カリキュラム編成は大学ではどのような手続きで行っているでしょうか。
以前、本ブログでは履修モデルと履修体系(系統)図の違いについて整理したことがあり、そこで、「履修モデルを作る際は、カリキュラムコーディネーターが必要になるかもしれません」と述べました。
今回はそんな「カリキュラム・コーディネーター」について、取り上げてみます。
- カリキュラム・コーディネーターと政策文書
- 学生に寄り添うカリキュラム・コーディネーターの必要性
- 私立大学等改革総合支援事業とカリキュラムコーディネーター
- 補助金とカリキュラムコーディネーター(以下、2020年8月24日追記)
カリキュラム・コーディネーターと政策文書
さて大学教育部会で、専門的職員について議題にあがり、資料等がいくつか公開されています。
この資料の中で第36回の資料2-3「専門的職員に関する当面の作業(案)」に次のような記述があります。
これまでの大学分科会・大学教育部会の審議を踏まえ、今後の検討に資するため、専門性が必要と考えられる。以下のような職務等に従事する大学職員の現状について、以下のような項目の調査を行ってはどうか。
①職務等
○専門性が必要で、一定の業務経験、特定の資格・スキル等を有する者を配置することとしている職務等
の有無及び具体的内容
○今後の大学運営において、特に必要性が高いと考えている職務等とその理由
【調査対象とする職務等の例】
(管理運営系)
・経営企画 ・IRer ・法務 ・財務会計
・広報 ・人材採用、育成、研修 ・情報、ICT 等
(教育研究活動支援系)
・URA ・FDer ・図書館司書 ・アドミッション・オフィサー
・カリキュラム・コーディネーター ・産学連携コーディネーター・国際交流コーディネーター 等
(学生支援系)
・キャリアコンサルタント ・スクール・カウンセラー ・留学生相談員 ・学生相談員 等
また、3ヶ月ほど前に各大学に依頼がなされた「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査研究について」では、次のように調査目的について説明しています。
<参考>
「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査研究」:文部科学省
中央教育審議会大学分科会「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(平成26年2月12日)において、「学長がリーダーシップを発揮していくためには、大学執行部が、各学部・学科の教育研究の状況を的確に把握した上で、必要な支援を行ったり、あるいは、大学執行部自らが、全学的な具体的な方針を打ち出していくことが前提となる。((略))高度な専門性を有する人材(高度専門職)を、各大学がその実情に応じて活用し、全学的な支援体制を構築していくことが重要」と提言されています。
<参考>「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」一部抜粋
(高度専門職の安定的な採用・育成)
◯ また,学長がリーダーシップを発揮していくためには,大学執行部が,各学部・学科の教育研究の状況を的確に把握した上で,必要な支援を行ったり,あるいは,大学執行部自らが,全学的な具体的方針を打ち出したりしていくことが前提となる。そのためには,例えば,前者の例として,リサーチ・アドミニストレーター19(URA)やインスティトゥーショナル・リサーチャー20(IRer),産学官連携コーディネーター等を,後者の例として,アドミッション・オフィサーやカリキュラム・コーディネーター等の人材を,大学本部が配置することが考えられる。また,その他にも,弁護士・弁理士等の資格保有者,広報人材,翻訳者等,高度な専門性を有する人材(「高度専門職」)を,各大学がその実情に応じて活用し,全学的な支援体制を構築していくことが重要である。
先に紹介した職務例はガバナンス改革の中で言われている事ではあるのですが、小中規模大学の職員と話をすると、「そう言われても、募集広報や就職支援など既に配置されている職務内容ならともかく、新規でFDerやカリキュラム・コーディネーターなどは置く(採用する)余裕はない」という話を聞きます。
特にカリキュラム・コーディネーターは、後回しというのが強いのではと感じます。その理由として、カリキュラム・コーディネーターの単純なイメージでは次のような仕事が浮かぶからではないでしょうか。
- ディプロマポリシー・カリキュラムポリシー・アドミッションポリシーの策定支援
