教学マネジメント指針(以下「指針」)が令和2年1月に公表され、教学マネジメントに関する勉強会や数日で出来る教学マネジメントを推進できる人を育成できる講座なんてものも出てきています。また国立大学では教学マネジメントに関わる公募をチラホラ出ています。
ただ教学マネジメントといっても大学によって組織形態や文化はそれぞれであり、文部科学省でも教学マネジメントの好事例として動画が公開されているものの、教学マネジメントの確立に向けた組織や人についてはあまり触れられていません。
そこで今回は体験的教学マネジメント論として、コラムを書いてみました。
教学マネジメントの定義と確立
まずが簡単に教学マネジメントとは何かを確認をしてみましょう。指針によると教学マネジメントとは、以下の様に記載されています。
「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義でき、大学の内部質保証の確立にも密接に関わる重要な営み
正直、この定義は分かりにくいと思っています。
ではどう解釈すべきかと考えてみると、自分は「教育について組織的に責任を取り、各取組みを有機的にする事である」ではないかと思っています。
教育の責任というと、トップである学長が思い浮かびますが、学長一人で全てを担うことはできませんので、適切に組織を構築・運用することが求められるわけです。
本記事ではこの責任とは、不利益や制裁を受けることだけを指してはいません。
さて、この教学マネジメントの確立にあたっては、平成30年の2040年に向けた高等教育のグランドデザイン (答申)では教学マネジメントの確立にあたって、下記のように書かれています。(下線は筆者)
各大学が学長のリーダーシップの下で、卒業認定・学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針(以下「三つの方針」という。)に基づく体系的で組織的な大学教育を展開し、その成果を学位を与える課程(プログラム)共通の考え方や尺度に則って点検・評価を行うことで、不断の改善に取り組むことが必要である。なお、大学が教育を実施する際には、個別の教育改革に係る手法を効果的に活用することが重要である。
また、教学マネジメントの確立に当たっては、大学が、学生の学修成果に関する情報や大学全体の教育成果に関する情報を的確に把握・測定し、教育活動の見直し等に適切に活用する必要がある。なお、カリキュラムの策定に当たっては、卒業認定・学位授与の方針とカリキュラムの整合性や体系性を確保できるよう、全学横断的にカリキュラムを検討するために必要な体制の整備やガバナンスの強化も重要である。
教学マネジメントの確立のためには、組織的な教育を行い、常に改善する。そのためには情報公開やアセスメントをやり、カリキュラムについては個々の科目の寄せ集めはダメと言っているわけです。
なお、指針では「三つの方針」を通じた学修目標の具体化、授業科目・教育課程の編成・実施、学修成果・教育成果の把握・可視化、教学マネジメントを支える基盤(FD・SDの高度化、教学IR体制の確立)が記載されていますが、これらは過去の答申にも触れられていることであり、これらは取組みを進めている大学、先進的な事例として紹介されている大学もあります。
教学マネジメントは魔法の杖か?
