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令和3年度教育の質に係る客観的指標調査票に関するメモ

私立大学には私立大学等経常費補助金が出ています。詳しい話は同業の方が解説している下記の記事にまかせます。

harmonica0308.hatenablog.com

さて、私立大学等経常費補助金の交付を申請する大学が出さなければならないのが「教育の質に係る客観的指標」です。平成30年から始まった制度ですが、改革総合支援事業と同様に設問が設定され、点数を設定。合計点数によって補助金の増減があります。

令和3年度は増減率が±6%に拡大されるとともに、新たにガバナンス・コードに係る項目を設定がされました。

そこで、令和3年度の設問について、大学としてどのように捉え、取り組みをすればいいかをメモとしてまとめました。

なお、本記事は著者の解釈に基づくものですので、公式のものではありません。

1.全学チェック体制

①ガバナンス・コードの順守

令和3年度からの新規の項目です。

  • ガバナンスコードの策定及び明示
  • 適合情報の公表

以上2つが求められます。多くの大学では2年前にはガバナンスコードを策定し、昨年1年間の適合状況について点検を行い、公表すればいいものです。

◆確認事項◆ ・ガバナンスコードのため、大学と法人の連携が不可欠。どこが担当しているかを補助金担当者は早めに確認すること。
・9/2時点で私立大学は点検状況について公表していない。しかし多くの国立大学では適合状況を公表しているので「国立大学 ガバナンスコード 適合状況」で検索

②3つのポリシーを踏まえた取組みの点検・評価

卒業の認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程の編成及び実施に関する
方針(カリキュラム・ポリシー)及び入学者の受入れに関する方針(アドミッション・
ポリシー)の3つのポリシーをふまえて、入学者選抜やカリキュラム・学修成果について自己点検・評価をしているかどうかが問われています。

そして重要な点は、点検・評価に学外からの参画があることですので下記等を実施しているかが考えられます。

  • 大学の自己点検・評価委員会に学外者をいれている。
  • 全ての学部学科の自己点検・評価委員会をいれている。
  • 外部評価委員会を立ち上げ、点検・評価を実施している。
◆確認事項◆・毎年度点検・評価を実施している場合は、根拠規定と毎年度の評価委員会の記録があると安心
・定期的に点検・評価を行う場合は、定期の根拠を確認しておくこと(補助金だけではなく、認証評価でも聞かれる可能性がある)
・認証評価は該当しないので、学校教育法第109条第1項の規定に基づく点検・評価を確認する(なお、点検・評価はHPで公表していることも多いので、その内容も確認しておく)

③全学的な教学マネジメント体制の構築

②は外部の目を入れた点検・評価をしているかですが、こちらは学内できちんと教育課程編成について自己点検・評価を実施しているかが問われます。

要点としては下記があります。

  • 全学部や大学全体の取組みの点検・評価
  • 構成員が要件通りにいること。特に専門的な支援スタッフには要注意
  • 基準が4月1日なので、昨年度の取組みのエビデンスを用意する
◆確認事項◆ ・改革総合支援事業タイプ1の設問①とも関連があるので、根拠資料の一部は共有化が可能かもしれません。

・専門的な支援スタッフは、教育課程編成や方針について広い見識のある者であり、その見識があることのエビデンスも用意しておきましょう。

<参考>

www.daigaku23.com

④IR機能の整備

大学等にIR業務を行う組織があること、IRから出されたレポートなどを活用して点検・評価を実施しているかが問われます。

IRについては、規程、組織図や実際にIRが何をしているかが分かる資料、分析レポートや点検・評価の資料を準備しましょう。

なお、IRはどこかに機能があればいいので、IR室が必ずいるわけではありません。企画や教学部署が兼務していることも想定されます。(とはいえ、規程や事務分掌からIRを担当していることが分かるようにエビデンスは準備しましょう)

⑤-1 情報の公表①

教学に係る情報を公表しているかの設問です。学修行動調査、授業アンケート、アセスメントテストなどを実施しているか、その結果が複数年公開しているかを確認しましょう。

◆確認事項◆ ・大学HPだけではなく、ポートレートや紙面も確認すること
・経年比較可能=経年変化のグラフではないことに留意
・うるさい人がいるので、10/31に該当のWEBページも印刷しておくと安心

⑤-2 情報の公表②

就職率が問われる設問で担当者はどうしようもない設問の一つです。就職率は公表していることが多いと思うので、独自計算式の就職率の計算だけは気を付けましょう。

◆確認事項◆ ・就職率の検算は、学校基本調査の帳票も自分で見てやりましょう。後日で監査や検査でミスが指摘された時に、何か言われるのは自分です。

2.教職員の質的向上等体制

⑥FD組織の設置及び実施

全学等でFDや人材育成の方針があり、FD組織(例えば大学FD委員会)が整備され、その組織が主催(管理・把握)するFDへの参加率(可能であれば100%)が求められます。

この管理・把握の解釈は大学によって異なるかと思うのですが、例えば学科独自でFDをやった場合且つFD組織が関わっていないものは本設問の条件に入れていいかは意見が分かれる思います。

さて、大学設置基準第25条の三にFDに関する記載があります。

(教育内容等の改善のための組織的な研修等)
第二十五条の三 大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。

ここから言うと、国はFD参加率は100%は当然と思っています。(昔、某相談に行った時に「FD参加は100%は当然ですよね」と言われたことがありました)