- カリキュラムポリシーをうけ、カリキュラム(教育課程)の編成や変更等の検討
- 履修体系(系統)図、カリキュラムマップ、カリキュラムマトリックス等の作成
- 履修モデルの作成
- その他
これらを見るとカリキュラムや教育のマクロ的な視点なんですよね。日常的な業務でない上に、カリキュラム改革も4年に1回という大学もあるでしょうし、そのイメージが先行しているのであれば、その為だけに専門的職員は雇っていられないでしょう。むしろ、これらの仕事はコンサルタントというか、フリーのカリキュラム・コーディネーターが求められるかもしれません。
学生に寄り添うカリキュラム・コーディネーターの必要性
自分は、カリキュラム・コーディネーターにはミクロ的な視点での業務も必要だと考えています。
例えば学生が履修登録をする際に参考する資料の一つとして履修モデルがあります。学生は履修モデルに沿って、履修登録を行う事を推奨する事は少なくないと思いますが、例えば単位を取得できなかった場合は、履修モデル通りに履修登録する事ができなくなります。
特に近年は年間で履修できる単位数の上限を定めるCAP制を導入している大学が多いですし、資格取得を目的としている学部学科等の学生は慎重に履修する必要があります。
そこでカリキュラム・コーディネーターが個々の学生の履修モデルを策定・提案するなどといった支援が必要なのではないかと思います。所属機関ではアドバイザーの先生がやっている事も多かったのですが、特に資格課程では履修について慎重に検討する必要があり、専門的な人が必要なのではないでしょうか。
そうするとカリキュラム・コーディネーターは教育課程の編成に加え、所属する機関の資格課程についても深い知識が必要です(特に教職課程は深い知識が必要ですね)
ただ、これはカリキュラム・コーディネータというよりアカデミック・アドバイザーの業務の一つなのですよね。(アカデミック・アドバイザーは平成24年の質的転換答申の用語集に説明がされています)
<参考>
新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申):文部科学省
【アカデミック・アドバイザー制度】
専任教員がアカデミック・アドバイザーとして学生一人一人を担当し、学生の成績(GPA)や履修状況等を考慮しながら、履修相談や学生指導を行う制度。アカデミック・アドバイザーが入学時から卒業時まで継続的に指導する体制をとることで学生の修学指導に責任を持ち、また、きめ細やかな学生のサポートの実現が期待される。
そう考えると、ミクロ的な視点のカリキュラム・コーディネーターといっても学生支援がメイン業務になってしまうのではないでしょうか。そもそも人員配置の余裕がない小中規模大学においては、カリキュラム・コーディネーター単体ではなく、何らかの仕事を兼務せざるを得ないと思います。
所属機関ではアカデミック・アドバイザーの機能も一部担うカリキュラム・コーディネーターなら是非採用して欲しいと常に感じています。
そもそも高等教育におけるカリキュラムの専門家とは何か、コーディネーターはどのように養成すればいいのかを最初に考えるべきなのでしょう。そうでないと複数学部を持つ大学では「本学部の専門分野と関係ないくせに!!」と言われてしまいそうです。
(以下、2018年12月19日追記)
私立大学等改革総合支援事業とカリキュラムコーディネーター
平成30年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1には、カリキュラム編成にかかる教職員の配置が求められています。
ここではカリキュラム・コーディネーターの業務として「カリキュラム編成以外に、カリキュラムに関連・派生する業務等(カリキュラム編成、設置・課程認定等に手続き及びそのフォローアップ、学生に対する履修指導等)まで含めるものとします」と説明されています。
これを見ると前述でミクロ的な視点のカリキュラム・コーディネーターといっても学生支援がメイン業務と言ったのは今後実現するかもしれません。
補助金とカリキュラムコーディネーター(以下、2020年8月24日追記)
2020年度は補助金からカリキュラムコーディネーターはさほど求められなくなりました。さほどとしたのは私立大学の場合は教育課程の検証の中で「教育課程の編成に関する全学的な方針の策定について広い見識のある者」が求められる為です。これも解釈により、必ずしもカリキュラムコーディネーターである必要はないと考えています。
ただカリキュラムコーディネーターの研修を受けていたら補助金上はエビデンスとして通しやすくはなるなというぐらいでしょうか。