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私立大学の実務家教員の教育課程編成への参画を求める事の国からの無茶ぶりさと無茶な対応案

2019年度の私立大学等改革総合支援事業で対応がまずムリゲー(設問)というかクソげー(設問)の1つに、専任問わず実務家教員の教育課程編成の参画があります。

この実務家教員の教育課程編成の参画については2018年に出された文部科学省中央教育審議会のグランドデザイン答申において、多様な教員について書かれた中で記述がありました。

社会のニーズを踏まえた教育を幅広く展開させることができるよう、実務経験を有する者の大学教育への参画を促すため、専任教員として実務家教員を配置することができる旨を、大学設置基準上、確認的に規定する。

実務家教員を配置することが社会のニーズを踏まえた教育になるかは少し疑問ではありますが…。

特に科目の到達目標を踏まえていない、15回の授業は自分で話が出来る知識すらないから外部スピーカーや自分語りで終わってしまう実務家教員はどうなのでしょう

さらに同答申では次のことも記載されています。

実務家教員が自らの実務における経験を教育課程に反映することで教育の質を向上させるために、実務家教員で6単位以上の担当授業科目を持つ場合は、教育課程の編成等に責任を負う者とするよう努めることとする。

この教育課程の編成等に責任を負うとはどのような意味を指すのでしょうか。責任を負うのであれば何かあった場合は賠償なり辞める事も踏まえていいのかと感じます。

さて、この答申後、2019年8月13日に「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令等の施行等について(通知)」が出ました。これにより大学設置基準が一部改正され、実務家教員に関しても大学設置基準に入ることとなります。

この通知の中では、実務家教員に関して詳細に説明がされています。例えば実務家教員とは次の事が記載されています。

  • 専攻分野におけるおおむね5年以上の実務の経験を有し,かつ,高度の実務能力を有する教員
  • 大学設置基準でいう実務家教員については,職位や雇用形態の別を問わず,また,改正省令施行の際現に大学に在職する教員を含むこと。
  •  実務家教員の実務の能力については,保有資格,実務の業績及び実務を離れた後の年数等により,判断されるものであること。
  • 実務を離れた後の年数については,おおよその目安として,10 年以内であることが望ましく,実務を離れる前の実務経験の長さも考慮されること。

また大学設置基準では次のようになります。

 (専攻分野における実務の経験及び高度の実務の能力を有する教員)
第十条の二大学に専攻分野におけるおおむね五年以上の実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力を有する教員を置く場合であつて、当該教員が一年につき六単位以上の授業科目を担当する場合には、大学は、当該教員が教育課程の編成について責任を担うこととするよう努めるものとする

これを見る限りは実務経験がある教員が6単位以上持っている場合、専任・兼任等にも関係なく、教育課程の編成について責任を担うように努める必要があります。まあ務めるなので、努力義務なのでしょうが、大学設置基準にある以上は様々なところから、実務家教員の教育課程編成の参画が求められています。

そして2019年の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1ではこの実務家教員が教育課程編成に関る仕組みがあるかの設問が出現しました。 

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またこのQ&Aで実務家教員は兼任教員も含むとしていますので、実務経験が5年以上あって年間6単位を持つ教員全てが教育課程編成等に参画する仕組みがある大学はほぼ皆無でしょう。 

兼任(非常勤)の実務家教員からみた無茶ぶりさ

兼任教員で科目を持つことを依頼され、半期1科目2単位を2科目、前期及び後期を担当することになった場合、急に「あなたは教育課程編成に責任をおうことになりました。つきましては〇〇の会議に参加が義務です」と言われたらどう思うでしょうか?

そもそもいくつか問題があるように思います。まず1つ目は兼任教員の給料は、科目を担当し、1コマあたり月に〇万円を支払います。責任を持たせるという事は、重みがでますのでそれだけのフィーがないといけないと感じます。給料も払わずに責任だけ押し付けてはいけません。2つめは会議への参画の難しさでしょうか。

また雇用形態の別に問わず条件に合う実務家教員に教育課程編成の責任を担わせるのはかなり無茶苦茶だなと感じます。

 

教学マネジメント体制と教育課程編成検討会議の曖昧さ

私立大学等改革総合支援事業や経常費補助金の増減に関係がある「教育の質に係る客観的指標」に対応するには、教学マネジメント体制の構築をする必要があります。大学によってはこれを教育課程編成の委員会や会議としている大学もあるでしょう。

※教学マネジメント体制では教育課程の編成に関する全学的な方針策定、検証、評価を行う組織であることが条件。また教育課程の編成を目的としていることが不可欠。

教学マネジメント体制として、教育課程の編成に関する方針や検証・評価を行い、教育課程の編成を目的とする会議を設置し、年に2回以上を開催しなければなりません。そして構成員は学長や学部長や専門的な支援スタッフなどとなります。

一方、実務家教員は教育課程編成の検討する会議体への参画です。正直、教学マネジメント体制の会議と教育課程編成を検討する会議とどう違うのかは非常にあいまいです。

 

教育課程編成の流れ

では、一例として教育課程を変更する場合の編成の流れを私立大学を例として見てみます。(※アイコンに他意はありません)

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例えば各部局(学部・学科)で教育成果やアンケートによる評価、自己点検評価によって教育課程の変更が出てきます。

そうすると次は教育課程の編成を検討する会議で検討され、各部局とやり取りをしながら教育課程編成について議論します。この会議は、例えば先ほどの教学マネジメント体制の会議の事もありますし、教授会でもあるでしょう。

最後に学長が決定し、学則変更を理事会に提出、変更した学則は文部科学省に届出を行います。

この流れだと実務家教員は、上の画像でオレンジ枠の会議に参加しないといけません。ただカリキュラム検討は非常に時間がかかる作業で年1回の会議で出来るものではありません。議論を重ねるために、打ち合わせをかなり行う必要があるのです。

そしてこの流れで実務家教員、しかも兼任教員に参加してもらうのはあまり現実的ではないように思います。

補助金対応の為の実務家教員参画案

もし教育課程編成の会議と教学マネジメント体制が同じ場合は実務家教員が参画するのは現実的ではありません。ということで私立大学等改革総合支援事業に対応する抜け道として新しい教育課程編成の検討会議を設置します。

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この流れとして、各部局で検討した教育課程を実務家教員参画の検討委員会で検討し、そこから教学マネジメント体制の会議(教育課程編成を審議する会議)で審議し、学長に提出するようにしてみます。これで実務家教員が教育課程編成に参画していると言えるかもしれませんね。う~ん、自分で書いてみて、かなり無茶ですね。

注意:なおこれは私学事業団や文部科学省に確認を取ったものではありません