測定とDPの学習成果との関係性が不明瞭。
- 大学院ではDPに学位にふさわしい学習成果を示していない。
- 大学院で学位論文の審査基準が課程ごとに策定していない。
履修登録上限に関しては多くの大学では指摘を受けています。50単位は超えているという指摘は毎年ありますが、資格科目であっても遠隔授業であっても原則は履修登録上限内という指摘がありますね。遠隔授業だから履修登録上限を外すのがOKと大学が認めていると極論では半年で卒業出来てしまうかもしれません。
また学習成果については、外部試験を安易に導入するのではなく、大学としてDPに結び付けられるようにしないといけません。単に学習成果を測定しているからでは改善事項となるのです。
教育課程・学習成果の是正勧告について
・履修登録上限について教務部長がOKすれば上限に関係なく履修できる。
・(研究科で)CPが策定されていない。
・(研究科)研究指導の方法(あるいはスケジュール)を策定・明示していない。
・博士前期・後期で異なる学位だが同一の学位授与方針である。
終わりに
内部質保証システムを構築することは短期間で出来るものではありません。また内部質保証は他大学の事例を聞いてもそのまま持ってくることが難しく、どのような方式が合っているかは自分達で考えないといけません。
また教育課程、特にアセスメントについても同様です。外部アセスメントを使うにしても自らの文脈に落とし込み、そこから改善につながるようにする必要もあるのです。なお早い大学は既に第4期を見据えて動いている大学もあるようです。