近年、履修証明プログラムの必要時間が120時間が60時間になったり、私立大学の場合は各種補助金(改革総合支援事業や特別補助)でリカレント教育の推進などが求められたりと政策上から大学にリカレント教育の実施について政策誘導がされています。
また先日「第12期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理」では大学に対してリカレント教育に関して提言がいくつかされています。
なお先日こんなポストをしたのですが、大学としてはリカレント教育は日常の教育研究に上乗せされた業務であり、もう大学のHPは0状態なのに猛毒をくらわせるような印象を個人的に持っております。
「大学等でのリカレント教育は〝提供側が提供しやすい内容〟に留まっており、〝費用や時間の壁〟がある社会人の学習ニーズに対応できていないと厳しい見方を示した」あのな、それより学生の教育の充実や学生募集のほうが大事やねん
— とある大学職員 (@daigaku23) 2024年7月19日
リカレント教育で中教審分科会が苦言(第9425号) |…
とはいえ、中教審分科会の内容は見ていないと大学としてどのように動くのか、政策誘導がされるのかは見ておく必要があるため、第12期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理(以下、「議論の整理」)の大学の部分のみ見てみましょう。
なお引用部分の下線や太字は全て著者によるものです。
議論の整理の大枠
この議論では大きく以下の2つの章があります。
- 生涯学習・社会教育をめぐる状況と今後の方向性
- 今期重点的に議論した事項
状況の整理では、生涯学習をめぐる状況と目指すべき姿、デジタル社会への対応、社会的包摂への対応、生涯学習社会を実現するための社会教育人材の在り方について、生涯学習を進める上で、各学校教育段階で目指すべきもの、社会人のリカレント教育が記載されており、重点的に議論した事項は社会人のリカレント教育、障害者の生涯学習、外国人の日本語の学習、社会教育人材が記載されています。
生涯学習・社会教育をめぐる状況と今後の方向性
最初の状況の整理と今後の方向性についてですが、まずは状況からです。
労働集約型経済から知識集約型経済へと移行する中において、大学をはじめとする高等教育に対して期待されることは、直面する課題を解決するための知の基盤として、自らの可能性を最大限に伸ばし生涯にわたり社会に貢献し続ける人材の輩出である。来るべき新しい時代に求められる能力として、基礎学力やリテラシーの上に築かれるべき、論理的思考力や基本的判断力、課題発見・解決力や未来社会の構想・設計力というものは、リベラルアーツ教育を通じて涵養されるべきであり、産学連携によるリカレント教育においても産業界から大いに期待されているところである。
なるほど、ただリベラルアーツ教育をしっかりやっている大学はさほど多くないですし、産学連携によるリカレント教育とはどういうものなのでしょうか。例えば産学連携で大学に社会人を学ばしてくれる、そのときは企業は大学で学ぶことを業務として認めるとかでしょうか?
大学や短大、専門学校は、多様な年齢層の多様な学びのニーズに応えるキャンパスを実現し、学び合うコミュニティを形成するとともに、国内外の幅広い分野で活躍する人材を輩出することのできる高等教育機関として、地域の教育機関間や産官学の緊密な連携を通じて、地域の人材ニーズ等も踏まえた人材育成を行うことが求められる。また、学生自身が深めたい学びを極め、その学びを活かして仕事をしていけるようなキャリアパスを支援し、社会や経済を牽引できる人材を育成することが重要である。近年は特に大学院における社会を先導する人材の養成が求められており、特に、博士人材は、深い専門知識と課題発見・解決能力などの汎用的能力を有する重要な人材として、産業界の要請が高まり、更なる活躍が期待されていることから、この視点からの条件整備も求められる。
おそらく学部と大学院で状況が異なりますし取り上げませんが、社会人の多くはもう一度リカレントで大学や短大、専門学校に行くのでしょうか。国家資格取得などであれば話は別ですが。
また休職でいて大学等に通うのあればいいのですが、そうでない場合に社会人クラスなどをつくると経費も増えますし、ストレートで大学にきた層は夜にアルバイトとかで学び合うコミュニティ作りは至難のように思います。
地域の人材ニーズについては分かるのですが、地域の人材ニーズと学ぶ人のニーズや条件が合致しているのかが気になります。
