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令和3年度私立大学等改革総合支援事業タイプ1の選定ライン上昇の要因と監査・検査のポイント

令和3年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果が2月に公表されました。

 

調査

設問通知

調査締切

内示

(大学通知)

選定公表
2016年 5月27日 9月9日 12月2日 3月7日
2017年 7月31日 10月6日 11月13日 2月5日
2018年 7月31日 10月9日 なし 2月26日
2019年 8月27日 10月28日 3月4日 3月19日
2020年 7月14日 11月30日 2月15日 3月19日
2021年 8月10日 11月30日 なし 2月18日

過去2年は文部科学省のホームページに結果が公表されたのは3月でしたので、2月の公表というのは久々に早いですね。

さて、私立大学等改革総合支援事業では選定大学一覧、選定状況、規模別・地域別の結果、設問ごとの該当件数が公表されています。

例えば、タイプ1の「『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」について得点や申請校や選定校などを見てみると3年間で下記のようになっています。

年度 満点 選定点 申請校 選定校 選定率
2019年 89 48 583 178 31%
2020年 99 68 556 130 23%
2021年 96 73 554 117 21%

3年間を見てみると設問は多少の変更(難易度アップ)があるのですが、

  • 選定点は毎年度上がっている
  • 申請校は年々減っている
  • 選定校及び選定率も減っている

というようなことが見られ、小規模大学から中規模大学の選定が多いことがタイプ1の特徴となっています。

さて、年々選定ラインがあがっているのですが、今年の選定ラインが上がったポイントはどこでしょうか。設問毎・回答毎の該当件数のデータから見てみます。

また赤枠の中には内部監査や外部の検査などで、ここを見るべきではないかと考えているポイントを示しました。

0.使用するデータ(設問毎・回答毎の該当件数)について

本記事で使用するのは令和2年度及び令和3年度私立大学等改革総合支援事業の設問毎・回答毎の帳票です。

この資料は設問ごとに、申請校及び選定校でどれぐらいの校数(割合含む)がどの回答をしているかを知ることが出来ます。今回は各設問の最高点数をとっている割合を申請校及び選定校、令和2年度と令和3年度で比較をしてみます。

なお、令和3年度では一部設問の変更や順番の並び替えがありますので、設問名に()で示されているのは前年度の類似の設問です。

1.教育の質向上について

まずは教育の質向上に関する設問です。

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選定校ではほぼすべての設問が昨年度より取組みが進んでいることが分かります。特に下記の項目では取組みが拡大しました。

  • 情報リテラシー科目の開講
  • GPA制度の導入
  • ティーチングポートフォリオの導入・活用
  • 学修成果等の可視化

情報リテラシーは昨今の数理・データサイエンス・AI教育の導入を重なるところや、ティーチングポートフォリオなど学内で準備に時間がかかるものがR3年度で取り組まれてきたのだろうと推察できます。

ただ学修成果の可視化については、ディプロマサプリメントの仕組みづくりが必要なのですが、他大学の人と話をするかぎりでは「なんちゃってディプロマサプリメントが多いのでは?」という意見になっています。

一方、全学的な教学マネジメント体制の構築が前年より申請校・選定校ともポイントが下がっていますが、今年から教育改善を行うサイクルを運用しているかが問われているからでしょう。

◆監査や検査のチェックポイント◆※番号は設問の番号と対応
①専門的な支援スタッフを示す根拠は明確か?本人からの「自分はできます」というコメントではなく客観的に説明できるか?
①教学マネジメント体制でIRを活用して、検証と改善のサイクルを行った資料、もしくは制度が分かる規程はあるか?
①カリキュラムの適切性について、議事録などから実施の確認ができるか?
②IRの他大学普及でコンサルティングの場合は、コンサルティング内容が確認できるか?(単に事例紹介だけにとどまっていないか)
⑦GPAの活用において、成績評価基準の平準化実施の資料(可能であれば、会議記録やシラバス修正前後)があるか
⑨ティーチング・ポートフォリオを毎年活用する仕組みがあるとし、実際に取り組んでいるか(昨年度やっていない、今年仕組みができたはいいが、毎年仕組みだけあって、運用なしはどうなのか)
⑪ディプロマサプリメントの仕組みがあるとしている場合、必要なデータは適切に扱われ、補足資料に活用できるようになっているか(仕組みだけあって、実際はやりませんにならないようになっているか)

