先日、松野弘先生の「忍び寄る「大学倒産」危機 2000年以降すでに14校が倒産している」という記事を拝見しました。そこで私立大学職員と大学職員ブロガーの立ち位置で自分であれば同様の内容はどう捉えて書いてみました。
なお、定員充足の規程要因に関する分析は、同業の方のブログのこちらをご覧下さい。
私立大学と入学定員充足率
日本私立学校振興・共済事業団は「私立大学・短期大学等入試動向調査」を公表しています。これは、毎年実施している「学校法人基礎調査」から入学定員や志願者数及び入学者数等をまとめたレポートです。
さてこのレポートには、日本の大学や短期大学のの入学の状況を俯瞰する事が出来まして、特に私立大学の何パーセントが入学定員充足率100%未満なのかが特徴として記載されています。
さて、日本私立学校振興・共済事業団のHPで2018年12月3日時点で公表されている引用すると平成28年度から平成30年度の入学定員充足率は下記の通りです。
平成 28(2016)年度私立大学・短期大学等入学志願動向
入学定員充足率が100%未満の大学は7校増加して257校となり、大学全体に占める未充足校の割合は1.3ポイント上昇して、44.5%となった。
入学定員充足率が100%未満の大学は28校減少して229校となり、大学全体に占める未充足校の割合は5.1ポイント下降して、39.4%となった。
入学定員充足率が100%未満の大学は19校減少して210校となり、大学全体に占める未充足校の割合は3.3ポイント下降して、36.1%となった。
さて今年度(2018年度)も含めて平成28年度から見てみると、平成28年度は平成27年度に比べて入学定員の未充足が上がりましたが、平成30年度は44.5%から36.1%と年々改善している事が読み取れます。ただ36.1%という数字は日本の大学全部を合わせた数字です。(※全大学数が分母です)
地域ごとの入学定員充足率
そこで今後は地域ごとの入学定員数と入学定員充足率がどうなっているかを同じ平成30年度の私立大学・短期大学等入学志願動向を見てみます。(今回は大学数ではなく、その地域ごとの入学定員と入学者数です)
平成30年度の地域別の入学定員充足率を見ると、100%を超えているのは宮城県・関東(埼玉・千葉・東京・神奈川を除く)・埼玉。・千葉・東京・神奈川・北陸・愛知・近畿(京都、大阪、兵庫を除く)・京都・大阪・兵庫・福岡となっています。なお日本全体の入学定員充足率は102.64%です。
一番低いのは四国地方の88.66%となりますので、入学定員充足については地域でかなり差があるように考えられます。
大学と入学定員割れ
では定員割れはどうして起こるのでしょうか?これは大学によって理由が様々なので一概にまとめる事はできません。ただ考えられる理由としては、こんなものをあげてみます。
- 大学の所在地及び周辺の18歳人口が少なくなっている
- 学部学科や取得できる資格のニースが受験生や保護者とマッチしない
- 大学の教育や出口に関する数字が他より悪い(例えば就職率、資格合格率や取得率など)
- 単純に大学の立地
私としては、小規模中規模で一定レベルの私学は18歳人口減少や大学の立地も要因として大きい気がしますね。例えば同じ学問分野が学べるのであれば、多少通学時間が長くとも都内の大学に行ってしまうだろうなとも思いますし。
なお、AO入試や推薦入試が大学の定員割れに影響しているかどうかは、何ともいえません。ただ、以前AO入試や推薦入試と一般入試やセンター試験で入学後のGPAを調べてみると、入試区分によってGPAの差が出る学部はありました。
大学の定員はどのように決めるか
大学の定員は、大学設置基準で定員数に応じた校地校舎や教員数が定められ、これを遵守出来るようにしておく必要があります。
<過去関連記事>
大学(もしくは学校法人)は、校地校舎や教員数(教員組織)などの諸条件も含めて入学定員や収容定員を検討します。さらには高校生からのニーズ調査や出口(就職)のニーズ調査できちんと大学の前後に需要があるエビデンスを用意して、文部科学省に申請をして、定員枠の認可を受けます。
ただ校地校舎などは箱物であり重要なのは、大学がどのような教育研究を行い、どのような人材を養成するかです。
学校教育法施行規則には、大学はどのような人材を養成するか、そのためにどのような教育を行い、その教育を受ける入学者の受け入れについて方針を明示しています。
第百六十五条の二 大学は、当該大学、学部又は学科若しくは課程(大学院にあつては、当該大学院、研究科又は専攻)ごとに、その教育上の目的を踏まえて、次に掲げる方針(大学院にあつては、第三号に掲げるものに限る。)を定めるものとする。
一 卒業の認定に関する方針
二 教育課程の編成及び実施に関する方針
三 入学者の受入れに関する方針
大学はどのような人材を養成するかを示す中で、教育課程を具体化し、組織的な教育を行う事が近年は求められているのです。
言うまでもなく、教育研究に優秀な大学教員を集め、待遇や研究活動の整備をする事は重要な事です。また外から引っ張るだけではなく、学内で若手教員の教育研究を支援する環境を整え、学内で育てていくという事も必要です。
さて、大学が何を売り込んで受験生を獲得するかは、教員とは限りません。教育プログラムやその内容、環境、資格や就職かもしれません。これはライバル大学とどう差別化を図るか、非常に悩ましい所です。
どこを差別化して特色を出すかに大学は生き残りをかけて考えています。
大学と収容定員充足率
学生の教育や研究、そのための教員組織や施設設備など、コストが非常に大学はかかります。特に近年は少人数教育やICTの発達で学内インフラの整備など、大人数の講義の授業があた時代と比較して施設にも多額の予算が必要になりました。
これらも踏まえ、大学は収支が出るように、持っている資産(組織や設備)なども鑑みて大学の適正な規模で運営がされています。
また大規模大学・中規模大学・小規模大学と区分分けされていますが、武蔵大学のように収容定員を4000人より少し少ない数にして小規模大学として生き残っていく方策を取った大学もあります。
ただ定員充足率が100%を切っているから、経営が厳しい大学かというとそうは言い切れません。大学のバックグラウンドから外からの寄付金が多い大学(特に宗教系)もあれば、もともとの授業料が高い為に定員充足率が90%台でも黒字になる大学もあるのです。
<過去参考記事>
大学の撤退や合併
大学は原則として、企業のように倒産してすぐに解散という事はありません。まず学生募集停止を学校法人の理事会で決めたうえで、学生募集停止の発表をします。その後、学生が全員卒業するのをまって、廃校となります。
ただ最近は銀行の資本が入り、経営再建を目指す大学もあります。その場合は銀行から、大学の要職に出向として入るケースもあります。
それでもある大学の財務諸表を見ると毎年赤字を出していて、このままだとあと数年しか持たないだろうなという大学も見受けられます。
さて、20018年11月に出された2040年の高等教育のグランドデザイン答申では、大学の合併等についても記述がありました。しかし、赤字大学を好き好んで合併する事は少ないでしょうから、採算が取れる学部だけ取って、残り(例えば校地とか)は、銀行が最後に持っていくというあまり考えたくないシナリオもあるだろうなと思っています。