◆確認事項◆ ・FDの参加率は、分かりやすい中間資料を作成したほうが後で確認の時に楽。(例えば、FDを3回しているとしたら、3回分のFDの名簿を資料とするのではなく、全教員一覧に今までのFDの参加状況を入れておくなど)
・対面だけではなく、遠隔でも可。特にオンデマンド配信参加もOKだが、本人確認ができる視聴ログや受講レポートがあるかを確認しておくこと

⑦SDの取組状況

FDのSDバージョンみたいな設問です。FDと同じく、人材養成の方針・目標があり、SDを組織的に実施していること、SDの参加率100%~75%以上が求められます。

  • 教員も対象のため、専任教職員はSDを1回以上受講していること
  • 本設問のSDの範囲(内容)は幅広いので、それらを確認の上、実施及び参加者一覧を入手すること
  • 職員がFDに参加した場合はSDとしてカウント可能
  • 対面だけではなく、オンデマンド配信もOK。注意はFDを参照
  • FD/SDという名称の研修会は、テーマから大学としてFDとして見るか、SDとして見るかの解釈を明らかにしておくこと

このあたりが重要な留意点かと思います。

⑧教員の教育面における評価制度

教員を対象とした、教育面の表彰制度があるかどうかの設問です。そのため、マスコミに多く出ているから表彰、研究面の表彰などは含みません。

またインセンティブがあることが前提ですので、名誉表彰制度はこの設問の対象にはなりません。

◆確認事項◆ ・規程があること
・制度があり、教員に周知していること→周知したことが分かるエビデンスがあること。
・インセンティブのエビデンス、学内稟議や通知書などのコピーがあれば良し

3.カリキュラムマネジメント体制

⑨履修系統図の作成又はナンバリング

全授業科目に体系性があるかなどを確認するための図表があるかを確認します。履修体系図としている大学もあるかもしれません。

なお、カリキュラム表とは違いますので、参考例はネット検索で出てきます。

<参考>

www.daigaku23.com

⑩GPA制度の導入、活用

GPA制度が全学部であるかどうか、さらにそれを「進級判定・卒業判定・退学勧告」などに活用しているかが問われます。規程などの制度があるエビデンスだけではなく、実施に活用した例(会議記録や資料)も提供してもらいましょう。

ただし個人情報なので、取り扱いは慎重に。(各大学の情報の取扱規程に沿ってください)

<参考>

www.daigaku23.com

◆確認事項◆ ・教学システムなどでも学生は自身のGPAを確認できるか?
・学生に配布している手引きなどにGPA制度の説明があるか

⑪準備学修に必要な時間等のシラバスへの明記

シラバスに予習・復習の内容・時間が記載しているかなど各種情報の記載を全教員(=全科目)に求めて、記載しているかどうかが問われています。

エビデンスとしてはシラバス作成の依頼やシラバス執筆要領だけではなく、全てのシラバスにきちんと確認されているかのエビデンスもあるかといいと思います。

(全てのシラバスとすると資料が膨大になるので、要約した中間資料を作る事も想定できます)

⑫初年次教育の実施

初年次教育としてここでは「大学教育に必要な学修方法の習得等を目的」としたものが対象で、全学部で実施していることが条件です。

例えば、アカデミックスキル、スタディスキルといったワードであったり、複数の科目や正課外教育で構成しているケースもあるかと思います。(ただし内容がシラバスに記載されているなどエビデンスとして確認できること)

◆確認事項◆ ・確認事項にもあるように補習教育やリメディアル教育は該当しない

4.学生の学びの質保証体制

⑬学生の学修時間・学修行動の把握

学修行動調査を実施している大学が多いと思うので、実施し時間や行動を把握している大学はかなりあるかと思います。その上で、集計・分析結果を教育改善等に活用しているかが問われます。

例えば結果をFD委員会で議論する、結果と改善に関するFDを行うなどが想定されます。

⑭学生の学修成果の把握

⑬とも一部関連がありますが、アセスメントテスト・学修行動調査・ルーブリック・ポートフォリオなどで学習成果の把握を行い、それを教育改善に活用しているかが問わエれます。また全学部で複数学年以上に実施していることが条件です。

ただここの記載は全学で同一とは書いてませんのでA学部はポートフォリオ、B学部はルーブリック、C学部は学修行動調査の結果を活用という場合もOKかもしれません。

担当者はエビデンスを集める場合は、どのような学修成果の把握をやっているのかをヒアリング・確認した後にそれらがどう活用しているかを聞きましょう。

◆確認事項◆ ・確認にあるように国家試験の模試などは対象外
・⑬のように結果を委員会で議論→改善案の策定・実施やFDもOKの場合もある。

⑮学生による授業評価結果の活用

学生主観の授業アンケート結果が授業改善に役立つかどうかは議論があるかと思うのですが、補助金上では授業評価をもとに授業改善のFDや、評価が高い教員への顕彰が求められているのです。

授業アンケートはどの大学もやっているかと思うので、IR担当者あたりに授業アンケートの分析をしてもらって、FDを実施するのが現実的かもしれませんね。

◆確認事項◆・授業アンケートは例外を除きすべての科目で実施しているか(おそらく教育実習など、従来の授業アンケートでは難しく、独自のアンケートを実施していれば問題はない)
・既に制度があり、それが運用されているか(制度構築のみでは厳しい)