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人事の人に知ってほしい、採用活動にGPA制度と使う時の課題について

企業等の採用活動の際に、大学の成績を見るかどうかはそれぞれの組織の考えがあるかと思います。ただ成績とは何を見るでしょうか?

一般的にはGPA( Grade Point Average)を大学の成績として活用するケースが多いのではないかと思います。そもそもGPAとは文部科学省の学士課程答申の用語集には次のように説明がされています。

アメリカにおいて一般的に行われている学生の成績評価方法の一種,一般的な取扱
いの例は次のとおりである。
① 学生の評価方法として,授業科目ごとの成績評価を5段階(A,B,C,D,F)で評価し,それぞれに対して4・3・2・1・0のグレード・ポイントを付与し,この単位当たり平均(GPA,グレード・ポイント・アベレージ)を出す。
② 単位修得はDでも可能であるが,卒業のためには通算のGPAが2.0以上であることが必要とされる。
③ 3セメスター(1年半)連続してGPAが2.0未満の学生に対しては,退学勧告がなされる。
(但し,これは突然退学勧告がなされるわけではなく,学部長等から学習指導・生活指導等を行い,それでも学力不振が続いた場合に退学勧告となる。)なお,このような取扱いは,1セメスター(半年)に最低12単位,最高18単位の標準的な履修を課した上で成績評価し,行われるのが一般的である。

一般的には、GPA=(Sは4×修得単位数)+(Aは3×修得単位数)+(Bは2×修得単位数)+(Cは1×修得単位数)/総履修登録単位数 とすることが多いです。例えばこの表で計算してみましょう。

f:id:as-daigaku23:20200318142109p:plain

上記の表だとGPAは2.14でしょうか。

このGPAは文部科学省の委託調査「平成 29 年度文部科学省高等教育局委託事業『国内大学のGPAの算定及び活用に係る実態の把握に関する調査研究』報告書」によると、平成29年度の調査結果として回答大学618大学の内、92.2%がGPAを導入しています。これだけの大学であれば採用活動にGPAを使うのはいいのではと思うかもしれません。

しかし各大学のGPAを見るとGPAの算出方法にはかなり違いがあることが分かります。

そこで今回は2020年3月16-17日Googleで「大学 GPA 規程」で検索を行い、検索7ページまでに出てきた大学の規程から、GPAの計算方法の違いについて取り上げてみます。

成績評価はどのようにしているか

まずはGPAの前段階として成績評価についてです。

高校までの成績評価は相対評価でした。全体の中でこの成績はどれぐらいの割合なのかが決まっており、トップもいれば下の方も必ずいます。一方、あらかじめ示した基準が達成したかどうかで評価する絶対評価もあります。大学だと達成度評価と言っても分かりやすいかもしれません。

大学は絶対評価の所が多いだろうと推察しますが、活水女子大学のように一番成績のよい「S」は全体の0-15パーセントと規定されているケースもあります。

このように相対評価か絶対評価で成績上位の数は大きく変わる可能性がありますので、大学によってGPAの平均値は大きく変動するでしょう。例えば絶対評価の大学内であっても学部間でGPAの平均値がかなり異なるというのはたまに聞く話です。

大学が公開している情報としてどのように成績をつけるかを公開している大学もありますが、2020年3月時点ではさほど多くはありませんね。

GPAの計算方法の違いについて

既に上記で紹介したGPAの計算方法が一般的かと思いますが、GPAの順位が原成績の順位と違ってしまうという不都合を解消するために、ファンクショナルGPAを採用している大学(活水女子大学、別府大学、茨城大学等)があります。

ファンクショナルGPAはお茶の水女子大学のサイトをご覧下さい。

crdeg5.cf.ocha.ac.jp

またファンクショナルGPAについてはこちらが研究がまとまっています。

GPA制度の研究

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履修取消・履修中止制度のあるなしについて

大学によって履修の取消や中止といった制度がある事があります。これは履修登録期間内ではなく、授業を数回受けてから履修を取り消すといった制度です。

履修を取り消しても、記録が残るかどうかは大学によるかと思いますが、GPAに計算しないとしている大学もいくつか見られます。例えば天理大学、函館大学、清泉女学院大学、桜花学園大学、千葉科学大学等です。

