この講義は九州大学大学院共通教育科目として通年で行われているカリキュラムの
圧縮版であり、抜粋した内容であるとのことです。
受講対象者はIR実務者やその予定の人、IRに関心のある学生でしたが、参加者は東京会場と京都会場を合わせた事前アンケート結果として、IR実務者やサポートの人、そして私立大学、職員が多いとの報告がありました。
さて、講習会の内容は下記となります。(システムやRの説明もありましたが、本ブログでは省略させていただきます)
大学のIRに必要なもの
①高等教育行政、②情報処理、③統計解析の3技能であり、今回の講習会の内容として取り上げたとのことです。
①学生の満足度・学習の達成度の調査の意義(九州大学 大学評価情報室 高田先生)
大学IR人材育成カリキュラムとは?
・大学の現場においてIRを担当する人材不足(担当者の異動などで継続性が課題)
・IRの研究者ではなく、実務担当者を養成
・九州大学のIRの実務経験から得られた知見と基に構成されている。
カリキュラムの構成
・IRの流れに従って5科目を配置している。(例 大学経営とIR→IRデータ収集・管理論)
・国立大学のIR担当理事へのアンケートも参考しており、例えば必要と感じる役割の結果などもカリキュラムに組み込み検討している。(教育面や人材面など)
・教職員問わず共通言語として必要である。
IRの目的目標の明確化について
・IRの重要性は叫ばれているが、機能を有している大学は少数。
・目標の明確化が不可欠!
・執行部とIR担当者が課題・ニーズを特定し、データの収集から、分析、報告のサイクルを循環させる。課題・ニーズがないとスタートがない!
・IRはツールであり、意思決定支援である。
・高等教育ではIRは特筆すべき段階ではなく、どのような目的目標で行うかの段階に入っている。
・IRの目的や目標 例えば教育目的、研究目的、大学経営目的、大学評価目的で各大学のニーズに合わせて機能している。
・IRの目的目標が備えるべき要素として、①個別的具体的な大学の課題の解決、②意思決定者・IR間における課題の組織的共有(研究のように普遍的知見の追求ではない、現場の部局の意思決定者との共有と信頼の獲得が必要)
学生の満足度等調査
・満足度調査は学習成果に関する有力なアセスメントツール
・満足度調査は何のために行うのか ①外的要求、②内的要求
①は政策的要求、大学評価への対応(教育の目的や人材像に合わせて学習成果があがっているかなど)
・自己点検評価や認証評価の報告にも学生の満足度調査が使用されている。しかし分析は一般的な分析にとどまる。
まとめ
・ツールとしてのIR、IRをすることが目的ではない!
・惰性で行う学生調査の見直し
②IRデータ収集・管理論(九州大学 大学評価情報室 大石先生)
ウェブを用いたアンケート調査とその方法について(はじめに)
・ビッグデータ(巨大で複雑なデータ集合、他のデータを結びつけて新しい知見を得る。例えば成績やアンケートのデータなど)
・アンケート手法(紙やウェブなど。それぞれメリットデメリット。ウェブは大人数であっても、労力や経費は小、ウェブは回答率が課題)
・IRにおけるIT技術(労力や経費が削減できる)
LimeSurveyとは
・オープンソースウェブアンケートシステム
・高機能なウェブアンケートシステムである。
・様々な言語に対応している。
・機能として、システム管理、アンケートの作成、豊富な設問形式、アンケート結果の集計解析、メール機能
・デモンストレーションを見ると、Googleドライブのアンケート機能を非常に細かく設定できるものをイメージしていただけるといいと思います。(Googleドライブを使ったアンケートと違うのは、質問設定が非常に細かくできること、分析解析やメールも送れる、オープン形式やクローズド形式でも実施可能、解析はRのデータとしても出力できるという点ではないかと思います)
九州大学におけるウェブアンケート(在学生の満足度や学習達成度に関する調査)の実施取組
・調査は昨年の秋に、大学院や学部生に対して実施(原則は最終学年に実施している)
・回答数は、アンケートの案内だけではなく、催促メールをすることで回答率が大幅に上がっている(1回目の催促メールが効果的である)
③IRデータ分析論(九州大学 大学評価情報室 森先生)
※IRの要素はデータ分析だけではなく、マネジメントも重要!
統計解析手法と可視化の技法
・記述統計→データ全体の傾向や性質を量的な概念で捉える(平均値や分散、偏差、相関係数やクロス集計等)
・推測統計→部分の推測から全体の統計量について確立的に説明をする(点・区間推定や仮説検定)
・日本の教学IRは非常に高い水準を求められているのではないか?(データの現状の状況が執行部と現場で乖離があるのではないか)
・IRでは、どちらかというと記述統計が多い。(アメリカでも記述統計が中心)
・多変量解析も重要である。(学生のデータは多変量データである)
・多変量解析は、予測・判別・要約が主な3つの目的である。(要約はざっくりいう場合に良い)
統計解析ツールのR
・フリーウェア
・どんな操作を行ったかの履歴が残る(引継にも有効)
・変数に日本語が使える
・きれいに印刷(ウェブで公開できるように)することもできる。
データ分析の解釈方法(分析方法例)
・平均とグラフ
・相関分析(2つの変量の関連性が強弱を分析する)
・散布図(散布図は必須である。特にバブル散布図)
・主成分分析
データサイエンスに必要な技能
・情報処理・統計解析・大学行政
大学のIRの今後の方向性
・個別大学におけるIRの質向上
・日本の全ての大学質向上への寄与
・上記2つのIR実務者の連携(大学IRコンソーシアム、九州地区大学IR機構、大学情報・機関調査研究集会(MJIR)
最後に感想として
このカリキュラムは今後、IR人材を育成するための入門としては良い内容でしたし、私が将来IRを専門にしていくのであれば非常に有意義な内容であると思います。(私としては中堅ぐらいの職員に参加を進めたい内容でした。特に各大学ではIR人材をどうしようかを考えている所も少なくないと思いますが、外部にはIRに通じている人は少ないですので、学内でもどう育成するかを検討する必要があります。また、聞く所によると、アメリカでもIR担当者の求人は常にあるそうです。日本でも今後大学の専門職として確立され、同じような状況になるのではないかと思います)
またどの大学もIRをやらなくてはいけないという思いは抱えながらも、どうしたらいいか、何をしたらいいか分からないという大学やIR担当者も少なくないと思います。大学がIRで何をするのか、教育なのか、経営なのか、それとも評価なのかを執行部と担当者が確認を行い、IRをを行っていく必要があると思います。
最後にIRは研究のように普遍的知見の追求ではないとの言葉が印象的でした。(本学でも調査の話になると学術的にどうかという話へシフトしてしまう事が少なくないので、職員としてIRに関わるのであれば、この点をきちんと踏まえておく事が必須であると思います。)