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大学(私立大学)の収容定員未充足の対応と難しさと将来シナリオの検討

18歳人口減少どころか、近年は出生者数80万人という状況に大学はどのようにして生き残りをかけて勝負するかが問われています。

一方、様々な大学をまわっている取引先の営業の方とお話をすると、令和5年度の入学者数が定員をわっており厳しい大学も少なくないと聞きます。

大学は収容定員充足率が今は問われますが、一度下り坂を転げると上がることが難しい状況にあり、令和5年度には募集停止とした大学もいくつかありました。

さて収容定員充足率が一定以下だと、一部ペナルティがあります。それなら「収容定員を減らせばいいじゃないか」と思うこともあるでしょうが、なかなかそうもいきません。

今回は収容定員未充足と今後の大学について、考えてみます。

収容定員未充足だとどうなるか?

まず収容定員未充足、充足率が一定以下だとどうなるかをいくつか見てみましょう。ここでは補助金、修学支援、認証評価、設置などについてまず紹介します。

補助金について

学部等ごとの収容定員に対する在籍学生数の割合が一定以下(89%)と補助金が減額されます。詳細は下記の私学事業団のHPに公表されている補助金の配分基準等をご覧ください。

補助金の配分基準等|私学振興事業(助成業務)|私学事業団

<参考>定員を超過した際の補助金の取扱い

令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知):文部科学省

認証評価での指摘

大学は7年に1回は機関別評価(認証評価)を受審する必要があります。この認証評価でも定員超過あるいは未充足だと提言(改善や是正)等を受けます。例えば、認証評価機関の1つである大学基準協会の「判定の基準とその運用指針」を見てみましょう。

www.juaa.or.jp

(2)学生の定員管理(学士課程)(基準5) 特定の学部・学科だけでなく、学士課程全体として著しい収容定員の超過又は未充足の状況にあり、かつ、教育を行う環境や財務等の事項にも影響しそれらでも特に重大な「是正勧告」事項が認められる場合、「不適合」を判定する要素の一つとする。

収容定員は大学院でよく指摘されることが多いように思います。また指摘を受けると3年間で改善を行い、その結果を改善報告書として提出する必要があります。

また大学基準協会の指標として「収容定員の未充足については、0.60未満の場合。ただし、0.80>n≧0.60の範囲のものについても、教育を行う環境や財務等に与える影響が特に大きい場合、「不適合」を判定する要素の一つとして検討することがある。」とあります。

つまり認証評価では収容定員充足率の60%がアウト、80%は状況によって不適合の一因となります。

修学支援制度

高等教育の就学支援制度は一定の要件を満たし国が確認した大学(高等教育)等に通う学生が支援を受けられる制度です。

www.mext.go.jp

この修学支援制度は、高等教育機関に通う人に対して、「令和3年度には約32万人に支援」を行っています。(令和3年度文部科学白書 P151より)

www.mext.go.jp

この大学として修学支援制度の対象機関となることは、ほぼマストだと思うのですが、単に申請すればOKではなく、機関要件があります。例えば、実務家教員による授業科目の配置やシラバスの作成公表やDPの策定・公表など、間接統治や政策誘導が強い内容となっております。

その要件の一つに、経営基盤関連として下記があります。

(5) ≪私立学校のみ≫設置者の財務状況・大学等の収容定員充足率 以下のすべてに該当する大学等でないこと。

・その設置者の直前3年度のすべての収支計算書において「経常収支差額」がマイナスであること。

・その設置者の直前の年度の貸借対照表において「運用資産と外部負債の差額」がマイナスであること。

直近3年度のすべての収容定員充足率が8割未満であること。ただし、専門学校にあっては、直近3年度の収容定員充足率が下表のとおりであること。(施行規則附則第3条第3項)

本記事のテーマである収容定員充足率として直近3年度の全ての収容定員充足が8割未満だと要件を満たすことができません。

設置認可等について

大学は募集状況が悪くなると、てこ入れやイメージ一新など様々な戦略・戦術により、学部学科の設置改廃を行うことがあります。ただ、こちらも定員充足などの基準があります。

例えば【改正後大学設置基準】大学の設置等に係る提出書類の作成の手引(令和6年度開設用)の一般的注意事項を見ると下記のように書かれています。(赤字・下線は著者)

令和7年度開設の学部等の設置認可申請から,認可基準の改正により,認可の申請を行う大学等の既設学部等の収容定員充足率が5割以下の場合,当該申請について認可しないこととする基準が規定されました。令和7年度の学部等の開設を検討している大学等におかれては,認可申請時に上記のとおり既設学部等の収容定員充足率が一定値未満であることを確認するとともに、5割を上回ることを確認してください。 なお,既設学部等の収容定員充足率が5割以下であっても届出を行うことは可能ですが,大学設置基準第18条第3項の趣旨を踏まえ,既設学部も含め収容定員の適切な定員管理に努めてください。 

