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令和元年度全国学生調査(試行実施)の結果と課題~サーベイマネジメントの必要性~

2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(平成30年11月26日中央教育審議会)において、全国的な学生調査や大学調査について提言がされました。

各大学が地域社会や産業界等の大学の外部からの声や期待を意識し、積極的に説明責任を果たしていくという観点からも大学全体の教育成果や教学に係る取組状況等の大学教育の質に関する情報を把握・公表していくことが重要である。これらに加えて、経営状況等も含めた大学の基本的な情報について、各大学が積極的に公表することも必要である。また、社会が理解しやすいよう、国は、全国的な学生調査や大学調査を通じて整理し、比較できるよう一覧化して公表すべきである。

学生に対して大学の垣根を超えた調査は一般社団法人大学IRコンソーシアム一般社団法人 学修評価・教育開発協議会など補助金事業から発展した団体に加盟している大学が共同の調査を実施している例は今までにありました。大学IRコンソーシアムの規模は大きいですが、我が国にある大学数から考えるとまだ一部にとどまってはいます。

また他にも抽出調査ですが学生を対象とした日本学生支援機構の学生生活調査や、全国大学生活協同組合連合会の学生生活実態調査があります。しかしこの2つは学生生活であり、教育の取組や教育成果を把握することは目的ではありません。

さて、令和元年度に文部科学省が全国学生調査を試行し、結果が令和2年6月16日に公開されています。結果については一部ニュースにもなっているようですが、大学で働く立場から、結果や気になる点についてまとめます。

souken.shingakunet.com

全国学生調査の概要について

全国学生調査は大学での授業や学習等についてがメインになります。詳細は質問項目をご覧いただきたいのですが、大枠としては次のようになります。

問1

大学に入ってから受けた授業では、次の項目はどれくらいありましたか。各項目について当てはまるものを選択してください。

問2

大学に入ってから次のような経験はありましたか、その経験は有用でしたか。各項目について当てはまるものを選択してください。

問3

現在の授業期間中の平均的な1週間(7日間)の生活時間について、当てはまる時間数を選択してください。

問4

次の知識や能力を身に付けるために、あなたが受けた大学教育は役に立っていると思いますか。各項目について当てはまるものを選択してください。

問5

大学に入ってから受けた授業の形態について、全体が10割(足して10割)になるようお答えください。

問1~3は大学でも同じような質問があるので分かりますが、問4で能力を身に付ける為に大学は役立っているかは国として聞きたい内容なのかもしれませんが、大学側は学生がその能力を身についているか主観的に聞きたいと思うので、そこは国と大学で齟齬がある気がします。

また問5は、大学の規模別や形態別に聞いていますが、カリキュラムでは〇〇演習とついていなくても演習の授業があったりするので、少人数講義と演習や実験・実習などの学生の判断と実際が乖離しているのかも気になります。

令和元年度全国学生調査の結果について気になった点

こちらは問1~問3で気になったものだけ箇条書きにします。

問1 受けた授業

  • グループワークやディスカッションの機会は「よくあった」「ある程度あった」と答えたのは71%。比較的多いように思うが、これは母数が学生なので、まったくない学生も一定数いる。
  • グループワークやディスカッションの機会は小規模な学部は機会がよくある。
  • 教員以外の補助的な指導は理工・工学、家政、芸術は25%以上がよくあったと回答
  • この設問について公立の大規模及び中規模の回答結果は他の設置形態・規模別とちょっと異なるように感じる。

問2 大学での経験

  • インターンシップや海外留学は経験していない学生の割合が高い、一方で少人数教育については有用であると答えた学生は7割近くになる。
  • インターンシップは分野別では社会・スポーツが有用と答える割合は高い。ただ教育なども一定数いることから、実習とインターンシップの区別をつけて回答しているかは疑問
  • 研究室やゼミでの少人数教育は、文系は非常に有用と答える割合は高い

問3 授業期間中の平均的な1週間

  • スマートフォンの使用時間で週0~10時間が半数以上であり想定以上に少ない。そもそもスマホは何に使っているかやパソコンの使用時間も含めて確認が必要そう
  • 就職に関わる活動で小規模な学部は0時間の割合が高いが、小規模な学部の分野が資格取得と仕事が関連しているか?
  • 予習復習時間は保健、芸術、理学・工学は多い傾向にある。

回答率の低さについて

今回の調査の有効回答率は27.3%一定基準を集計基準として設定し基準を満たした学部のみを集計した有効回答率は37.2%です。また規模が小さい大学ほど及び規模が小さい学部ほど有効回答率が高い傾向にあります。さて、この有効回答率の数値は低いのでしょうか?

