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学位プログラムと新たな学修プログラム

平成30年6月8日に大学設置基準が改正され、工学系の学科の縦割りに関する改正がされました。

今回は、この改正についての議論や今後の方向性について、整理をしていきます。

 

学位プログラムとは何か

まずこの大学設置基準改正を話をする上で、学位プログラムについて、押さえておきましょう。

では学位プログラムとは何でしょうか?学位プログラムとは次のように説明されています。(中央教育審議会,2009)

大学等において、学生に短期大学士・学士・修士・博士・専門職学位といった学位を取得させるに当たり、当該学位のレベルと分野に応じて達成すべき能力を明示し、それを修得させるように体系的に設計した教育プログラムのこと

そして、大学は学位プログラムを中心とした制度設計を求められています。この点については次のように指摘されています。(中央教育審議会,2009)

従来のような学部や研究科等の組織に着目した大学制度ではなく、学位の取得を目指す学生の学修の視点に立って、学位のレベルと分野に応じて達成すべき能力を修得するように体系的に設計された、学位プログラムの実施に着目した大学制度

学士課程答申から言われていますが、「何を教えるか」ではなく「何が出来るようになったか」や「どのような能力を身につけるか」かを体系的に設計した教育プログラムが学位プログラムであるとも解釈できます。

 

学位プログラムと組織

学位プログラムの実施組織として

学生の所属する組織=教員が所属する組織=提供される学位プログラムが、一対一の関係にあることが原則

と(中央教育審議会,2017)言われています。しかし、もともとは文部科学省には次のような記載もありました。(文部科学省,2009)

「教員組織」や「学生の所属組織」は、様々な形態が考えられる。 

これらを踏まえて、法令上では教育組織について整備がされ学校教育法85条や大学設置基準の第二章の3条及び4条に示されています。

 

しかし、必要な場合に別途学部に変えて組織を設けることが出来る事は法令上整備されてますので押さえておく必要があります。この根拠は大学であれば大学設置基準第6条となります。

<参考>

(学校教育法)

第八十五条 大学には、学部を置くことを常例とする。ただし、当該大学の教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては、学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる。

 www.daigaku23.com

  ※大学設置基準は過去記事を参照

www.daigaku23.com

 

学位プログラムのあり方を見据えた議論

学修プログラムとは

学位プログラムは原則として、教育組織と研究組織の一対一の関係が殆どだと思います。例えば学部学科が教員組織と研究組織になっている大学が殆どであると思います。

しかしこの組織のあり方については次のような課題が挙げられています。(中央教育審議会,2017a) 

①近年の急速な学術研究の推進や大学教育に対する社会的ニーズ等を踏まえ、研究上の要請と教育上の要請とが必ずしも一致しない場合がある点

②学部等の独立性を強調するあまり、組織間の協力や資源の結集が困難となり、例えば境界領域の分野などの教育に機動的に対応できない場合があるという点

学部といった組織は、簡単に変える事は手続が必要ですのでそう簡単にはできませんし、学部間の壁は教育研究や大学運営でも同じものが必要であったりと資源がより必要であったりもします。

また現行の法令では、教員組織と研究組織の分離は出来ても、既存にある学部等の資源を持ち寄って新たな学位プログラムは作ることは出来ません。そのような学位プログラムを実現したい場合は新たに学部等の設置認可申請が必要となります。

 

そこで新たな考えが2017年に制度・教育改革ワーキンググループで議論されました。(中央教育審議会,2017a)

既存の学部を活かし、学部間の組織を超えて、科目を体系的に配置した学位プログラムを「学修プログラム」

この学修プログラムとは、他の異なる学部学科の学位プログラムを組み合わせて、新しい体系化された教育プログラムである学位プログラムを構築する制度です。

イメージとしては、複数学部のカリキュラムに横串を通して科目をいくつかピックアップし、さらに新たに科目をいくつか足して体系化された学位プログラムを構築していきます。

 

しかしこの学修プログラムはそう簡単にできるものではありません。例えば学修プログラムの課題として次の課題が示されています。(中央教育審議会,2017a)

①設置基準上の在り方、②大学設置審査との関係、③教学管理体制はどうするか、④学修プログラムを担当する教員組織のあり方、⑤教員のエフォート管理、⑥学修プログラムに参加する学生組織(収容定員)の在り方、⑦内部質保証(3つのポリシーによるPDCA)の在り方

例えば、既にある資源(教員や科目)を活用する場合は教員数や施設校舎など最低限の基準である大学設置基準との関連性はどうするか、既存の学位プログラムに属する教員が新たな学修(学位)プログラムも担当する場合は教育研究や学生指導などの役割分担をどうするか、学修プログラムについて誰がこのプログラムについて責任を持つかといった点となります。

 

2018年6月15日閣議決定について

内閣府の閣議決定で、学位プログラムが学修プログラムについて、記載があるので確認をします。(内閣府,2018a)