社会経済活動の中心として活躍している外国人を含む現役世代も、生涯学習の対象として意識されるべきであり、社会人がアップスキリングのみならず従来の文理の枠を超えたリベラルアーツ教育を大学で学び直し、総合知を身につけた課題解決型の人材となり社会に貢献していくことも重要である。また、退職後も、生涯学習を通じて、引き続き社会に参画して地域コミュニティ形成に貢献し、社会のウェルビーイングの実現とともに生きがいを感じる個人のウェルビーイングを実現することができる。
この下線の部分がないといけないのですが、それは国のニーズや理由でしかないのではと感じています。個人としては、年収を上げるためとか、いろいろ理由があるでしょうが、社会貢献ですと言われても・・・。
今期重点的に議論した事項
次に議論されて事項についてです。
企業の研修は主に民間の研修会社等によって行われ、大学や専門学校等は社会人のリカレント教育において十分活用されているとは言えず、大学や大学院、専門学校等を活用している企業は約2割にとどまっている。
玉石混合ですが、YouTubeなどありますし、Udemyや他の動画教材などいくらでもありますから、大学等がリカレント教育に入っていくには安価で手軽に受けられるプラットフォームがライバルになります。
社会人がリカレント・リスキリングの重要性を理解し、当たり前に学び続けられる環境整備に向けた機運の醸成が必要である。あわせて、個々人それぞれのニーズに応じて必要なリテラシーやスキル等を身につけ、さらに伸ばしていくことができるよう、特に大学においては、学習成果を保証する講座など学修者のニーズを満たす学習コンテンツの効率的な開発、いつでもどこでも手軽に学びたいものを学べる仕組みも必要である。その上で、大学院における高度な専門教育に関し、学習内容を細分化して個別に認証するマイクロクレデンシャルの提供など、より多くの人がアクセスしやすい取組を促進し、必要な学修を蓄積した者に対しては学位取得等に向けた目に見える成果が得られる方策 4を推進することも必要である。
学修コンテンツの効率的な開発や手軽に学びたい物を学べる仕組みは一から開発すると非常に大変なので、既存のものを使うのが手軽ですね。大学が利用するとお金かかりますけど・・・。
リカレントやリスキリングも一律ではなく個人の選択を尊重するため、研修を自社で内製化するのではなく、大学や専門学校などの高等教育機関も含めた外部機関との協力の下で、生涯を通じた学習及び成長の機会を提供するという視点も重要である。
成長の機会についてはそうですねとは思いますが、研修を自社で内製化している企業はどれぐらいあるのでしょう?自身も昔、ある大手企業にいましたが研修は結構外注されていたかと。そうすると、プロの研修関連の企業やコンサルと大学が発注に向けて競争することになりますね。
もしかして大学だから安価にできると考えていませんかね
社会人が大学等で学び直しをしやすくするために必要な取組としては、
・学費の負担などに対する経済的な支援
・仕事や家事・育児・介護などと両立がしやすい短期プログラムの充実
・土日祝日や夜間などの開講時間の配慮
・学習に関するプログラムや費用などの情報を得る機会の拡充
・企業などにおける労働時間の短縮や休暇制度の充実など学びやすくする仕組みづくりの促進
・学び直しの成果が企業において適切に評価される仕組みづくりの促進 などが挙げられている。
これ、取組として国・大学・企業でやることがごちゃ混ぜになっていますが、土日祝日や夜間などの開講時間の配慮は大学の教職員の仕事量からすると人員増やさないと辛いだろうなという印象です。
学費の負担については、国や企業が負担だとありがたいですが、大学が安価でやれといわれても厳しいでしょう。例えば履修証明プログラムで20万×30人としても600万の収入です。そこに関わる人件費や諸費を考えると利益は半分ぐらいでしょう。それなら学生を1~2名多くいれれば(集めれば)いいだけなんですよね。
知識の集積や体系化された理論の中核的機関である大学・専門学校等の高等教育機関においては、社会を牽引する成長分野の人材を養成する従来の役割を果たすことが求められる一方、人生100年時代においては新卒者のみならず、社会人の学び直しにおいても重要な役割を果たしていく必要がある。
大学としてリカレント教育が教育研究に位置づくのか、社会貢献としてなのかにもよって関わり方が違うように思います。
社会人教育に吹っ切れている大学もありますが、それはごく少数です。必要があると言われても無い袖は振れないのです。そもそも今は大学の統廃合とか規模縮小とかが別で議論がされており、そちらが最重要です。
まあ大学がオープンユニバシティのように組織判断をしたら行けるのではないでしょうか。あとは生涯学修事業部でよほど大規模にやるかですね。