大学職員が押さえて(理解して)おくべきものとして、「大学設置基準」が挙げられるかと思います。その中で分かりにくいものとして、「この規模の領域の学部学科で、何人の教員がいるのだろう?」という事ではないでしょうか。特に教員数の計算についてはやった経験がないと分かりにくいとも聞きます。
なお教員数の計算に関する関連する法令は次のところですね
※参考 総務省法令データベース 大学設置基準
第13条は「大学における専任教員の数は、別表第一により当該大学に置く学部の種類及び規模に応じ定める教授等の数(共同学科を置く学部にあつては、当該学部における共同学科以外の学科を一の学部とみなして同表を適用して得られる教授等の数と第四十六条の規定により得られる当該共同学科に係る専任教員の数を合計した数)と別表第二により大学全体の収容定員に応じ定める教授等の数を合計した数以上とする。
これから、大きく分けると次の2つの計算をする必要があります。
①別表第一により当該大学に置く学部の種類及び規模に応じ定める教授等の数と②別表第二により大学全体の収容定員に応じ定める教授等の数を合計した数という事ですね。
②は大学全体の収容定員に応じ定める教授等の数ですが、簡単な計算ですね。①については、弊ブログでこんな記事を書きました。
ただ近年は色んな領域が入った学際系の学部も増えており、教員数の計算はわかりにくいこともあります。そこで今回が学際系学部の計算例についてまとめてみます。
学際系学部の必要教員数の計算
さて、今回取り上げるのは学際系学部の教員数の計算についてです。
そもそも学際系とはある学問領域(学部の種類)だけではなく、いくつかの領域にまたがっている学問分野を指します。例えば「総合○○学部」や「情報○○学部」、「国際○○学部」などですね。大学設置基準では教員数の計算は、学問分野ごとに記載されていますので、学際系ごとの学問分野は載っていません(様々な想定がされますし、実際に様々な学部学科等があります)
計算方法のシミュレーション①1学部1学科の学際系学科
それでは仮想のB大学で計算をしてみましょう。基礎は既に以前の記事で書いていますので、学際系学部の計算方法が分かるように例は一つだけです。
B大学 1学部1学科 入学定員150名、収容定員600名
(内訳)福祉学部福祉心理学科 入学定員150名、収容定員600名
さて、この福祉心理ですが、①福祉と②心理の領域があります。大学設置基準別表第一では①福祉は「社会学・社会福祉学関係」、②心理は「文学関係」です。また1学科で組織しています。
まずはそれぞれ計算してみましょう。(念のため、別表1をつけておきます)
(参考)
別表第一 学部の種類及び規模に応じ定める専任教員数 (第十三条関係)
イ 医学又は歯学に関する学部以外の学部に係るもの
学部の種類 | 一学科で組織する場合の専任教員数 | 二以上の学科で組織する場合の一学科の収容定員並びに専任教員数 | ||
収容定員 | 専任教員数 | 収容定員 | 専任教員数 | |
文学関係 | 三二〇―六〇〇 | 一〇 | 二〇〇―四〇〇 | 六 |
教育学・保育学関係 | 三二〇―六〇〇 | 一〇 | 二〇〇―四〇〇 | 六 |
法学関係 | 四〇〇―八〇〇 | 一四 | 四〇〇―六〇〇 | 一〇 |
経済学関係 | 四〇〇―八〇〇 | 一四 | 四〇〇―六〇〇 | 一〇 |
社会学・社会福祉学関係 | 四〇〇―八〇〇 | 一四 | 四〇〇―六〇〇 | 一〇 |
理学関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一四 | 一六〇―三二〇 | 八 |
工学関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一四 | 一六〇―三二〇 | 八 |
農学関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一四 | 一六〇―三二〇 | 八 |
獣医学関係 | 三〇〇―六〇〇 | 二八 | 二四〇―四八〇 | 一六 |
薬学関係(臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするもの) | 三〇〇―六〇〇 | 二八 | 二四〇―三六〇 | 一六 |
薬学関係(臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするものを除く。) | 二〇〇―四〇〇 | 一四 | 一六〇―二四〇 | 八 |
家政関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一〇 | 一六〇―二四〇 | 六 |
美術関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一〇 | 一六〇―二四〇 | 六 |
音楽関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一〇 | 一六〇―二四〇 | 六 |
体育関係 | 二〇〇―四〇〇 | 一二 | 一六〇―三二〇 | 八 |
保健衛生学関係(看護学関係) | 二〇〇―四〇〇 | 一二 | ― | ― |
保健衛生学関係(看護学関係を除く。) | 二〇〇―四〇〇 | 一四 | 一六〇―三二〇 | 八 |
①社会学・社会福祉学は、収容定員500名だと14人の教員が必要です。②文学関係は、収容定員500名だと10名の教員が必要です。
(①は14名+②は10名)÷2(領域数)=12名←例で必要な教員数
計算方法のシミュレーション②1学部2学科の学際系学科
先ほどの例は学際系でも簡単な例ですが、例えば次のケースはどうでしょうか?
B大学 1学部2学科 入学定員200名、収容定員800名
(内訳)福祉学部福祉心理学科 入学定員100名、収容定員400名
福祉学部福祉学科 入学定員100名、収容定員400名
今回は1学部2学科です。福祉心理学科には社会学・社会福祉学と文学関係、福祉学科は社会学・社会福祉学となります。
計算は先ほどと変わらないのですが、気をつける事が一つあります。それは社会学・社会福祉学は別表3の「二以上の学科で組織する場合の一学科の収容定員並びに専任教員数」の欄を見る必要があります。これは福祉学科があるので、2以上の学科とみなす為です。よって計算は次の通りです。
※ここについては2018年11月に指摘をうけ、解釈を変えています。
福祉心理学科 (社会学・社会福祉学は10名+文学関係6名)÷2=8名
福祉学科 別表3の二以上の学科で組織する欄から、10名
計算しやすいように、分かりやすい入学定員にしていますが、基本は変わりません。
最後に2領域で構成されている学部学科等ならいいのですが、3領域以上の学部学科もありますが、応用にするだけです。分かってしまえば、なんという事のない計算なのですが、該当学部が何の領域なのかは押さえておく必要があります。
終わりに
学際系学部の計算方法は明文化された公式資料がないかと思うので、色んな人と答え合わせをしたほうがよいと思いますし、必要なのは該当の教育課程にどの領域が入っているかがわかっていることです。
学位名称と領域が同じとは限らないので要注意
また学部学科の設置届出の戦略として、なぜか別分野の領域も入っているといった学際系学部の例もありますので、設置認可時の書類などで必ず確認をしましょう。
(2018年11月15日更新)(2021年1月29日一部修正及び追記)