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全国規模の学生調査の懸念と課題と思われるもの~教学マネジメント特別委員会第5回より~

2019年5月30日に行われる中央教育審議会大学分科会教学マネジメント特別委員会(第5回)の資料が文部科学省のHPに公開されています。

第5回の議題は学修成果の可視化、特に「成績評価」が主題です。さらに全国規模の学生調査の概要や企画書も提示されています。

成績評価についてはルーブリック至上主義が垣間見える気もするのですが、今までの議論からの延長戦です。

一方、全国規模の学生調査は新しい事項ではありますが、現場で調査等にも関わっている立場からするといくつか課題や不安があります。なお、本記事では学生調査は、今回の提案で示されている全国共通の学生調査を示します。

 

学生調査は各大学の間接評価になりうるか

学生調査は「直接評価」と「間接評価」の区分では、間接評価になります。各大学で行われている学修行動調査は、各大学のDP等に合わせて設計され、どのような能力を身に付けたか学生の主観により回答され、それらを評価に使う事になります。

今回の調査提案では、「次の知識や能力を身に付けるために、大学教育は役立っていると思いますか」という設問はあります。ただこれでは能力を身に付けたかどうかの評価にはなりません。

 

学生の調査負担や調査疲れをさらに招くのでは?

先ほどこの学生調査は間接評価にはなりにくいのではと述べました。そうすると大学としては間接評価等を目的として、引き続き学修行動調査を実施する必要があります。

特に私立大学においては、経常費補助の教育の質に係る指標で「学生の学修時間の実態及び学修行動の把握を組織的に行う」事が求められています。また私立大学等改革総合支援事業ではそれらの結果を学修指導等に活用する事が求められています。

また既にカリキュラム・ポリシーの教育評価に学修行動調査を用いて評価をするとしている大学もあるでしょう。

現状では私立大学では学修行動調査をなくす選択肢はほぼありません。また学修行動調査以外にも入学時の調査、授業アンケート、学生生活調査、卒業時調査などもあります

そこで言われるのが学生の調査疲れです。今回提案の学生調査は3年に1回や、調査時期は適当な時期としていますが、他の調査等からある程度配慮いただきたい点です。

 

学生調査の公表とランク付けについて

大学で働く者として非常に懸念点が、この調査結果が大学及び学部別に公表された場合は面白おかしく取りまとめる可能性があるという事です。

特に共通調査という特性から、「学習時間が長い大学や学部ランキング」みたいな安易なランク付け記事が出てくる事が安易に想像できます。

 

認証評価での活用について

「将来的には、エビデンスデータとして認証評価において活用を検討」とあります。大学側が調査結果をもとに、全国平均と比較して「本学は一定の質以上にある」と言い張るのか、認証評価の「評価の観点」で使われるのかは、まだ分かりません。

認証評価の第3期では内部質保証システムがきちんと動いている事が問われています。内部質保証の観点から大学の教育研究活動のエビデンスデータとして使うのはいいですが、この結果のみを評価に使うとなった場合はどうなるのが不安要素です。

まさか「この大学は学生調査の〇〇についての〇〇の割合が低いので、保留とする」とはならないと思いますけど。

 

学生調査のインターネット(WEB)調査の実施について

2019年5月30日時点での資料には検討課題として、二重回答防止や回答率が低いかもしれない事が挙げられています。

例えば学内で各種調査をWEB調査を行う場合は教学システムと紐づけるなりして、二重回答防止をしています。

また回答率を上げるには、度重なる広報や調査が始まってからの督促を行うなどを大学として工夫し手間暇をかけています。おそらく紙面調査より、手間暇がかかります。

ただ督促をするには誰が回答していないかを把握する必要もあります。もし学外のWEBシステムで行う場合は、その時点での回答率や誰が回答したか分からないと学生全員に何回も督促などを行う事も考えられます。

 

学生の学修時間、授業出席と予習復習等の安易な集計と分析

全国規模で学生の学修時間、特に事前事後学習を問う調査は大変意義があると思います。ただ調査実施時期は3年生であるという事、履修単位の上限制度のCAP制度もあり単純に比較することは疑問です。

今回の学生の生活時間の尺度は0時間から5時間刻みです。例えば週に「授業への出席」で30時間あるとします。仮にセメスターで全ての授業が90分1コマで2単位の場合、30時間×60分÷90=20コマ、20コマ×2で=40単位となります。

単純計算で年間80単位分の授業が履修出来てしまう大学は質としてはどうなのかという疑問です。

でもこれは大学にいるからわかる事で、ステークホルダーからすると学費を沢山払っているから大学で勉強をさせる大学がいい大学と思う場合もあるかもしれません。この辺りはそうではない事をしっかりと広報する必要があると思います。

 

アンケートの委託事業について

おそらくこの調査はどこかの企業等が受託されて、システムを組むなりしてやるのでしょう。大学の立場として申し上げるのであれば、事前にしっかりと精査をしてから、学生に調査が出来るようにしていただきたいと思います。

近年の文部科学省の受託の調査は、正直言って酷いとしか言いようがありません。事前リサーチすらないのかもしれませんが、度重なる調査の修正連絡があったりもします。その際はデータ等の集め直しが必要なこともあります。

今回は学生個々に調査を実施するのであれば、そのような事があり、同じ調査を何回も学生にやらせると、学生が調査そのものへの不信感を抱きかねません。

令和元年は試行との事ですが、修正や再度の回答依頼等がないようにして欲しいと願うばかりです。