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令和元年度私立大学等改革総合支援事業選定結果の所感と平成25年度からの選定結果~タイプ1を中心に~

2019年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果が3月3日~4日に郵送で届きました。また2020年3月19日にようやく文部科学省のホームページに掲載されました。

前年度の公表が2月26日、前々年度の公表が年2月5日でしたので選定結果が分かる日付は年々遅くなっていますね。

さて、2019(令和元)年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1を中心に気になった箇所や、2013(平成25)年度私立大学等改革総合支援事業からの選定について見てみます。

(今回調べた中でもし間違い等があれば、Twitterかメール等でご指摘いただけますと嬉しいです)

2019(令和元)年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果と委員長所見について

2019(令和元)年度の私立大学等改革総合支援事業ですが、私立大学等改革総合支援事業委員会の委員長所見によると「全私立大学等の約7割にあたる652校から申請」があったとされています。この652校は前年度は671校、大学は447校で前年度は457校と減っています。

この申請校数に関して、委員長の所見では「大学等の改革の取組は進捗していると認識」とありますが、非常に疑問が残ります。

つまり前年度から申請校数が減っているという点があるのと、今まで改革総合支援事業に一度も選定されておらず2019年度に初めて選定された大学は開智国際大学、鳥取看護大学、沖縄国際大学、東京経営短期大学であるという点です。(ただ鳥取看護大学は設置が2015年4月で2019年度は完成年度の次の年である点は注意が必要)

むしろ、改革総合支援事業は改革の消耗戦のように、適応できない大学等は申請をしないフェーズに入っているのではないでしょうか?

私立大学等改革総合支援事業は小規模大学から理系や医療系へ

2019年度の改革総合支援事業を見ていて思うのは、今までは全学での取り組みが求められていたので、小回りがきく・ガバナンスが強い小規模大学が私立大学等改革総合支援事業に選定されやすいという印象でした。

しかし今年度、全タイプに選定された大学は芝浦工業大学、東京電機大学、金沢工業大学、藤田医科大学、大阪医科大学、関西大学となります。これを見ると一定規模の大学や理系分野、医療系が中心であることが分かります。

これはタイプ2「特色ある高度な研究の展開」は小規模の文系私立大学だと対応が難しい事もあるでしょう。例えば収容定員規模別の結果を見ると収容定員8000人以上の大学は他の規模より申請数および選定数が多いです。

2019(令和元)年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1の選定と設問ごとの状況について

次に2019年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1について見ていきます。2019年度は選定ラインが48点と2018年度の55点より大分下がりました。設問がだいぶ変わったので、妥当なラインだろうとは感じます。

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ただ設問毎・回答毎の結果を見るといくつか気になった点があります。そこで来年度の「教育の質に係る客観的な指標」に移りそうな設問と、監査や検査で指摘されそうな設問に分けて個人的な考えをまとめてみます。

2020年度の「教育の質に係る客観的な指標」に移りそうな設問

今までの補助金の流れを見ていると、多くの大学で取り組まれている設問(内容)は、経常費に関する「教育の質に係る客観的な指標(以下「客観的指標」)」の設問や削除されていました。そこで2019年度の結果を見ると次の項目は客観的指標か改革総合支援事業の設問から削除になる可能性が高いと思っています。

  • 1.IRを活用した教育課程の検証
  • 3.卒業時アンケート調査
  • 4.アクティブ・ラーニング
  • 6.ICT活用
  • 17.入学予定者への課題提示
  • 21.選抜方法の妥当性の検証

殆どは改革総合支援事業のタイプ1の設問にでてから数年は経っているものばかりです。卒業時調査はどうなるか、コロナウイルスの関係で卒業時調査の回答率があまり見込めないという大学もあるようですね。

IRを活用した教育課程の検証やアクティブ・ラーニングは選定校だけではなく申請校でもだいぶ取組が進んでいるので客観的指標に行く可能性は高いと思っています。

高大接続関連は来年は大学入試が大きく変わることもあり、入試の日程がきちんと令和2年度大学入学者選抜実施要項の通り守られているかといった事も設問に入るかもしれないと考えています。

想定以上に取組みがされていた設問

設問ごとの状況を見ていると、申請時でに「この取組は他の大学はあまり出来ていないだろう・難しいのでは」と思ったもので想定外に各大学が取り組んでいると回答した設問がいくつかあります。

  • 2.IR機能強化(IRの講師派遣)
  • 12.学修成果に関する協議体制
  • 19.IRに係る専門職の配置
  • 27.実務家教員の教育課程編成への参画

IRの機能強化はIR担当者を講師として派遣した実績、学修成果に関する協議体制は産業界と協議する必要があります。ただこの2つの設問は、何とかしようと思えば学内外のの協力が得られれば何とかなる設問です。

問題はIRに係る専門職の配置と実務家教員の教育課程編成への参画です。IRの専門職は専門職の補助金上の定義が「統計数理・データ分析等の基本知識あるいはデータベースに関する基礎的な知識を有している」であり、研究・実務経験・関連学位・関連授業の経験等があげられています。

