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学生の学習時間と近年の大学改革の小道具

日本の大学生の学生の学習時間が足りないという意見は近年ずっと聞く話です。先日も下記のような記事が出ました。

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また溝上先生の書籍をあたると、確かに大学生からでは資質・能力は育たないという事が指摘されています。 

大学生白書2018 ーいまの大学教育では学生を変えられないー

大学生白書2018 ーいまの大学教育では学生を変えられないー

 

大学改革では教育改革が行われ、各大学は補助金などの政策誘導というニンジンに翻弄されながらも色んな改革や取組をしてきました。そこで今回は、政策の話ではなく、一大学職員が実際に見てきた、またやってきた数年の大学改革の変遷や取組についてまとめます。

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学生の(学習)時間の現状

学生の学習時間が(他の国と比べて)少ないという原因の矛先は時には大学に向かったり、学生自身に向かったりも。また3~4年生は就職活動や内定後の縛りなどから企業にも矛先が向かう事もあります。これらは、学生の学習時間について批判する立場によって、批判の的が異なってきます。

さて、ただ批判をしても何も出来ません。まずはいくつか現状を整理してみます。

(今回、あえて原因と明記しません。理由としては学生の学習時間が足りないのと今回紹介するものの因果関係があるかどうかが不明である為です)

  • ・学生には時間が足りない
  • ・大学の文化と学内の勉強する環境
  • ・授業だけ出れば、単位が出てしまう科目

ふと思いついたものでこんな理由が思い浮かびました。

学生には時間が足りない

最近の学生は非常に忙しいです。大学生は勉学が本業といえばその通りですが、半期にしっかり行われる15回の単位実質化を踏まえた授業だけではなく、長時間のアルバイトをする学生も少なくありません。
では、学生はどのような生活時間を送っているのでしょうか。今回、日本学生支援機構が実施している平成28年度学生生活調査の週当たりの平均生活時間を大学(昼間部)のみ見てみます。

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出典:平成28年度学生生活調査(独立行政法人日本学生支援機構(JASSO))

この図は学年を問わない結果の表ですが、大学の授業の予習・復習などは週1~5時間の割合が約半分、アルバイトは週に11時間以上は約4割以上となっています。ただ生活費や学費を稼ぐためにアルバイトをせざるを得ない状況もあるでしょう。

学生の学習環境と大学文化

本学に限らず、大学には残らない、大学には残りたくとも残れないという状況や文化がある大学もあります。例えば駅から遠く、夜になると交通手段が限られてしまう、施設が夜遅くまで開いていない、部活やサークルが活発でないので17時を過ぎると学内が閑散として大学にいると寂しいといった事もあるでしょう。

これが直接、学生の学習時間が短い原因とは断定できませんが、学生の学習時間を増やすには学内の環境も大事ではないかと感じています。 

 

学生の学習時間の把握

近年、各大学では学生の学習時間をはじめ、学生の学修行動の調査が盛んです。例えば私立大学では私立大学等改革総合支援事業などで学習時間の把握や調査の実施が求められているのも理由でしょう。
また授業アンケートで各科目の平均事前事後学習時間を問う大学もありますし、外部調査といったものもあるでしょう。

ただ学修行動調査で学習時間数を聞く場合、議論になるのは何をもって学習時間とするかです。授業に関係する(特に事前事後学習)のみとするのか、何の本でもいいから読書を入れるのか、また国家資格取得を目指す学部学科であれば資格勉強まで入れるのかといった議論があります。
(例えば、学修行動調査で長時間の学習時間であった資格取得系の学部が、授業アンケートでの事前事後学習時間の結果は他の学部と変わらなかったという時がありました。これは前者に多くの資格の勉強時間が入っているためと推察されます)

