昔は履修登録というと自分が所属する学科(学位プログラム)のカリキュラム表を見ながら、履修登録をして卒業単位の条件を満たすまで、この分野であと●●単位と計算をして履修をしていた記憶があります。しかし当時は今でいう履修モデルなんてものはなく、シラバスも非常にシンプルでありました。
さて今回は履修モデルと履修体系図(履修系統図)についてです。文言で捉えると同じようなものかと思いますが、目的や内容が異なりますので、整理をしてみたいと思います。
カリキュラムは順次性・体系性が求められており、ここ数年学部学科等を設置する際(新しく作る時)に順次性や体系性が明確でないカリキュラムは国から意見が附されてしまいます。
要は寄せ集めの科目ではなく、3つのポリシー(特にディプロマポリシー)にそって科目を配置し、順に履修する事でディプロマポリシーを達成(学位を授与)する為にどのような科目を配置すればよいかが問われているのです。
それを明確化したものが履修体系図であり、いつどの時期に科目を取ればいいかを示したものが履修モデルです。
履修モデルについて
まず履修モデルですが、大学が学部等を設置申請する際は、履修モデルを出すことが求められており、「大学の設置に係る提出書類の作成の手引き」には次のように書かれています。(文部科学省 2018:p91)
履修モデルは,養成する具体的な人材像に対応したものごとに作成し,卒業要件単位数で作成してください。養成する人材像が複数にわたる場合は,複数作成してください。
つまりその学部学科、ここでは学位プログラムとしてもいいと思いますが、養成する人材像ごとに履修モデルが必要です。この履修モデルは、学部生であれば標準修業年限の4年間で各期にどの科目を履修し、何単位となるかが明示されているものが多いです。
また履修モデルは、CAP制度(単位の履修上限制度)に基づき、基本は124単位であることが求められます。例外としては資格取得を目的とした履修モデルで取らなければならない科目が多くある時などが考えられます。
参考となる履修モデル
さて、色んな大学の履修モデルを見てみましたが、参考となる、分かりやすいモデルの大学を紹介します。
例えば上記の大学の例を見てみると、学科やプログラムごとに、いつ(学年)どのような科目を履修したらいいかが明示されています。履修モデルは、単に履修する科目だけを並べたものもあるのですが、年次やセメスターごとに並べてあると非常に分かりやすい履修モデルです。
また養成する教員免許状取得を主目的とした学部学科や複数の人材像があると次のように明示しているケースもあります。
履修モデル | 文芸学部 | 学部・短大・大学院/教育 | 共立女子大学・短期大学
最初2つは教職課程ですが、共立女子大学の履修モデルは学生がどうなりたいかを主眼としたモデルで分かりやすいですね。(懸念として共立女子の履修モデルは、過去の学生の履修を参考と記載しているので、それが養成する人材像とどう結びつくかは上記リンク先のページからは分かりません)
履修モデルの懸念点
このような履修モデルを作ると、「単位を落とした学生はどうするのか?」という声も聞きますが、その際は新たにその学生用の履修モデルを作成するなどの方法が考えられます。
しかし履修モデルを作るにはカリキュラムの理解をしておく必要がありますので、カリキュラムコーディネーターといった専門職が確立されれば、そのような方の仕事になるのかもしれません。
また大学が履修モデルを作り、学生に示すという事は、履修モデル通りに履修登録できるようにしなければなりません。つまり時間割を履修モデル通りに履修できるようにしないとならないと考えています。
そうすると履修モデルを沢山示すと、時間割が複雑になるか、開講科目(授業)数を増やさないといけないといった事も考えられます。
履修体系(系統)図について
履修体系(系統)図は、答申や補助金等の要項に定義が載っています。 質的転換答申は関連する内容として次のように記載されています。
新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申):文部科学省
成熟社会において学生に求められる能力をどのようなプログラムで育成するか(学位授与の方針)を明示し、その方針に従ったプログラム全体の中で個々の授業科目は能力育成のどの部分を担うか を担当教員が認識し、他の授業科目と連携し関連し合いながら組織的に教育を展開す ること
また質的転換答申用語集には次のように記載されています。
学生に身につけさせる知識・能力と授業科目との間の対応関係を示し、体系的な履修を促す体 系図、カリキュラムマップ、カリキュラムチャート等。
今度は補助金関連から定義を見てみましょう。
2015年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1(教育の質向上)の質問⑭に履修系統図について次のように説明されています。
「履修系統図」は、単に授業科目の配当年次を示す表ではなく、以下の定義に照らして照らして説明できるものであるか。
「履修系統図」とは、学生に身につけさせる知識・能力との対応関係等を示した科目区分の下に授業科目を構成し、科目区分間、授業、科目間の関係性や履修順序(配当年次)等を示す図(いわゆるカリキュラムマップ)である。
補助金の資料の説明は非常に分かりやすいです。
さて、こちらも履修モデルと同様に、各大学で公開されている履修体系(系統)図を見てみましょう。
杏林大学
上記とは少し異なりますが、次のものも参考となるカリキュラムマップです。(カリキュラムマトリックスと言ってもいいかと思われます)
京都光華女子大学
東北福祉大学
社会福祉学科のカリキュラム - 東北福祉大学 [Tohoku Fukushi University]
履修モデルと比較すると、こちらは(ディプロマポリシーに記載されている)能力を身につけるにはどのような科目が体系的に配置されているかがすぐに分かるかと思います。(履修モデルは養成する人材ごとに、どのように科目を履修すればいいかが明示されているものでした)
また履修体系図を作るということは、各科目が勝手に到達目標を決めるのではなく、学生に身につけさせる知識・能力との対応関係と体系性・順次性によって到達目標を定め、授業を構築する必要があります。
さらに履修体系図によって、学生を含めたステークホルダーへの説明にもなります。これらを作成するにはカリキュラムの基本的な知識や分野ごとの知識も必要ですが、カリキュラムコーディネーターと呼ばれる人自体はあまりいないかと思います。今後大学業界で生き残っていくには、このような事に取組んで専門職を目指すのも一つの道だろうと考えています。