大学が学生等に対して発行する証明書は成績証明書や卒業(見込み)証明書などいつかあります。また数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度では、プログラムを終えた学生に対して、修了証を出すことが望ましいとされています。
また大学によっては、履修照明プログラムや社会貢献の一環として教育プログラムを提供していることもあり、修了のたびに証明書を作成し発行することもあります。
ただ大学に設置している端末で証明書を出す設定をすることはかなり面倒ですし、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度の場合は修了者が多くなると、学生個別に証明書をつくってそれを送付することはかなりの手間となります。
十数人程度であれば修了証のPDFも送るなどが考えられますが、数百人超えるとそれだけで膨大な仕事量になります。また紙やPDFだと、紛失する恐れもあり、都合によって再発行などが必要にもなります。
そこで最近はオープンバッジを活用して、大学で開いている各種講座の証明書の一つにできないかと考えています。
国の各種調査などの資料
文部科学省(2018)では生涯学習の推進・施策の調査研究の中でインフォーマル教育における学修・活動の履歴の記録・証明機能の現状の中でオープンバッジの紹介と詳細な説明がされています。
JETRO(2020)でも各国における保有スキル等の見える化施策と企業・個人による活用状況として紹介例や、労働者のあらゆる学習履歴と職務経歴をシームレスに統合するデジタルデータ標準Learning and Employment Record(LER)の紹介もあります。
A student’s grades cannot tell the full story of their capabilities. The Learning & Employment Record is a new system designed to provide a complete picture of students’ skills and achievements. pic.twitter.com/7n0ffBVvg5
— National Student Clearinghouse (@NSClearinghouse) September 14, 2020
他にも経済産業省のデジタル時代の人材政策に関する検討会の紹介例などもあります。
オープンバッジとは何か
オープンバッジとは、国際標準規格に基づいてデジタルで知識や学習歴を証明するものです。オープンバッジのメリットとして、一般財団法人オープンバッジ・ネットワークによっれば次の5つがあると述べています。(参考:オープンバッジとは | 一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク)
- 国際標準規格
- 偽造・改ざん防止
- コストダウンの実現
- マーケティング効果
- 受領者のモチベーションの向上
またオープンバッジはどのような情報を付加するかメタデータが決まっており、内容にふさわしいデザインをしたバッジを作成し発行します。
オープンバッジは相手のアドレスがわかれば発行が可能です。学生であれば言うまでもなく、各種教育プログラムでもメールアドレスを収集するのはそう難しい事ではないと思うので、発行は簡単でしょう。
ただ課題というか問題もあります。バッジは一度発行すると消すことができません。そのため、発行する機関については審査があります(おそらく大学などであれば審査は問題ないと考えています)
オープンバッジは発行する側だけにメリットがあるわけではありません。オープンバッジをもらった側は、ウォレットで管理しますので、機関が異なるバッジが発行されても集中して管理が可能です。つまり、今まで学んできたものやスキルの証明が一元管理できるとも言えます。
このウォレットには複数のアドレスを登録できるそうなので、学生であればプライベートのアドレス、大学のアドレスなどを登録して使うことが考えられます。またLinkedInなどと連携したり、バッジをSNSで示すことも出来ます。
オープンバッジの大学の活用と検討
既にいくつかの大学ではオープンバッジの導入が進んでいます。例えば中央大学では「全学部生参加可能な学部間共通科目「AI・データサイエンス全学プログラム」や「ファカルティリンケージ・プログラム(FLP)」において、カリキュラムを修了した学生を対象として、オープンバッジを発行する」とのことです。
またオープンバッジ・ネットワークのバッジギャラリーをみると、横浜国立大学、長崎大学、人間総合科学大学のバッジが確認できます。
いくつかの大学では、バッジを全学共通のプログラム、海外との共同プログラム、一般向けのオンライン講座などに使われているようですね。それではオープンバッジはどこに使えるかと考えてみると、いろいろと可能性がありそうです。
- 学内の教育プログラム
- 履修証明プログラム
- 海外とのプログラム
- 高大連携
- 地域連携
- 生涯学習
またどのレベルでバッジを出すかは、IACETによると参加や学習、資格・評価といった段階でスタイルがわけて示されてるので、下記の表が参考になります。
出典:https://www.iacet.org/default/assets/File/OpenDigitalBadging/Taxonomy%20for%20IACET%20Badges.pdf
参加する、貢献するといったものでオープンバッジの分類の中に含まれていますが、日本ではこのあたりの議論はまだ少なそうです(ただし、数理・データサイエンス・AI教育プログラムでの活用が大学は多いことから学習に類するものが多いのではないでしょうか)
課題は何があるか?
オープンバッジ自体は費用も安価(十数万〜数十万程度)なところはメリットではあると思うのですが、バッジデザインの費用、一度始めると辞めるのが容易ではない、バッジの信用性担保のためにどれにバッジを出すのか学内での取り決めが必要などが考えられます。
海外ではバッジの内容のレベル分けなどもあるとのことですが、日本での議論はまだまだですので、これからされていくのはないでしょうか。
参考文献
・田中恵子(2020)「欧州におけるオープンバッジのコンピテンシー連携についての考察」「NAIS Journal」(14),91-82.
・文部科学省(2018)「ICTを活用した「生涯学習プラットフォーム(仮称)」の構築に関する調査研究」https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/chousa/1405414.htm,2022.1.1閲覧
・JETRO(2020)「保有スキル等の見える課手段と活用状況(アメリカ、カナダ、ドイツ)」https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2020/7b73cf9a5e1dfe74/NYdayori_202011_webnyuko.pdf,2022.1.1閲覧
・経済産業省・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(2021)「デジタル人材に関する本日の論点」