今回は大学の内部質保証とは何かを理解する一助となる事を目的としています。そもそも大学は学校教育法109条により、自ら教育研究活動について点検・評価を行うことが求められています。
(参考 学校教育法)
第百九条 大学は、その教育研究水準の向上に資するため、文部科学大臣の定めるところにより、当該大学の教育及び研究、組織及び運営並びに施設及び設備(次項及び第五項において「教育研究等」という。)の状況について自ら点検及び評価を行い、その結果を公表するものとする。
○2 大学は、前項の措置に加え、当該大学の教育研究等の総合的な状況について、政令で定める期間ごとに、文部科学大臣の認証を受けた者(以下「認証評価機関」という。)による評価(以下「認証評価」という。)を受けるものとする。ただし、認証評価機関が存在しない場合その他特別の事由がある場合であつて、文部科学大臣の定める措置を講じているときは、この限りでない。
また大学は内部質保証をきちんと行うことが求められています。特に2018年度からスタートした第3クール認証評価では内部質保証システムが適切に運用されているかが問われています。
<参考>
ただ弊ブログでも内部質保証について、今まで書いてきましたが大学によって状況も異なる為か中々理解することは容易ではありません。そこで今回は、政策文書や認証評価機関などの文書から内部質保証を書くのではなく、各大学が内部質保証をどのように捉えているかを見ていきます。
(内部質保証については上記メニューから内部質保証のQ&Aもご参照ください)
本記事における対象大学と収集データ
今回の記事に基となるデータは、大学の内部質保証に関する方針や規程です。近年、認証評価では内部質保証に関して方針や規程の作成を求めています。そこで本記事では内部質保証の方針(規程)から、①方針に何が含まれているのか、②内部質保証をどのように大学は捉えているかをテキストマイニングを通じて、内部質保証について理解を深めます。
収集データについて
データの収集は、2020年9月19日(土)~2020年9月20(日)にGoogleChromeのシークレットモードで「大学 内部質保証」の検索結果上位150から、大学の内部質保証の方針や規程などのテキストデータについて86大学抽出しました。なお、大学一覧は本記事の最後に表記しています。
本記事では内部質保証の方針や規程などは以後全て「方針」と記載します。
また「大学名」「方針・規程名」「URL」「方針・規程の本文」をデータベースとして作成しています。
内部質保証の方針の構成やキーワード
収集した86大学の方針について、どのような事が記載されているかを把握するため、私の主観ですが次に内部質保証で書かれている内容の分類分けを実施しました。
内部質保証の方針の構成と分類分け
内部質保証の方針の構成の分けて出てきた要素として次の11個のカテゴリーを作りました。なお、2と5は補足を下記に記載しています。
- 内部質保証の基本的な考え(目的・方針・定義)
- 内部質保証の体制
- 内部質保証の推進方法(仕組み・運用・手続き・検証方法)
- 自己点検・評価の体制
- 自己点検・評価の段階
- PDCAサイクルの方法や指針
- FD及びSDの実施
- 外部評価(≠認証評価)
- 中期計画との関連
- 社会への責任・公表
- 関連規程
1の内部質保証の基本的な考えについては次の章で触れます。またこれらの11のカテゴリーはどの大学全てが入っている訳ではありません。例えば武蔵野美術大学や亜細亜大学のように、方針の数行のみ公表している大学も今回調べた中ではありました。
内部質保の体制について
さて、2の内部質保証の体制について、ここは内部質保証に責任を持つ「内部質保証推進組織及び関係組織」や内部質保証推進組織の権限や役割(分担)について記載されています。
このカテゴリーについては記載している大学が多くあります。また役割分担に関しては、内部質保証推進組織と各学部や研究科の自己点検・評価の役割分担などがあげられます。これは認証評価でも内部質保証で指摘されている大学がありますが、内部質保証推進組織と自己点検・評価組織(例:委員会)の役割が明確にしておく必要がある為だと考えられます。
自己点検・評価の段階について
5の自己点検・評価の段階ですが、①全体、②学部・学科、③教員個人、④事務職員個人に分ける事が出来ます。多くは①~③が記載され、④の事務職員レベルを記載している大学はほとんどありません。
大学は内部質保証をどのように捉えているか
方針では内部質保証とは何かについて、目的や定義及び考え方といった記載されている大学があります。今回、内部質保証に関する考えが記載してある大学は81大学の内、64大学ありました。
例えば代表例として立正大学や東京薬科大学を見てみましょう。まずは立正大学です。
