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令和時代の大学のIRの在り方の一考察

日本の大学にIR(Institutional Research(機関研究))の略称で、大学内の教育・研究・経営などに関するデータ収集、分析、報告を行う活動に取り組まれはじめてから年月がだいぶたちました。

当初、IRは魔法の杖のように何でもできると思われると同時に、私立大学では補助金とも関係し、IR活動に取り組む大学は増えていきました。

一方、IRが取り組まれてから、社会や時代は代わり、大学のIR活動も萌芽期から発展期、さらに高度化あるいは一般化へと変わりつつあります。

令和における大学のIR

大学のIRも徐々に変化しつつあります。特に近年は変化が早いような気がしますが、最初は近年のIR活動の変化についてです。

データ収集

IRの萌芽期はデータを集め、それをExcelや統計ソフトにいれて、レポートを提出することが多かったのではないでしょうか。

最近ではデータレイク・データウェアハウスを整備し、学内データの収集は教務システムを連携し取得するなど、データの収集方法は変化しています。またクラウドが当然のように使われ、アンケートも記述式・マークシートからフォームへと回答となり、1次レポートならアンケート終了からデータをクリーニングさえ終わればすぐに出せるようになりました。

むしろ教学システムに付随のアンケートシステムは使い勝手が悪く、IR活動で遣うのは敬遠されがちの気がします。なぜなら、某システムはアンケートフォームとしては使い勝手が悪く、はきだすローデータもかなり加工が必要となるので、調査やデータ集計をやったことがない人がシステム設計しているのでしょう。また学生は、アンケートに回答するには少ないクリック数が必要です。教学システムにログインして、複数クリックしてようやく回答画面になるのは離脱が高くなります。

データ分析とAIの支援

データの分析もビジネスインテリジェンスツールが普及し、現場でレポートをみる、データを気軽に活用できるようになってきています。

特に2023年になってから、AIの進化が著しいです。ChatGPTはもちろん、MicrosoftからはCopilotが発表され、データセットからデータの分析と探索の支援が受けられるようになります。そうするとと、グラフと集計表だけ作るIR担当者はAIに仕事を奪われてしまうかもしれません。

また既にNECからはAIを活用した予測分析などの製品が出ていますね。

www.nec-solutioninnovators.co.jp

情報公表と教学マネジメント

大学は今後さらに競争が厳しい時代に突入します。そこで必要なのは情報公開でしょう。外部への情報提供や広報活動と連携し、データ活用を大学として進めていく必要があります。

またデータドリブンな組織の構築や大学に求められる社会活動との連携やエビデンスにもIR活動は必要になるのではないでしょうか

何故、IR活動はうまくいかないのか?

令和時代ではIR活動はより高度化・組織に普及していくことが必要ではないでしょうか。では何故IR活動はうまくいかないのでしょう。いくつかの要因を考えてみたいと思います。

  • 組織がうまくデータを活かせない(データドリブンな組織ではない)
  • レポートや報告を活かせる人材や部署がない
  • IR部署や担当者に課題がある
  • お金(予算)がない

1つめは組織文化もあるので改善していくのは体質改善のようにジワリジワリやっていくしかありませんが、各部署にデータに強い教職員を配置する、研修をするといった取組があります。またデータをうまく使うには、いくつかのインタビュー調査をしたところ、IR部署に情報基盤に詳しいキーパーソンがいました。

一昔前はIR担当者に教学システムの権限をあげるといったことの話もありましたが、最近はビジネスインテリジェンスツール(以下、「BIツール」)を用いたIR活動をする大学が多くなっており、BIツールと情報基盤の接続が不可欠になってきています。

そもそもIR担当者から毎回教務担当者に情報をくださいとやっている大学があれば、お互いの業務が増えるだけです。

2つめの人材や部署についてです。IR担当者からレポートを出されてもうまく活用してもらえないという話を聞きます。そのためにはデータを使うコンサルタントみたいな役割を担う部署や人材が必要です。学内の企画系部門にはそういう人がいると思いますけどね。

3つめのIR人材・部署は前年度踏襲のレポートやるだけで満足していませんか。それともグラフや集計表つくるだけの下請けになっていませんか?学内のデータについて学内で一番詳しいですか?ただのグラフ作成だけのIRであれば、近いうちにAIに仕事をとられます。

そのためにはAIには出来ないことをきちんと考えないといけません。例えばコミュニケーション、高等教育や大学・自学のコンテクストの理解からの課題抽出、プレゼンなどは最低限ではないでしょうか(個人的には、教育のアセスメントに強い、評価に強いなどかけ算が出来る強みが必要だと思います)

個人の考えですが、IR担当者(部署)には、以前から3つの知性が紹介されています。

www.daigaku23.com

最近はこれに加えて、情報基盤に関する知識や経験、AIを活用できる知識や情報収集力も問われている気がします。

4つめの予算は個々の大学の課題ですが、大学には苦手なコスパを考えてみるといいかと思います(そもそも、ある業者と話をすると、小規模中規模大学でIR活動に100%ふる担当者はまれです)

コスパやタイパとIR

私立大学において、IR活動は補助金の項目となり、部署や専任の担当者を設置し、コスト(人件費)をかけて整備してきました。しかし、その人件費は本当に妥当でしょうか?日本の大学の中にはプロのIR担当者として活躍し、学内を巻き込み活躍されている方がいらっしゃいます。一方で、執行部は人件費に見合う活動をしているのかと思うIR担当者がいるかもしれません。そうすると考えるべきはIR担当者の人件費かAIを活用して誰でもできるIRにするかといったコスパがいいかでどうかも考えるべきところでしょう。

またタイパもIR活動では重要です。データ収集や分析依頼をして、時間がかかるようではプロではありません。日常的なコミュニケーションや学内外の状況・政策から先回りしてデータ収集を行い、を打っていくことがIR活動には必要ではないかと思います。