学生の学習時間を増やす方策や仕組みと問題

ここ数年、大学は何もしていなかった訳ではありません。私立大学等改革総合支援事業の誘導や他の補助金の誘導もありますが、取り組み自体はかなりやってきています。

シラバスの充実

ひと昔前のシラバスは、A4サイズ1枚の授業の概要や内容が書いてあるだけでした。しかし近年は15回の各授業でどのような事を行うのか、また各回の事前事後学習内容を明確に示している大学もあります。
特に昨年ぐらいからでしょうか、私立大学等改革総合支援事業でシラバスに事前事後学習時間を載せるようにと設問に記載されてから、各大学のシラバスは内容が色々と追加されています。

ただ単位制度の理解が原因か、事前事後学習を実質化(例えば2単位の授業であれば1週あたり4時間分の課題を明示)すると、「学生からはそんなに出来ない」といった意見や、「あれだけの課題を課すのは学生が可哀そう」といった意見もあり、現状の学習量を問う単位制度の理解と現実の乖離があったりもします。

CAP制度

年間あるいは学期ごとに履修できる単位数(あるいは科目数)を制限するCAP制度も殆どの大学で導入されています。例えば大学基準協会の認証評価では年間50単位程度を目安としています。ただ単位制度の原理原則に則るとセメスター制度の半期で15-16単位が適当ではないかとも考えられます。(1週間45時間の学習で15-16週計算です)

ただGPAが良い学生には多くの履修をさせたり、夏休みや春休みに集中授業の形で単位を追加するといった大学もあります。

このCAP制度も導入期には色んな議論がありました。例えば、CAP制度を厳格化、つまり半期で取れる単位数を厳しくすると3年次までに単位を取り終えない→就職活動が出来なくなるが一番多かった意見だったと思います。

履修とアドバイザー

最近は学生に教育を体系的に学んでもらう為に、履修系統図を示し、履修モデルに沿って学修していくようにとアドバイザーが指導する大学もあります。

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履修モデル自体は、大学や学部等を設置する時に必ず文部科学省に提出するので、近年設置された学部等は必ずあります。ただ履修モデルは、卒業できる単位数で作らないと文部科学省から指導を受けるケースもあると聞いています。

FDの実施

FDも最近は頻繁に行われています。本学でも授業方法のみならず、授業アンケートの結果や分析を基にしたFD、さらには事前事後学習をテーマとしたFDも実施しています。

時間割の検討

自分が学生の立場なら、授業を集中して履修して、すぐに帰りたい気持ちは分かります。でも例えば、1年生は必修科目が多いので、必修科目を2時限と4時限において、3時限に勉強する時間にしようと時間割コンセプトを組み立て、時間割を組んだ事もあります。

教育環境の改善

学生が事前事後学習を出来るように、大学は教育環境の改善をしています。主たるものはラーニングコモンズなどでしょうか。
最近はありませんが、一時は「私立大学等教育研究活性化設備整備事業」があったので、これでラーニングコモンズや学生の学習環境を整備するのが流行りましたね。

(当時は、企業の方から教育用什器に関する営業がかなりありました)

私立大学等教育研究活性化設備整備事業:文部科学省

本学でも多くの事業で学習環境を整備しましたが、一番効果があったと思うのは、特殊なICT機器ではなく、単に机と椅子を入れるものですね。しかも、机は変な形ではなく、単に長方形の机が一番使い勝手が良いらしく、一番使われています。

 

まとめ

大学はおおよそここ10年ばかり、シラバスをはじめ、学生の学習時間を延ばす、つまり単位の実質化を図る為、色んな小道具はかなり作り、運用してきました。この結果として私の勤務先大学では年々授業時間外学修時間は徐々に増加はしています。それでも、単位の実質化が図れているかというと抜本的な解決にまでは至っておりません。

今回の溝上先生の示唆は、企業は大学に、大学は高校に、高校は中学にと責任を押し付けあってきた現状から、例えば各大学は高校から大学へ一体的にどう生徒・学生の資質・能力を涵養すべきかといった議論になると思っています。

既に高大接続改革はまったなしの現状で、各大学は検討に向けて走りだしている時ですが、これらの示唆もふまえて、検討が必要なのかもしれません。