IR担当者と専門職について

この設問では申請校(短大や高専含む)583校のうち204大学が専門職を配置しているとの事ですが、今までIRに少しだけ関わってきた立場からするとそんなにいましたか?という素朴な疑問があるのです。

ただここでは確認として高度なデータ分析を実施し、意思決定等に資する提案を行う職種であることを示す必要があります。この高度なデータ分析は、人によって意見が分かれる所です。少なくとも作表やグラフ化程度では高度なデータ分析と言えるとは、なかなか主張できません。職員だとIRの専門職として出すのは難しいですが、関連の資格取得、もしくは発表や論文執筆などを行い、色んな分析手法を試していただきたいと思うのです。

実務家教員の教育課程編成への参画について

年間6単位以上授業を担当する実務家教員が教育課程編成等について責任を担う仕組みを構築しているかが問われている設問です。例えば兼任の実務家教員にそこまでの責任を担わせようとするのは、責任に伴う給料は払わないといけないと思います。そしてこの仕組みがある、参画しているとしたのは303校(52%)になります。

ただ今年は仕組みがあればいいとなっていますので、仕組みだけ作っている大学も結構あるのではないかと思います。これは実際にやったかどうかは私学事業団や会計検査院の検査でしっかり見られるポイントだろうなと思います。

もし私が検査する側であれば、仕組みは実態があるか、単に報告だけではなく意見を言う場があるか・意見交換がなされているかといった点も見るでしょう。

2013(平成25)年度の私立大学等改革総合支援事業から2019(令和元)年度の選定結果について

続いて、文部科学省の私立大学等改革総合支援事業に掲載されている2013(平成25)年度から2019(令和元)年度の選定大学を突き合わせ、今までタイプ1(教育の質的転換や特色ある教育の展開)に何回も選定されている大学はどこか、今まで多くのタイプに選定されている大学はどこかを見てみます。

なおこれは意味はないのですが、個人的に気になっただけの結果です。

私立大学等改革総合支援事業タイプ1に7回連続で選定されている大学・短期大学(順不同)

東北福祉大学、仙台大学、東日本国際大学、昭和学院短期大学、東京慈恵会医科大学、芝浦工業大学、筑波学院大学、日本医科大学、武蔵野大学、帝京平成大学、鶴川女子短期大学、昭和音楽大学、昭和音楽大学短期大学部、富山短期大学、金沢工業大学、北陸大学、仁愛女子短期大学、松本大学、朝日大学、岐阜女子大学、中部学院大学、中部学院大学短期大学部、愛知産業大学、愛知工科大学、鈴鹿医療科学大学、長浜バイオ大学
、京都光華女子大学、京都光華女子大学短期大学部、大阪経済法科大学、大阪電気通信大学、羽衣国際大学、大阪成蹊大学、大阪総合保育大学、大阪城南女子短期大学、関西国際大学、鳥取短期大学、岡山商科大学、広島文化学園大学、広島文化学園短期大学、
四国大学、九州共立大学、福岡歯科大学、西九州大学、西九州大学短期大学部、長崎短期大学、長崎ウエスレヤン大学、日本文理大学、別府溝部学園短期大学

全部で48校となります。ついでに6回選定されている大学も並べておきます。

私立大学等改革総合支援事業タイプ1に6回で選定されている大学・短期大学(順不同)

東北公益文科大学、国際医療福祉大学、共愛学園前橋国際大学、青森明の星短期大学、杏林大学、昭和大学、東京歯科大学、日本工業大学、二松学舎大学、多摩大学、十文字学園女子大学、国際短期大学、埼玉女子短期大学、神奈川工科大学、富山国際大学、身延山大学、松本大学松商短期大学部、佐久大学、愛知工科大学自動車短期大学、皇學館大学、明治国際医療大学、京都造形芸術大学、帝塚山学院大学、関西福祉科学大学、太成学院大学、大阪成蹊短期大学、兵庫医療大学、東洋食品工業短期大学、帝塚山大学、畿央大学、安田女子短期大学、梅光学院大学、東亜大学、福岡工業大学、福岡医療短期大学、長崎国際大学、長崎外国語大学、熊本保健科学大学、別府大学短期大学部、宮崎国際大学、北海道科学大学、函館短期大学、千葉工業大学、聖路加国際大学、淑徳大学
、東京医療保健大学、びわこ成蹊スポーツ大学、安田女子大学、四国大学短期大学部、松山東雲女子大学、高知学園短期大学

全部で52校となります。

今まで多くのタイプに選定されている大学はどこか?

最後に今まで多くの選定されている大学を見てみます。下の図は小さいですがオレンジが選定されているタイプです。

大学は仙台大学、国際医療福祉大学、芝浦工業大学、武蔵野大学、金沢工業大学、関西大学、関西学院大学、岡山商科大学、福岡工業大学、長崎国際大学は2018(平成30)年度までの改革総合支援事業では殆どのタイプに選定されている事が多かったのが分かります。

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