履修取り消し制度は、(履修登録の上限制度もありますが)授業を受けてみて、どうも違うようであれば取り消しをしてGPAに入れない、授業が厳しければ中止にするといった活用も出来てしまいます。この制度あるなしでGPAが大きく変わるのかは定かではありませんが、留意すべきポイントであると感じます。

GPA対象外科目はどうなっているか

GPAは卒業単位に必要なものは含めるとしている大学が殆どだと思います。しかし規程を見ていくと、GPAの対象外科目を設定している大学があります。この対象外科目として大きく区分すると次の4つでしょうか。

  1. 所属期間以外で修得した授業科目。例えば入学前・編入学・再入学の時に持っている単位などが該当する。また単位も大学外で取ったものや大学内で取ったものもある。
  2. 大学・学長、学部長、学科長当がGPA算出除外科目として定めた授業科目
  3. 合格が不合格かだけを判定する科目や認定科目
  4. その他

他にも「まだ成績がついていない科目」としているものもありますが、これは次の学期に含まれることが多いようです。

では実際、大学はGPA対象外科目についてどうしているのでしょうか?今回調べた大学を一覧表にしてみました。あくまで私が設定した分類なので見落としや分離が違う所があるかもしれません。表の一番上の行の番号は上記の番号と対応しています。

大学名(順不同) 1  2 3 4
九州ルーテル学院大学    
尚絅大学      
秀明大学    
朝日大学    
天理大学      
函館大学    
清泉女学院大学     自由科目
九州大学  
金沢大学      
四天王寺大学       認定科目
山口県立大学   自由科目
佐賀大学        
富山大学    
四国学院大学        
お茶の水女子大学      
高知県立大学      
大阪教育大学      
活水女子大学      
桜花学園大学    単位互換
千葉科学大学      
千里金蘭大学     資格課程
別府大学      
茨城大学        
東京工業大学      
岐阜協立大学      
東都大学   単位互換
弘前大学      
上越教育大学学校教育学部       表で掲載

 

GPA対象外科目として、大学に来る前に持っている単位をGPA対象外とするケースが多いようです。また資格課程の科目やボランティアや保育実習などをGPA対象外科目と設定している大学もありました。

再履修になった場合、GPAはどうしているか

諸事情で単位を落としてしまった科目が必修や資格取得・カリキュラム構造上どうしても再履修が必要な場合、同じ科目で成績が2回つくことになります。この場合、GPAをどうするかも大学によって対応が分かれています。

  1. 落としてしまった科目と再履修の科目の両方をGPAに算入する
  2. 落としてしまった科目はGPAから除外し、再履修の科目分のみGPAに算入する
  3. 落としてしまった科目は学期GPAに算入し、累積GPAには算入しない

例えば2の対応とした大学は、別府大学、茨城大学、東都大学、四国学院大学、朝日大学、天理大学、函館大学などがありました。再履修が多い人はこの制度の有無でGPAが大きく変わってきますね。

採用活動に活用にするにあたって、大学のGPAは他の大学と比較はしない

さて、ざっとGPAの制度と大学の違いについて見てきました。GPAの計算方法は同じであっても、GPAに算入する科目や再履修の場合など大学によって異なる可能性があります。大学だからGPAは横並びでいいだろうと思うかもしれませんが、計算方法が異なる以上、応募者のGPAだけを横並びで見て、評価基準に使うことは難しいと感じます。

例えば、履修中止制度を大いに活用する、単位が取りやすく成績が上位層が多い授業を履修する、成績がダメそうなら再履修にして再チャレンジして前の科目成績結果をGPAに含めないなどなどしてGPAをあげようとすることは大学によって可能かもしれません。

また大学側も近年は情報公開がより厳しくなってきました。2020年に公開された教学マネジメント指針では情報公開を考えられる項目として成績評価に関するものもあります。こういうものを積極的に公開しつつ、大学外の人が大学の成績に対して適切な判断が出来るようにしなければならないとも思います。