設置認可と届出の違いについては、本記事の主テーマではないので扱いませんが、設置認可は0スタートOK、新しいことOK、届出は今までのもの(学部学科)を材料に1を1.1やⅰにしたりするもので必要な書類が少ない(教員業績書とかいらない)などがあります。

<参考>

kakichirashi.hatenadiary.jp

考えられる対応「収容定員を減らすこと」の難しさ

さて、収容定員が未充足だと、補助金、修学支援制度、設置認可など様々なペナルティがあります。それなら収容定員(入学定員)を埋まっていない分減らせばOKじゃないかと思う人もいるでしょう。

ただ定員を減らすには、いろいろと手続きや書類、エビデンスが必要で、それらをそろえて文部科学省へ届出が必要です。収容定員の変更は、新たに増やすのか→認可か、変更→届出と方法や必要書類が異なります。(下記、2.大学の設置等に係る提出書類の作成の手引(令和6年度開設用 改正後基準)【記入要領1(41~159ページ)】より)

多くの必要書類がありますが、気になるのは16番目の学生の確保の見通しの書類です。これは「設置又は収容定員を変更しようとする学科等の学生の確保の見通し及び社会的な人材需要の見通しについて」を定められた項目について報告する必要があります。

  • ア 設置又は定員を変更する学科等を設置する大学等の現状把握・分析
  • イ 地域・社会的動向等の現状把握・分析
  • ウ 新設学科等の趣旨目的,教育内容,定員設定等
  • エ 学生確保の見通し
  • オ 学生確保に向けた具体的な取組と見込まれる効果

特にエは学生確保の見通しの調査結果が必要です。この調査は、おおまかな方針は決まっていますが、けっこう現場の裁量がありました。ただ、諸事情(大学や学部学科を開設したのに定員を満たさないケース多数)により、令和7年度から「学生確保の見通しと学生確保に向けた取組を記載した書類」の内容はかなり変更があります。

特に調査については指定事項が多くあり、弱小の私立大学にとっては非常に厳しい改変となります。

※変更の詳細は進研アドのBetweenで詳細に紹介されているので下記をご覧ください。

between.shinken-ad.co.jp

さて、ここで疑問に思うのは、令和7年度以降の定員変更も新しい学生確保に向けた書類ではないだろうか?があります。

おそらくその通りだと思うのですが、例えば、下り坂の大学がA学科の入学定員100名を80名にしようと思って、学生確保見通しのために調査を行っても、80名まで中々集まらず、もっと定員を減らさないと駄目という状況になるかもしれません。

母数を増やせばいいのでしょうが、下記の資料も文部科学省に出す必要があるのでどこまで母数を増やせるかは今後確認が必要ですね

  • 調査対象とした高等学校名等の一覧(選定の根拠も明記すること。)
  • 調査に用いた調査票様式
  • 調査回答者に提示した新設組織に関する資料

収容定員を削減するシナリオ

今後は収容定員充足率があまりよろしくない場合は、大学としてどう対応するかは早めに対応しなければなりません(そもそも、そうならないように手を打たなければなりません)ただ既に定員を割っている大学も多くあります。<参考 私立大学・短期大学等 入学志願動向

さて、定員を今後増やせるのは大規模大学や都市部にある大学だけではないかと考えています。(政策もそれを後押ししているかと思います)

その他の多くの大学は、消耗戦・撤退戦でどこで規模の縮小を止められるかだと思うのです。そうなるとどのように今後どのように大学の定員管理を未充足を考えていくかも重要でしょう。

例えば収容定員充足率が85%だった場合、A・B・Cで収容定員1000名の大学を仮想して考えてみます。

Aはゆっくりと定員を減らしていくパターンです。今だと大学院の規模の縮小がこれにあたるのではないでしょうか。Bは、例えば需要調査がうまくいかずに定員減の枠が大きくなったケースを考えてみました。最後のCは最近ある大学募集停止をするパターンですね。

Aならまだいいのですが、個人的にはBパターンが多くなるのではないかと思います。Cができるのは、おそらく諸条件がありそうですよね(中高が強いとか)。

ただそうならないために、今をしっかりと大学は教育研究、運営・経営などをしていかないといけないと思います。

今は何もしないのではなく、多少余裕があれば投資をして、積極的に動くべきかと思っています。