教員を一つの学部に限り専任教員とする運用を緩和し、学内の人的資源を有効活用することによって社会の新たなニーズに柔軟に対応できる教育プログラムを実現する

また工学系についてもこのように記載されています。

工学系の学科・専攻の定員設定・教員編成を柔軟化し、主専攻・副専攻(メジャー・マイナー)制の導入を促進する大学設置基準の改正2018年度中に実施(情報系教員の他学科・他専攻での活用や重点配置、データサイエンスを全ての学生が専攻することも可能)

1つめの閣議決定はこれからでしょうが、2つめの記載に関する工学部については閣議決定より前に6月8日に公布され施行されています。

 

工学部の定員設定・教員編成の柔軟化

学部教育改革に関する大学設置基準は平成30年6月8日の中央教育審議会で答申が出され公布及び施行されました。

この大学設置基準の改正は、工学部及び工学系の大学院を対象として、大学設置基準第5条に定めている「学科に代えて学生の履修上の区分に応じて組織される課程を設けることができる」や大学院設置基準第七条の三「研究科以外の基本組織」を適用した場合に次のことを認めるものです。

 ①学部等全体で教員編成を行い、複数の専攻分野を組み合わせた教育課程の展開の促進。

 ②学生の収容定員の管理は学部等で行う事を出来る。

イメージとしては、学科を廃止し、学部内で柔軟に課程を作ります。そして学生の定員は課程ごとではなく、学部として定員管理を行います。

また教員数についても学部学科ごとに大学設置基準別表1により定められていますが、これを学科から学部レベルとして見ることとなります。つまり課程ごとに教員数は問われない措置という事になります。

この事により課程の学生定員は柔軟に変更する事が可能となると言えます。

 

「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」での学位プログラムの議論

 中央教育審議会大学分科会将来構想部会から出された「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」には学位プログラムについて、次のように述べられています。(中央教育審議会,2018)

・学部、研究科等の組織の枠を越えた学位プログラムの実現
・単位互換制度と「自ら開設」の原則との関係
・教員は一つの大学に限り専任となる原則

最初の学部等を超えた学位プログラムは2017年度の大学分科会制度・教育改革ワーキンググループプログラムでの議論されていた「学修プログラム」と議論されていたものです。
 

これらをまとめると、今後文部科学省は次のように考えているのと思っています。

  大学間を超えた教育資源の共有化 ←単位互換等の制度や運用の改善
  学部を越えた学位プログラム ←新たな類型として設置可能とする予定
  学科を越えた学位プログラム   ←工学部のみ、既に設置基準改正済

おそらく次に議論されるのは学部を越えた教育プログラムの構築をどうするかでしょう。大学としては、既存の資源を活用して新たなプログラムが認められるのあれば、検討する余地はあるかもしれません。

しかしそれだけではなく、将来的には大学間をまたいだ学位プログラムの構築を行うといった事もありそうです。特に私立大学等改革総合支援事業のタイプ3の大学間の連携やタイプ5のプラットフォームでは近年設問に入ってくるかもしれませんね。

 

引用・参考文献

・中央教育審議会(2009)『学位プログラムを中心とした大学制度の再構成について』(平成21年1月22日第74回大学分科会配布資料)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/attach/1259115.htm(2018年6月29日)

・中央教育審議会(2017a)『学位プログラムを中心とした大学制度の検討の可能性』(平成29年10月30日大学分科会第6回制度・教育改革ワーキンググループ配布資料)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/11/01/1397943_1.pdf(2018年6月29日)

・中央教育審議会(2017b)『今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理』(平成29年12月28日大学分科会将来構想部会)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1400115.htm

・中央教育審議会(2018)『今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ』(平成30年6月28日大学分科会将来構想部会)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1406578.htm

・内閣府(2018a)『経済財政運営と改革の基本方針 2018 ~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~(平成30年6月15日)』

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html(2018年7月3日)

・内閣府(2018b)『統合イノベーション戦略(平成30年6月15日)』

http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html

・文部科学省(2018)『大学設置基準・大学院設置基準等の一部改正【概要】』(平成30年6月8日)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/06/14/1406164_1_4_1.pdf

・中央教育審議会(2009)『学位プログラムを中心とした大学制度の再構成について』(平成21年1月22日第74回大学分科会配布資料)  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/attach/1259115.htm(2018年6月29日)

・中央教育審議会(2017a)『学位プログラムを中心とした大学制度の検討の可能性』(平成29年10月30日大学分科会第6回制度・教育改革ワーキンググループ配布資料)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/11/01/1397943_1.pdf(2018年6月29日)

・中央教育審議会(2017b)『今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理』(平成29年12月28日大学分科会将来構想部会)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1400115.htm

・中央教育審議会(2018)『今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ』(平成30年6月28日大学分科会将来構想部会)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1406578.htm

・内閣府(2018a)『経済財政運営と改革の基本方針 2018 ~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~(平成30年6月15日)』
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html(2018年7月3日)

・内閣府(2018b)『統合イノベーション戦略(平成30年6月15日)』
http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html

・文部科学省(2018)『大学設置基準・大学院設置基準等の一部改正【概要】』(平成30年6月8日)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/06/14/1406164_1_4_1.pdf