大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ

大学や高等教育関連、法令の解説が中心のブログ

【スポンサーリンク】

大学の就職率が変わる?~補助金から見る就職率の算出の変更と課題~

大学が公開している重要な情報として、就職率があります。そして就職率は(大学によっては)学生募集の戦略上、非常に大きな意味を持ちます。例えば就職率がいいと高校生や保護者へのアピールポイントになりますし、逆に就職率が低いと学生の面倒見が悪いと捉えられたりしますね。

さらにはここ数年ですが、マスメディアの調査により大学ランキングなどで就職率ランキングなど評価指標が作られてもいます。

例えば「大学ランキング」には就職率ランキング(規模別)や就職率ランキング(学部別)など様々なランキングが掲載されています。

大学ランキング 2020 (AERAムック)

大学ランキング 2020 (AERAムック)

 

就職率を上げることは大学にとって重要であり、就職率は大学のホームページや大学案内などに、〇〇県内で就職率〇位と書いたりして、他の大学より就職率が良い事をアピールする事もある訳です。

また大学は学校教育法施行規則第172条の2により、教育研究活動等の情報を公表することが求められ、就職についても情報公表が求められています。

第百七十二条の二 大学は、次に掲げる教育研究活動等の状況についての情報を公表するものとする。

~略~

四 入学者の数、収容定員及び在学する学生の数、卒業又は修了した者の数並びに進学者数及び就職者数その他進学及び就職等の状況に関すること

 

なお、ここで求められているのは就職者数であって、就職率ではありません。よって、就職者数のみを公表している大学も少なくありません。(試しに適当な大学の情報公開ページから就職者数を見てみましょう。就職率を出していない大学も見つかるはずです)

さて、2019年度の私立大学の補助金の令和元年度「教育の質に係る客観的指標」が出たことにより就職の情報公開について、一定の指針が示されたと感じています。おそらく、教育の質に係る客観的に対応する大学の就職率は、詳細に他大学と比較しやすいものになっていきます。

そして今まで公開されている就職率は新しい計算式によりだいぶ下がった就職率になってしまうかもしれません。

就職率とは何か~概要と課題~

就職率を出すには、就職者or就職者+進学者等/学生数になりますが、学生数については①卒業者数とする場合と②就職希望者数とする場合があります。また就職率なのか、進路決定率なのかにもよって、母数は異なります(表1)

大学の就職率

表1では母数が卒業者数とする場合で進路決定者(進学する学生や他の進路(留学や短期間の就職者)の学生)は進路決定率を算出します。進路決定とは何を指すかは、大学によって違うかもしれませんが、例えば何らかの進路が決まっているとして一時的な職※の学生も入る場合は進路決定率はあまり低くなる事はないかもしれません。

※雇用期間が1年間未満

就職率①の場合は、大学院などに進学する学問分野の学科はどうしても就職率が低くなってしまいます。特に理系分野や心理学など大学院に行って資格取得を目指す場合は進学が多くなります。就職した者/就職希望者数から算出される就職率②が一般的な就職率と言われるものでしょう。

就職率の課題

ただ就職率②は、ある程度操作が出来てしまう事が課題です。それは母数となる就職希望者数は変動出来る数字である為です。

就職希望者とは就職を希望している学生です。そこには進学希望などは入りません。そして、就職をあきらめて大学卒業後は就職しないと決断してしまった人も就職希望者として入れないケースもあると聞きます。

そうなると、大学4年生3月に就職希望かどうかを聞いて、「就職はしない」と答えれば、就職希望者とみなさないという事も出来てしまう訳です。母数が減ると、就職率はぐ~んと上がる可能性もあります。これは就職率の議論をする上で以前から指摘されている事ですね。

 

文部科学省の就職率の取扱や定義について

文部科学省でも就職率の取扱いについて定めています。

www.mext.go.jp

「就職率」については、就職希望者に占める就職者の割合をいい、調査時点における就職者数を就職希望者で除したものとする。

2「就職率」における「就職者」とは、正規の職員(1年以上の非正規の職員として就職した者を含む)として最終的に就職した者(企業等から採用通知などが出された者)をいう。

3「就職率」における「就職希望者」とは、卒業年度中に就職活動を行い、大学等卒業後速やかに就職することを希望する者をいい、卒業後の進路として「進学」「自営業」「家事手伝い」「留年」「資格取得」などを希望する者は含まない。

