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ニュース「授業料と値上げ」の根拠と情報の偏りについて

2021.4.22に以下のニュースが掲載されました。

www.mag2.com

刺激的なタイトルですので、気にされた方も多いでしょう。大学で働く立場として、2021年度のニュースのわりにはどうも釈然としない所があります。そこでちょっとどこが釈然としないのか、実際に公的な統計ではどうなっているのかを確認したいと思います。

結局は最新のデータを使うべき。例え、昔の記事を使うにしても記事アップ日は2021年なのだから、そこはリライトすべきなんですけどね。

大学進学率51%とは

最初に大学進学率51%とあるのですが、記事の文脈からメディア側が書いた記事で、著者が書いた記事内の引用だと思う部分です。さて記事内では「大学進学率がOECD加盟国平均より10ポイントも低い51%」と記載されています。最新の学校基本調査の結果は令和2年度の学校基本調査ですが、ここでは大学(学部のみ)の進学率は54.4%です。

www.mext.go.jp

記事内の51.%はおそらく2011(H23)年なのですよね。たぶんこの「産業競争力会議下村大臣発表資料「人材力強化のための教育戦略」10」を引用したのかなと思います。

上記の資料ですがGoogleで「OECD 進学率」で検索すると上位に出てくる資料なのですが、URLを見ると2013年なのですよ。

ただこの2020年に掲載されているこの記事でも同じ資料が使われており、都合のよい使われ方というか資料が勝手に独り歩きをしている印象もあります。

univpressnews.com

また教育制度は国によって異なります。日本のように18歳で大学進学するという国ばかりではありません。進学率について言及するときはその国の教育制度にも触れつつ、解説する必要があるかと思います。

日本の大学の授業料は大変なことになっている?

大学の授業料について、国立大学の授業料は「40年の間に、15倍近くに膨れ上がったのです。バブル期の大学生と比較しても、約2倍です。」という現状説明があり、さらに「90万人以上の大学生が「有利子の奨学金」」とあります。

この90万人はどこからきたのかは記事内では示されていませんが、文科省の少し前のデータを見てみましょう。

f:id:as-daigaku23:20210422135156p:plain

出典:奨学金事業の充実:文部科学省

90万人だと23年度(2011年度)ぐらいですかね。(ただこの資料を参照したかは分かりません)

日本の学費は世界一高いか

国が変われば教育制度、さらには奨学金の制度も異なります。また国立大学しかない国でも留学生は学費は高いという事もあります。また為替レートも考えると学費について国を越えて一律に比較するのは非常に慎重に行う必要があります。

さて、今回先進国の大学の授業料について記事内で紹介されています。留学しない限り、諸外国の学費を知る機会はそうそうないので、非常に参考になります。しかし、何故、日本の大学は2011・2012、アメリカは2009、他の国もこのぐらいの年度の数字を出しているのでしょうか?

おそらく出典は「教育指標の国際比較平成25(2013)年版」のP50の「大学の学生納付金」ではないかとにらんでいます。

これではあまりに不誠実ですので文科省のサイトに公開されている「「諸外国の教育統計」平成31(2019)年版」より、「3.5 大学の学生納付金」で各国の授業料を年度を揃えてみてみましょう。なお、単位は円です。為替レートなどは資料にありますのでここでは省略します。

    2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
日本 国立       817,800 817,800 817,800 817,800
公立       935,578 931,235 932,519 932,251
私立       1,312,590 1,311,644 1,308,962 1,316,816
アメリカ 州立 634,000 744,000 865,000 1,023,000      
私立 1,927,000 2,301,000 2,707,000 3,255,000      
イギリス 国立   1,397,000 1,571,000 1,661,000 1,307,000 1,344,000  
フランス 国立   23,000 26,000 25,000 23,000    
韓国 国立           392,500  
私立           770,700  

出典:「「諸外国の教育統計」平成31(2019)年版」より著者作成

終わりに~記事・著者・メディアの信頼性について~

さて、今回チェックしたこの記事ですが新型コロナ禍という文章もあるので、この記事は最近書かれたか、最近書き直しているはずと見受けられます。その中で昔のデータをつかって、持論を展開するのは著者本人としても掲載したメディアの信頼性については甚だ疑問ではあります。簡単に表するならGoogle検索で出たものをとりあえずとりまとめた記事でしょうか。

また学費値上げについてご意見が書かれていますが、おそらく設置形態によって原因は違うこと、近年だと消費税値上げなど外的要因もあります。