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令和2年度私立大学等改革総合支援事業のタイプ1の選定ラインが上がった要因はなにか?

令和2年度の私立大学等改革総合支援事業の選定結果(2021年2月15日付)が大学には2月16~17日あたりに郵送で届きました。またようやく選定結果(選定大学一覧などの各種資料)が2021年3月19日に文部科学省のホームページに掲載されました。

改革総合支援事業のスケジュールですが令和2年度及び過去数年間の調査の通知から公表までをまとめると次になります。

  調査・設問通知 締切 内示(大学通知) 選定公表
2016年 5/27 9/9 12/2 3/7
2017年 7/31 10/6 11/13 2/5
2018年 7/31 10/9 なし 2/26
2019年 8/27 10/28 3/4 3/19
2020年 7/14 11/30 2/15 3/19

令和2年度は新型コロナウイルスの関連もあり、〆切が昨年度より1か月遅かったですが、各大学への通知は早め、選定公表は昨年度同じでしたね。

さて、文部科学省から令和2年度の結果が公表され、選定大学一覧、選定状況、規模別・地域別の結果、設問ごとの該当件数などが出ています。

これらの資料を見ると令和2年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1は大規模大学の選定は少なく、収容定員2,000人以下の大学から選定率がそこそこあるようです。(大規模大学はタイプ2の研究、タイプ3の地域やプラットフォーム、タイプ4の社会実装、つまり全学としての取組が求められるものが少ないものは、タイプ1と比べて採択率はいい傾向にあります)

またタイプ1の選定ラインは令和元年度89点満点で48点、令和2年度は99点満点で68点と選定ラインが大幅に上がりました。前年度とはさほど設問に大きな変化はありませんでしたので、選定ラインが上がったポイントはどこでしょうか。今回比較するのは設問毎・回答毎の該当件数のデータから探ってみます。

使用するデータ(「設問毎・回答毎」の該当件数)

今回使用するのは設問毎のデータです。この資料は設問ごとに、申請校及び選定校でどれぐらいの校数(割合含む)がどの回答をしているかを知ることが出来ます。今回は各設問の最高点数をとっている割合を申請校及び選定校、令和元年度と令和2年度で比較をしてみます。

なお、今回は私であれば内部監査室に配属された際にどこをみるかを一言メモとしてつけてみました。

1.教育の質向上について

最初は教育の質向上に関する設問です。回答割合が高いほど赤みが強くなります。

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IR情報を活用した教育課程の検証はもともと取り組んでいる大学は多いですね。

昨年度より全体的に取組みが増えたのは、IR機能強化、ICT活用、学修成果の可視化、産業界との協議体制などでしょうか。特にICT活用についてはオンライン教育の取組で該当するとした大学も多いのかもしれません。

一方で卒業時調査、IR機能強化、情報リテラシー教育は令和元年度とさほど変わっておりません。昨年度は卒業式が出来ずに卒業時調査が出来なかったという話も聞いていますし、IRは他組織から講師として呼ばれないといけないので、ハードルは高いのかもしれません。 

◆監査や検査の確認ポイント◆ ①教育課程編成に関して広い見識のある者とした専門的な支援スタッフとは誰か?なぜ、その人なのかの客観的な根拠はあるか。
⑦GPAの活用で、GPAを活用した成績評価基準の標準化を行ったことを示す根拠資料はあるか
⑨ティーチングポートフォリオは書かせるだけではなく、面談やFDに活用された実績・記録はあるか
⑩ディプロマサプリメントの制度があり、内容はどうなっているか(学生が獲得した能力や知識を記載するようになっているか)様式だけを作っただけではなく、きちんと計測するものになっているか

 

2.高大接続について

今回の選定ラインが大幅にあがったのはおそらくここが大きな要因の一つでしょう。

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アドミッションオフィサーや高大連携強化以外は、昨年度と比較して得点について取っている大学が増えています。

ここの設問は4点設問も多く、特に一般選抜における多面的・総合的な評価や記述式問題、総合型・学校推薦型の基礎学力把握は昨年度より取り組んだとする大学が多いようです。

そもそもこれらは入学者選抜要項や募集要項で示しておく必要があり、令和元年度は設問を通知された8月下旬では対応が間に合わなかった大学も少なくなかったというのがあるでしょう。

あと以外なのは数学や情報の試験問題の出題で選定校や申請校でも対応している大学が多いので、ここの解釈は大学によって違うかもしれません(特に数学の問題の解釈については幅がありそうです)

◆監査や検査の確認ポイント◆ ⑭記述式問題は、要件で示されているような出題になっているか
⑮基礎学力の把握を用いた合否判断は実態があるか
⑯昨年度の令和元年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1に申請している場合は整合性がついているか
⑰アドミッションオフィサーは書面上ではなく、一定の権限があることが分かるか
共通 学部等の場合で1学部複数学科の場合は全ての学科で該当しているか
見出し付き直線の囲み枠例です。

 

 3.データ活用による教育展開とデータ活用人材の育成

データサイエンスやIRに関するのがここの主な設問です。短期的に対応できるものはだいぶ得点されるようになっています。

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4点の卒業後調査(卒業生と就職先)の調査の実施はだいぶ令和2年度は増えています。昨年度は就職先(ほぼ)全てという条件がありましたが、今年はそれが緩和されたこともあるでしょう。データサイエンスFDも実施が増えました。そもそもFDの実施なんてやればよくて、参加率は求められていないのでこれは当たり前の結果でしょう。

また選抜方法の妥当性の検証はクロス分析でOKという簡単なもので対応大学も増えたので、来年はなくなるか、別へ移動するかもしれません。

ただBetweenの情報サイトによるとデータサイエンス教育に関する事項は「一部、または全部削る方向で検討」とされているので、ここは大きく変わるかもしれません。

between.shinken-ad.co.jp

◆監査や検査の確認ポイント◆㉑IRの専門職としての基礎的な知識の有無、高度なデータ分析の実施や意思決定に資する提案の実績があるか。
㉒卒業後アンケート調査はきちんと教育改善に反映させる仕組みになっているか。

 

4.多様な教育体制と社会との連携

最後は多様な教育体制と社会との連携です。ここはオープンエデュケーション以外は大きな動きはありません。来年度はここが大きなカギとなるかもしれませんね。

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㉗と㉘は連携していれ、㉗の検討体制で検討したカリキュラムを実施しているのが㉘になります。オープンエデュケーションは配点も5点と高いのと対応のしやすさも多少あります(ただし先生の協力が不可欠な設問)。

◆監査や検査の確認ポイント◆㉗検討体制で職員も参画しているか(事務局だけでの参加ではないか)
㉙インターンシップは科目履修者全員が2週間以上実施しているか
㉚令和元年度においても、実務家教員が教育課程編成に参画する仕組みを構築しているとした場合、令和2年度はどうなっているか(仕組みの構築だけの場合は実施していない理由は明確に説明できるか) 

 

終わり

ざっとですが今年の結果について見てみました。これらの結果から、消える可能性あるいは教育の質に係る客観的指標に行く可能性がある設問は次でしょうか。

  • IR情報を活用した教育課程の検証
  • アクティブ・ラーニング
  • ICT活用
  • 選抜方法の妥当性の検証

タイプ1については、一般補助の「教育の質の指標」の設問へクラスチェンジすることもありますし、来年の一般補助の「教育の質の指標」による増減率は-6%~+6%と今年より大きくなるという情報もあります。

大学として対応するかは判断が難しい所ではありますね。