大学のIR(Institutional research)は一時期魔法の杖のように、データを使って何でもできるというような雰囲気がありました。今となってはコツコツと組織としてどのようなデータがあるかを明らかにし、集約・活用を行い、データの可視化や分析を地道にすることが最善ではないかと理解されつつあるように思います。
教学マネジメントについて感じるのは「教学マネジメントといってやっておけば何でも上手くいくのでは?」「(大学は)よく分からないらしいから商機では?」「他大学の真似事をしていればOK」ということでしょうか。
なお、教学マネジメントについては組織の違いが大きくて、教学マネジメント理論や原理とかを出すのは難しく、せめて組織論や意思決定理論に依拠すべきだと思っています。
また教学マネジメントは組織や文化で大きくあり方が異なりますので、教学マネジメントを進めるには外部コンサルをいれればすぐにできるものではない、安易な研修を受けただけでは推進できるものではなく、体質改善の様に組織の醸成と学内で人を育てることが必要ではないでしょうか。
教学マネジメントは信頼関係の醸成
教学マネジメントとはこれをやるべき(例:カリキュラムの点検評価から改善)は色んなものがあると思うのですが、根底としては組織の上下と横の信頼関係があってこそだと思っています。
強力なトップダウンでも疑似的あるいはハリボテの教学マネジメントが出来るかもしれません。ただトップダウンが強すぎて、現場組織の意見を聞かない→各組織が都合の悪い事を隠すようになると補助金目的の教学マネジメント程度になってしまうのではないかという危機感があります。
信頼関係を根底に相互に対話があってこそ、大学は教育に対して責任をとる、各取組を連携させることができるのでは感じています。
教学マネジメントを推進する組織
私立大学の、私立大学等経常費補助金配分基準で定める増減率に反映させる「令和3年度 教育の質に係る客観的指標調査」では教学マネジメント組織について下記を要件としています。
ア 構成員として、少なくとも、以下の(1)~(3)に相当する者をすべて含むもの。
(1)学長(又は教学担当副学長に相当する職)。
(2)全学部長(短期大学・高等専門学校にあっては学科長等の各学科の校務をつかさどる者)。ただし、単科大学等の場合で、学部長に相当する職の者がいないもの(または学長が学部長を兼務しているもの)は、学長の出席で可とする(全学部長の出席とみなす)。
(3)専門的な支援スタッフ(教育課程の編成に関する全学的な方針の策定について広い見識のある者。教員・職員及び常勤・非常勤の別は問わない。)。
イ 全学部等の教育活動を対象として活動するもの。
ウ 当該組織の目的が、教育課程の編成に関する全学的な方針の策定等であること。また、当該組織の目的が規程等に記載されていること。
エ 会議資料・議事録などにより、活動内容が客観的に確認できるもの。
オ 令和3年度の教育課程編成にあたり、令和3年4月1日までに開催実績があること(令和3年度の教育課程編成に係るものであれば、昨年度以前の開催実績も該当する)。
ここでは教学マネジメント組織の構成員から全学部を対象としてCPの策定まですることが求められています。
課題は専門的な支援スタッフですが、これは正直大学としての見解と言ったもん勝ちみたいなところがあるように感じています。(だからこそ教学マネジメントの研修があるのかもしれませんね)
また令和3年度の私立大学等改革総合支援事業タイプ1では機能として次の2点が求められています。
ア 教育課程の運営に必要な教職員の業務内容の整理・点検を実施するとともに、効果的・効率的な教学マネジメント体制を構築している。
イ IR 情報を活用し、教育課程の適切性の検証と教育改善を行うサイクルを運用している。
私見ですが、上記の教学マネジメントの体制で教育課程の適切性の検証をすることはあまり意味がなく、実際に教育をやっている組織(学科・学位プログラム)が教育課程の適切性の検証を行うべきです。
教学マネジメントの体制では、どのように適切性の検証を行うのか、あるいは実際にやった教育課程の適切性の検証が適切かどうか・教育改善が出来ているかどうかを確認・検証ということにとどめておく必要があります。
それでは教学マネジメントを推進する組織はどうしたらいいのでしょうか。簡単なのはカリキュラム・FDも含めて全てを教学マネジメント組織でやることですが、そんなのは難しいでしょう。
本記事では教学マネジメントを「教育について組織的に責任を取り、各取組みを有機的にする事である」としました。そのため、教学マネジメントを担う組織には色んな情報が集まる体制にしておく必要があります。また補助金では専門的な支援スタッフを求めていますが、大学として中長期的に人を育てていくことも必要です。
教学マネジメント指針をみると幅広いことについて触れられており、数日程度の勉強では専門的には決してなれません。経験学習を通じて、育成していくことが最善なのではないでしょうか。
終わりに
まとめではありませんが、私学の補助金の功罪として、教学マネジメントを推進することはできたかもしれないが教学マネジメント体制を定義づけしてしまったことですね。特に教育の質に係る客観的指標調査ではほぼ全ての私立大学に関係しますので、どうしても意識せざるを得ません。
また今回触れていないものとして内部質保証推進組織と教学マネジメント推進組織があります。それは別の機会としたいと思います。