2.高大接続について

続いて高大接続についてです。昨年度も高大接続では取組みが進んだ(拡大)したのですが、今年も同様に選定校で取組みが進んでいることがうかがえます。

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特に学力の多面的・総合的評価、記述式問題、入学者選抜の多面的・総合的評価と学生能力育成、アドミッションオフィサー、高校との連携強化が選定校では取組みが進みつつあります。

高大接続では、総合的な記述式問題、高校との連携強化がそこまでではないで、ここが他の大学との差別化のポイントでしょう。

また特色として、数学・情報の試験問題の出題でしょうか。ここでは科目ではなく、問題なので比較的に点を取りに行きやすいのですが、選定校では85%の大学が全学部で対応しています。

来年ですが入学者選抜の妥当性の検証や入学前教育については、全体として取組みが進んだとおもうので、設問はなくなるか、客観的な教育の質の指標に移動するかもしれないですね。

◆監査や検査のチェックポイント◆⑬~⑮入学者選抜実施要項等で明確に記載されているか
⑯多面的・総合的な評価と学生の能力を伸長するための取組みは明確な根拠資料や議論の記録があるか
⑰アドミッションオフィサーは、なんちゃってではなく、業務一覧・記録、出来れば辞令などがあるか(特に教員の場合は明確に説明できる根拠資料があるか?)
国立大学、大規模大学だと入試センターに専任教員がいることがありますが、タイプ1は小規模大学の採択がおおく、兼務発令が多いと考えられます。そこをきちんと説明できるか

3.データ活用による教育展開とデータ活用人材の育成

昨年より設問が減り、特別補助などに移行した部分となります。

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どの設問も取組みが大きく進んでいることが分かります。

数理・データサイエンス・AI教育の科目の開講も、社会状況や政策などを鑑みると大学教育に導入しないという選択肢は取りにくくなっているので、来年度はさらに取組みが進むと思います。

◆監査や検査のチェックポイント◆ ㉒IRやデータ分析の専門職のエビデンスは適切か?単にグラフだけの報告書ではなく、適切な知識・経験が明瞭にわかるエビデンスはあるか?
㉒機関決定の際に情報・提案をしていることが分かるエビデンスはあるか?(特に会議議事録等)
㉓卒業生調査及び卒業先の調査は公表されているか?(申請時に公表予定としていて、未だに公表がない場合はいつされるのか?)
見出し付き直線の囲み枠例です。

4.多様な教育体制と社会との連携

最後は多様な教育体制と社会との連携です。

ここも主選考・副専攻や学事歴以外は取組みが大きく進んでいるのが下記から分かります。

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ただインターンシップについては一部条件緩和があったのもあるでしょう。

◆監査や検査のチェックポイント◆㉕・㉖リベラルアーツ教育やSTEAM教育は要件上では各大学の考えにもよる(事業団に確認しても同様の回答)だったため、明確にリベラルアーツ教育やSTEAM教育に取り組んでいることが説明できる資料はあるか
㉗資格の実習などを入れていないか
㉘該当する実務家教員の情報はそろっているか?

5.教育改革全体の総括

また今回の選定点数を大きくあげる理由として㉜の過年度との比較があったのではないかと思います。

昨年の得点から今年の得点がどのぐらい伸びたかでボーナス得点がもらえるのですが、このようになっていました。

内容 点数 申請校 選定校
20%以上 5点 7% 12%
10-20%未満 3点 18% 37%
5-10%未満 1点 18% 15%
上記該当なし 0点 57% 36%

選定校の半分以上が昨年度より点数を10%以上伸ばし、3点以上の加点がされています。ここでブーストがないと、選定が難しかったとも、もしかして言えるかもしれません。