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大学におけるデータサイエンス教育とリソースの有限性

近年、数理・データサイエンス・AIというワードをよく聞くようになりました。大学では、データサイエンス学部がいくつもでき始めたり、早稲田大学や筑波大学のように全学生にデータサイエンス教育を受けさせる取組みも始まっています。

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データサイエンス教育と統合イノベーション戦略や大学の補助金

さて、大学において数理・データサイエンス・AI教育ですが「統合イノベーション戦略2019」において、次のように書かれています。 (下線は著者)

全ての大学・高専の学生が、初級レベルの認定コースの履修ができる環境を確保(MOOCや放送大学の活用拡充等を含む)と、カリキュラムに数理・データサイエンス・AI教育を導入するなどの取組状況等を考慮した、大学・高専に対する運営費交付金や私学助成金等の重点化を通じた積極的支援を行う。

既に私学では2020年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1でデータサイエンスに関する設問があり、定義はゆるいですがデータサイエンスや統計の授業を全学で取り組んでいくことが求められています。

 また「統合イノベーション戦略2020」では次のように書かれています。(下線は著者)

〇文系・理系等の学部分野等を問わず、「情報Ⅰ」を入試に採用する大学の抜本的拡大とそのための私学助成金等の重点化を通じた環境整備を行う。

〇大学等における数理・データサイエンス教育との接続を念頭に、確率・統計・線形代数等の基盤となる知識を高等学校段階で習得できるよう教材を作成し、大学等に進学する生徒を中心に指導する。

                ~略~

文系・理系等の学部分野等を問わず、数理・データサイエンス・AIのリテラシーレベル・応用基礎レベルの学習・学修を経験できる環境を整備する(モデルカリキュラム・教材開発、MOOCの活用・拡充、AI×専門分野のダブルメジャー等の学位取得が可能な制度の活用を含む)。

これらをみると高大接続の観点も含め、大学として数理・データサイエンス・AI教育に取組むことは必須の事項となってきているようです。また数理・データサイエンス・AI教育認定制度が今年から始まったり、私学だと2021年度はデータサイエンス等の取り組みは特別補助に入るという話もあります。

<参考>

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データサイエンス教育と考えなければいけないリソース制限

大学としてデータサイエンス教育に取組むことは、大学外からの要請やお金が絡んだ政策誘導により、ほぼやる事が決定しているという雰囲気があります。ただ、大学がデータサイエンス教育に取組み事は色んな課題や問題があるように思います。

有限の人的リソース

大学がデータサイエンス教育に取り組むとして、それらを専門とする教員を沢山採用出来ればいいのですが、実際は教員のリソース、特に人件費や教員数は限られています。特に私学だと大学設置基準で定められている教員数+α(ちょっとだけ)という大学もあり、簡単に新分野の教員を入れることは難しい状況もあります。

教員数を経営的な面から厳しく定めている場合は、データサイエンス系の教員が入った場合は、他の枠が削られるかもしれないということも考えられます。

データサイエンス教育は小規模大学だと専任教員+1名と兼任でまわす大学が多いか、兼任だけというケースもありそうです。もしくは大学連携なども考えられますね。

環境のリソースやCAP制度 

またデータサイエンス系科目が増え、演習系科目が増えると情報教室は確保できるのか、もしくはBYODを推進するのかといった議論も必要ですし、学生はCAP制度(履修登録できる単位の上限制度)があるため、データサイエンス系の科目の履修により、他の科目の履修が制限されてしまうということも想定しないといけません。

例えば医療系の学科の場合は資格取得のために履修する科目が決まっていますので、データサイエンス系の科目についてそこまで履修は増やせないこともありますし、一方で別分野の科目の履修は出来なくなります。

データサイエンスを大学はどのように導入するか?

既にデータサイエンスに関する学部を持っている大学は全学へ波及するにはそう大変なことではないかもしれません。ただ、私立文系の小規模大学だとどのようにデータサイエンスの科目を入れればいいでしょうか?

一つ参考になるのが、鹿児島大学リポジトリで公開されている「数理データサイエンス教育を鹿児島大学の全学必修分野として導入した経緯」です。

この研究ノートをみると、鹿児島大学ではデータサイエンス教育を全学必修科目として「情報活用」に組み込んでいるようです。確かに情報科目の全部あるいは一部をデータサイエンス教育にすることは一つの方法でしょう。

ただそうすると今までの情報科目でやってきた内容は既に(高校で学んでおり)学生が出来ているものなのか、他で補完しなければいけないのかは慎重に議論をしないといけません。

また情報科目をもともと教えていた先生がそのままデータサイエンス教育の内容を教えるのかは議論や精査が必要です。(担当科目がなくなった先生は次年度どうするかも議論が必要です)

大学としてデータサイエンス教育をどこまで何をやるのか

データサイエンス教育はコアカリキュラムなどがありますが、大学としてどこまで何をやるのかは議論が必要です。例えばプログラミングをやるのかどうか、数理もどのレベルまでやるのかどうかなどはその大学(や学部)の特性や学生をみて判断が必要です。

例えばデータサイエンスと絡めたPBLなどもやる大学もあるかもしれません。(実際にデータを使ったPBLをやっている大学は既にありますよね) 

また正課内教育にデータサイエンスの教育を全て含められない場合は正課外なども含めて一体的に検討が必要となりますし、データサイエンス教育の認定の場合は責任部署を作れ、学生支援をどうするのか(例えばTA等の整備)、学修成果の可視化についても議論が必要です。単に科目だけをおけばいいのではなく、大学としてどうするかは専門家だけではなく全学として議論が必要です。

ただ翌年度から始めるとなるともう時間がかかりますので、秋ぐらいまでには形作りは必要ですね。