所属機関で同じような調査をWEBで実施した際の有効回答率は65~80%程度です。n=1での判断基準しかありませんが、27.3%というのはかなり低い数字ではないかと感じます。ではなぜ低いのでしょうか?理由はいくつかあるように思います。

令和元年度全国学生調査の調査方法

今回全国学生調査はWEB調査で行われました。大学側は学生に回答URL(及びQRコード)が掲載されたチラシや案内を送付し、学生は指定のURLにアクセスをして、回答する方式です。今回の回答方法だと、誰が回答したかは分かりません。

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                        出典:文部科学省ホームページ

回答率は常に確認することが出来るので、回答率が低い学部学科に対しては回答のお願いを出すことはできますが、誰が回答したかは分からない以上、対象学部学科全員にお願いを出す必要があります。

学生からしたら何回も案内がくるのはたまったものではないと思うので、大学側も案内する数を考えないといけません。またどこか該当学生が集まる機会があれば一斉に回答をしてもらうという強硬手段もありますが、対象学年が3年であり、ゼミぐらいしかその機会はありませんので、回答率を高めるためにはかなり手間はかかります。

調査の数が多すぎる

ここ10年で学生に対する調査が増えたと思います。10年前ぐらいは学生生活実態調査や授業アンケート程度だったのが、政策により入学時・学修行動・卒業時など機会ごとに調査をすることが必要です。また学修行動調査も全学年実施が求められ、学生は多くの調査に回答しなければなりません。

そこへ全国学生調査の実施です。時期として他の調査とも被っていた大学もあったと思います。本学も同じような設問の学修行動調査を同時期で実施しており、学生は混乱をしてしまったのではないかと心配をしています。

www.daigaku23.com

大学がどこまで本気か

今回の調査は参加しても、その結果がどう使われるかが非常に気になります。調査は「大学の教育改善や国の政策立案など、大学・国の双方において様々な用途に活用」とありますが、大学の改善の対象は大学全体でしょうか?それとも個々の大学でしょうか?報告書によると後者ですが、主語は大学自身なのか、国の指導なのかでも大きく違います。

悪い事をしていない、教育研究をしっかりしていればそんなのは関係ないと主張されるかもしれませんが、例えるならメンヘラ彼女に「浮気していないならスマホの中身を見せられるはず」と言われるような感じですね。

また後々何かに使われないかも不安です。大学の教育改善とはざっくりしているので、ここは具体的に示していただきたいなと思います。

回答するメリットは何か

アンケート回答は、サービスを良くしたい、報酬があるなど自分へのメリットがないと回答する気はおきないのではないでしょうか。大学としても注意しなければなりませんが、アンケートをやった以上はその回答に対して何らかのアクションが必要です。

改善に使うのであれば、改善に資する設問ときちんと結果を改善に活かせるような仕組みが不可欠です。

終わり~全国学生調査は大学側から使えるのか~

さて、今回文科省が行った学生調査は試行実施なので大学として参加するかどうかは判断に迷った大学もあるかと思います。結果として多くの大学が参加しましたが回答率の低さから、大学自身がこの結果で教育改善に活かせるかどうかは、まだ数年先かなと考えています。

もし全国学生調査が毎年度やるのであれば、学内の多すぎる調査を精査し学生の調査負担軽減を行うサーベイマネジメントが必要ではないでしょうか。(なお、サーベイマネジメントは私の造語です)

また大学として調査は何のために行うか何に使うかをはっきりさせる必要があります。ただそれをやるには、部局を越えた調整が必要なので、学内政治や調整が求められてきますね。