大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ

大学や高等教育関連、法令の解説が中心のブログ

【スポンサーリンク】

全国学生調査(第2回試行)実施に関する課題とは何か

令和3年度に国が中心となって行う全国学生調査の第2回試行実施がありました。

www.mext.go.jp

この調査については高等教育研究者のコメントなどをいろんなところで目にしますし、どちらかというと活用をどうしようという話やメリットについてが多いのですが、大学側からすると調査に関してどうなのかといった声もあります。

また調査実施に関して国と大学側の認識等のずれがあったように感じます。

そこで今回は全国学生調査の設問内容ではなく、調査の運用について徒然と書いています。

全国学生調査の実施概要

まずは全国学生調査の概要を再度確認してみましょう。

この全国学生調査の目的として、実施概要を見ると「学修者本位の教育への転換を目指す取組の一環として、実施されるものであること」を前提として4つの目標が掲げられています。

  • ①各大学が自大学の学生の実態や意識を踏まえた教育改善に活用すること
  • ②大学進学希望者やその保護者あるいは地域社会、産業界等から、各大学における学生の学修成果や大学全体の教育成果にこそ関心を持ってもらい、大学に対する理解を深めてもらうこと
  • ③今後の我が国における政策立案に際しての基礎資料として活用すること、
  • ④学生一人一人にとって、これまでの学びを振り返ることで今後の学修や大学生活をより充実したものにしてもらうことや、卒業後の社会における自らの姿を考える上での一つの契機としてもらうこと

ちょっと欲張りすぎな目標な気もしますが、個人的は③重視なのかなとも思っています。

また調査対象は参加意向のあった大学※(短期大学を含む。)の学部(短期大学は学科。)に在籍する、2年生及び最終学年生(短期大学は最終学年生のみ。)です。

そして調査実施期間は令和4年1月31日~2月28日、質問項目は 選択式60問、自由記述式2問となっています。

WEB調査と回答率

大学ではすでに多くの調査が行われています。

<関連リンク>

www.daigaku23.com

学生は年間を通していくつもの調査に回答する必要があり、調査に飽きて・嫌気がさしてしまう心配も懸念されます。

そのため所属機関では調査の縮小PJを横断的に実施し、学制負担をできるだけ少なくしようと試みている最中です。

さて、コロナ禍を踏まえて、多くの大学では学生調査の回答方法を紙(マークシート)から、WEBに移行しているケースが多いでしょう。ただWEB調査の悩みは回答率がさほど高くなりにくいことにあります。

例えば学生への調査の案内として

  • ①メールや教務システムで回答依頼のメッセージを送る
  • ②-1 必修の授業やゼミなどで、回答フォームのQRコードを配布する
  • ②-2 ゼミなどで回答依頼をしてもらう

といったものが考えられますが、経験上では回答率が高いのは②-1や②-2です。いくたメールやメッセージを送ろうが、回答率はそこまで上がりません。

ここまでが前提として、今回の調査実施にあたっての課題を見てみます。

全国学生調査の課題

全国学生調査に関しては、いろんな面から課題があったように見受けられます。

実施日直前まで各大学に連絡(回答フォーム等URL)がなかった

今回の調査では1/13に第5回の有識者会議が行われるなど、調査実施月ギリギリまで検討がが続けられていました。

より良い調査にしようというのは理解できるのですが、大学側に調査実施直前まで調査案内がないといった状況であり、大学側としては学生への周知などの準備や協力依頼が非常にしにくい課題があったかと思います。

なお、自分の場合は学内調査であっても調査協力依頼なども含め、調査実施1~2か月には学内に広く周知しておくようにしています。

また国から大学への回答フォームの連絡がギリギリだったため、本来であれば実施すべき動作確認の時間すらあまりとれていなかったのも気がかりです。

というのも調査システムによっては、学生にマニュアルも必要になりますし、合理的配慮についてもあらかじめ検討しておく必要があるのです。

調査システム

今回は全国学生調査はマクロミルのクエスタントを活用していたようです。クエスタントの操作性はまあいいとして、回答フォームにマクロミルとかの広告に類似するものが出るわけです。国が行う調査でそれでいいのでしょうか。

調査実施時期

調査実施時期が、多くの私学では授業期間外である期間に設定するのは遅すぎます。

もう学生への連絡はメールや教務システムのみとなってしまうので、特に調査の対象となっている4年生に回答の案内はメッセージしか手段がないのです。

回答率を高くするなら、ある程度、対面で集まったときに案内するほうが効果的なのですが、今回はその手段も取れませんでした。

いつも思うのですが、文科省は国立の学年暦だけ気にして、私学は見ていないですよね?

回答状況のモニタリングができない

今回困ったのは、回答率はすぐにわからないことですね。

Googleフォームだと、Googleデータポータルなどで常に回答状況が可視化できますが、今回は文科省に問合せをしないと回答率がわかりいません。

さらに国から回答率を教えてもらっても、回答状況は学年区別なし、学部単位の状況しか分かりませんでした。

学内の調査であれば、どの学部学科・学年、あるいは個人の回答状況をみて、ターゲットを絞って、回答の再度の案内が出来るのですが、今回はそれもできずに回答した人にまで回答の督促をするのはどうなのでしょうかね

なお、いくつかの大学に回答率について聞いたのですが、第1回よりだいぶ低かったようです。むしろ、ローデータもらってもあまり参考にならんなという感じですね

大学から学生への調査案内・連絡について

国からも案内がでていましたが、大学によっては対象学生以外が回答フォームにアクセスできてしまう状況(WEBサイトやSNS)が確認できています。そうすると本当に学生が回答しているのでしょうか。

さらに大学が選択肢の解説として「この設問は本学の〇〇が該当します」といったものもあり、調査としてどうなのだろうな、でも今後やっても国が調査結果を握る以上はこういう大学は増えるかもしれないと思います。

終わりに

大学として一斉に調査をするのはかなり大変な事業です。ただ今回は調査そのものより、実施に関してはグダグダ感が否定できません。

この調査は目標が掲げられていましたが、どこまで達成できたのか、また達成できていない原因は何なのかといったことは、「すべて大学が悪い」ではなく、きちんと分析・評価をしてほしいと思います。

また大学の教学システムやGoogleフォームなどで実施も可とする、学生証番号の収集なども各大学の実態に合わせる、調査実施期間は少なくとも授業実施期間中であり、調査は実施1か月前までには確定といったことも必要ではないでしょかね。