4「就職率」の調査時点は、「4月1日現在」とする。

ここの文部科学省の就職率は就職希望者であり、進学希望などは含みません。また就職者は正規職員であるものをいい、非正規(アルバイト等)は含まないのです。

※ただ各大学がホームページ等で公開している就職率の就職者数は、単に「就職者/就職希望者」と表記されているだけだと、文部科学省の取扱いのように非正規を含んでいないかどうかは確認できないケースもありますね。

 

補助金により明確化された就職率

2019年度、経常費補助金の増減率に関わりのある「教育の質に係る客観的指標」の1つに私立大学で就職率の公開の仕方や方法に一石を投じるものがありました。その内容としては大きくは下記の3点にまとめることができます。

  • 就職率は学校基本調査を用いて算出すること
  • 就職率の算出方法について具体的に指示されていること
  • 就職率の算出及び公表は学科で行うこと

就職率は学校基本調査を用いて算出する

どの大学のデータも同じでないと、就職率を持つ意味は変わってきてしまいます。補助金上では学校基本調査を使うようにと示されました。学校基本調査は基幹統計の1つであり、このデータを用いる事は大学は既にあるデータを使用する為、「教育の質に係る客観的指標」に対応する大学からの就職率は、同じデータ定義での就職率が出てくることになります。

就職率の算出方法

ここが今回一番重要なポイントかと感じています。今回、学校基本調査を用いて、就職率を算出することとなっています。その定義は下記のようになります。

「就職者」+「進学者のうち就職している者」)/(「卒業者」-「大学院研究科等進学者」+「進学者のうち就職している者」

これだとちょっと分かりにくいですね。という事で一般的な就職率と「教育の質に係る客観的指標」の就職率を下記のように表してみます。まずは一般的な就職率です。

就職率

※学校基本調査では、他にも「不詳・死亡」などの欄がありますし、他にも欄はありますが分かりやすくするために、一部を省略しています。

就職希望者が分母に赤字の就職者を計算して就職率を算出します。なお、緑色の進学したけど就職した人や、雇用期間1年未満の人を入れるかどうかは大学によるかもしれません。

そして「教育の質に係る客観的指標」の就職率はこのようになります。 

教育の質に係る客観的指標の就職率

「教育の質に係る客観的指標」では就職率は、青色の進学は除き、オレンジの部分を母数とし、赤字の就職者と「進学し就職したもの」が就職者として扱います。

そうすると今まで就職希望者数が母数だった就職率ではなくなります。その為、就職希望者数から就職率を算出し100%と公表している大学は、今回の就職率の算出方法によって、公表就職率からだいぶ下がってしまうといった事があり得ます。

就職者数や就職率の公開

「教育の質に係る客観的指標」では就職率を学科ごとに算出と公表を求めています。ただ現状ではいくつか大学の就職率を見てみると、学部ごとのみ公表している大学も散見されます。

今回は学科ごとに就職率の公表が大学のホームページ・大学ポートレート・広報誌等で広く公表することが求められています。また今年度に対応するには2019年10月1日時点で公表する必要があります。そうなるといくつかの大学は新たに学科ごとの就職率を公表することになりますね。

 

終わりに

今回、補助金による政策誘導みたいな形で就職率について一定の指針が出たと言えるかもしれません。この就職率は母数が卒業者数を基本としているので、今まで就職率が100%に近かった大学はどのようになるのでしょうか。

また補助金上では(高い点数を取るためには)算出した就職率が学科系統分類表によって分けた学科の就職率が平均以上である必要があります。大学が擁する学科の8割以上の学科の就職率が平均以上であることも求められています。そうなると大学は1年以上の雇用期間がある就職者数を増やさないとなりません。また今回の新たな算出方法では専修学校の進学や留学は就職率を下げてしまう計算式です。これはちょっとおかしいのではないかとも思いますが…。

ただ「教育の質に係る客観的指標」の就職率に該当する設問は対応しないと大学が判断すれば、特に従う必要性はありません。どこまでの大学が今回の「教育の質に係る客観的指標」の就職率について対応するかはまだ分かりませんが、就職率の算出や持つ意味が今年は変化があったことは