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高大接続改革と入学前教育の意味付けや内容

 最近、高大接続の議論や取組、そして先進事例の紹介を目にする事が近年は多くなっています。その中でも下記のように、入学前教育についての事例も目にするようになりました。

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 そもそも入学前教育ですが、最近の文部科学省の文書には下記のように記載されています。

 

 

高大接続改革の実施方針等の策定について(平成29年7月13日)

高大接続改革の実施方針等の策定について(平成29年7月13日):文部科学省 

3.入学前教育の充実【課題】

○ 入学前教育については、既に平成23年度実施要項から「各大学は、入学手続をとった者に対しては、必要に応じ、これらの者の出身高等学校と協力しつつ、入学までに取り組むべき課題を課すなど、入学後の学習のための準備をあらかじめ講ずるよう努める。」旨盛り込んでいる。
○ 大学で入学前教育を実施する割合は「AO入試」で69%、「推薦入試」で86%となっており、何らかの形で高等学校と連携する割合は「AO入試」で99%、「推薦入試」で33%となっている。しかし、早期の合格後の学習意欲の維持は、高等学校・大学双方において大きな課題となっており、高等学校における適切な指導と併せ、入学前教育の実質化を図る必要がある。
※大学は、入学前教育の実施目的として、「学習習慣の維持」(80%)、「高校の復習」(67%)を挙げている。また、入学前教育の充実に向けた対策として、「意欲喚起の施策」(50%)、「学力アッププログラム」(29%)が重要であると認識しており、いずれも高校学習やその意欲が課題の上位を占めている。
【対応】
早期に合格が決定した後の学習意欲を継続する観点から、実施要項に次のような内容を盛り込む。
① 入学前教育について、特に12月以前に入学手続をとった者に対しては、「積極的に講ずる」ことを実施要項に盛り込む。各高等学校においても、大学と連携し学習意欲を維持するための必要な指導を行うよう努める。
② 学校推薦型選抜の場合、高等学校による推薦段階だけでなく、合格決定後も、推薦を行った高等学校の指導の下に、例えば、入学予定者に対して大学入学までの学習計画を立てさせ、また、その取組状況等を高等学校を通じ大学に報告させるなど、高大連携した取組を行うことが望ましい。

 ここで入学前教育は、12月以前に入学手続きをとった者にも積極的に行う、高校と大学が連携するといったことが言われています。でもここで違和感があるのは、入学前教育は、「高校側が早期に大学入学試験に合格し、一般入試を受ける高校生に影響を与えないように大学側が課題を出してほしい」といった側面があったかと思います。そこでいくつか入学前教育について検討する事をまとめます。

 

○入学前の教育の意味付け

 ただ大学側としては、入学前教育に何をさせるかは悩む所です。井下先生は「補習教育に力点をおくのがいいのか、あるいは大学教育への意識を高めるため、学問への動機付けを重視するのか」(井下,2013)と述べており、補習教育か初年次教育といった面がある事を述べられています。

 補習教育は入試合格時に大学教育を受けるにあたって不足している学力を補うために行われる教育であり、初年次教育は高校から大学への円滑な移行を図るために行われるものです。この比率は大学によって異なるでしょうが、事例を見る限りは入学前教育というキーワードの中に補習教育について述べられているものが多くあるように感じます。

 

○入学前教育の時期について

 まずは入試はいつから始まるのでしょうか?大学の入試日を見ていくのは大変ですので、文部科学省の入学者選抜実施要項を見てみましょう。

入学者選抜実施要項:文部科学省

平成30年の入学者選抜実施要項の試験期日は次の通り、記載されています。

第4 試験期日等
1 各大学で実施する一般入試及び専門学科・総合学科卒業生入試における学力検査の期日並びにアドミッション・オフィス入試及び推薦入試において学力検査を課す場合の期日については、次により適宜定める。
(1) 試 験 期 日 平成30年2月1日から4月15日までの間
(2) 入学願書受付期間 試験期日に応じて定める。
(3) 合格者の決定発表 平成30年4月20日まで
2 アドミッション・オフィス入試、推薦入試等において学力検査を課さない場合は、上記1(1)の試験期日によることを要しないが、高等学校教育に対する影響や入学志願者に対する負担に十分配慮する。
アドミッション・オフィス入試については、入学願書受付を平成29年8月1日以降とする。
推薦入試による場合は、原則として入学願書受付を平成29年11月1日以降とし、その判定結果を一般入試の試験期日の10日前までに発表する。
5 帰国子女入試、社会人入試については、上記1(1)によることを要しない。

 そうすると、アドミッション・オフィス入試は9月(中には8月もある)、推薦入試は11月に合格がでることになります。先ほど高大接続改革の実施方針等の策定についての中で「12月以前に入学手続をとった者に対しては、「積極的に講ずる」ことを実施要項に盛り込む」とあるように、入学前教育は9~10月から始まることも考えられます。

 

○入学前教育プログラムの開発・運用

 入学前教育は目的を踏まえ、どの組織レベルか(大学か、学位プログラムに即した内容か、個人の知識や能力に応じたプログラム)といった事と、どのような方法(例えばLMS、郵送、集合してセミナー)で行うかといった事も考えられます。ただ事例等を見る限りは現実的には学位プログラムに即した内容が多いのではと思います。

 またどこが開発するか、それを運用するかといった課題もあります。大学の先生が冊子を作成するケースもあるでしょうし、様々な企業が入学前教育に活用できるプログラム(及び冊子等)の売り込みがあるのでそれらを活用するケースもあるでしょう。

 

そもそも入学前教育はそれのみが語られるのではなく、学生募集や入試、カリキュラムや初年次教育とセットとして議論されないと、意味がないと思っています。

 

また大学によって方針が異なるでしょうし、高校と連携して入学前教育を実施するという国からの文書についてどのように行っていくかはまだまだ検討の余地があります。必要なのは、入試だけ、初年次教育だけ、入学前教育だけが分かるのではなく、包括して状況や問題点を把握し、プログラム開発や運用を出来る人が必要なのだろうなと思います。

 

引用・参考文献

井下千以子,(2013),「入学前教育の動向と課題ーギャップタームをどう活かすのか」  初年次教育学会 (編),『 初年次教育の現状と未来』,世界思想社,113-129.