学長をリーダーとした全学的な教学マネジメント体制のもと、教育研究等活動の質を向上させるための継続的な仕組みを開発し、これを適切かつ有効に機能させ、その結果を学内外に向けて公表し、もって教育研究等の質を自ら保証します。
続いて、東京薬科大学の内部質保証の目的などです。
本学が自らの責任で「大学の質向上」を目指すことを内部質保証の目的とする。したがって、本学の理念・目的を実現するために、自ら恒常的に教育研究活動の点検・評価を行い、PDCAサイクルを適切に機能させて教育の充実と学習成果の向上に努める。そして、その検証結果を社会に公表する。
代表的な2大学のみ記載してみましたが、64大学ではどのように記載されているか概観をつかむために、KH Coderを用いて、方針に記載されている内部質保証に関する考えを探ってみます。なお、下記の本を参考にしました。
内部質保証に関する方針の頻出語や共起について
それでは方針についてテキスト分析を行います。分析したのは、大学の方針に記載された内部質保証に関する定義や考え方についてです。なお、分析のデータから、方針の見出しなどは除いています。
さて、64大学のテキストデータをKHCoderで処理した結果、総抽出語数は6,107、異なり語数は565となりました。
今回はざっと概観つかむことを目的としているので複合語などのチェックや処理は省略しています。
頻出語について
さて、抽出した語句で出現回数が4回以上出現した語句は次の表の通りとなります。
抽出語 | 出現回数 | 抽出語 | 出現回数 | 抽出語 | 出現回数 |
教育 | 149 | 公表 | 21 | 高等 | 7 |
質 | 103 | 状況 | 19 | 体制 | 7 |
本学 | 91 | 精神 | 19 | 努める | 7 |
研究 | 90 | 組織 | 19 | はじめ | 6 |
評価 | 80 | 目標 | 18 | 委員 | 6 |
向上 | 76 | 機能 | 17 | 応える | 6 |
活動 | 73 | 使命 | 17 | 学長 | 6 |
保証 | 71 | 検証 | 16 | 取り組む | 6 |
社会 | 58 | 果たす | 15 | 人材 | 6 |
点検 | 53 | 改革 | 15 | 有効 | 6 |
目的 | 51 | 実施 | 15 | 課程 | 5 |
自ら | 48 | 達成 | 15 | 基本 | 5 |
大学 | 48 | 貢献 | 14 | 教員 | 5 |
内部 | 46 | 成果 | 14 | 構築 | 5 |
図る | 44 | PDCA | 13 | 養成 | 5 |
理念 | 44 | 学習 | 13 | 育成 | 4 |
改善 | 43 | 全学 | 13 | 学位 | 4 |
恒常 | 39 | 充実 | 12 | 学校 | 4 |
実現 | 38 | 運営 | 11 | 学則 | 4 |
水準 | 38 | 外部 | 10 | 学内 | 4 |
責任 | 38 | 学生 | 10 | 学部 | 4 |
継続 | 37 | 計画 | 10 | 管理 | 4 |
適切 | 37 | 踏まえる | 10 | 客観 | 4 |
結果 | 35 | 維持 | 9 | 教学 | 4 |
行う | 30 | 各種 | 9 | 広い | 4 |
基づく | 29 | 基準 | 9 | 仕組み | 4 |
自己 | 27 | 機関 | 9 | 実行 | 4 |
推進 | 27 | 証明 | 9 | 取り組み | 4 |
方針 | 27 | 定める | 9 | 授与 | 4 |
向ける | 26 | プロセス | 8 | 中期 | 4 |
サイクル | 24 | 自律 | 8 | 通じる | 4 |
説明 | 22 | システム | 7 | 認証 | 4 |
建 | 21 | 掲げる | 7 | 不断 | 4 |
負託 | 4 |
教育や質保証の出現回数は言うまでもなく多く、「研究」は文脈をみると教育研究で多く出現しているため、回数が多くなっています。また「恒常」や「継続」が多く出現していたり、改善や改革といったキーワードも多く出ています。
共起ネットワーク分析の実施
ただ、これらの語句だけではどのように出現しているかが分かりません。そこで「語句の出現パターンが似通った語を図化し共起関係を確認する」(樋口,2020)ために共起ネットワーク分析を行います。
分析は集計単位を段落、語句の最小出現数を10、描画する共起関係は上位60と設定し、強い共起関係ほど共起を示す線を濃くしています。
右上の「PDCA」と「サイクル」はPDCAサイクル、「内部」と「保証」は内部質保証、なので、ここはきちんと事前に処理すべきでしたね。さて、上記図をみると、理念・実現・向上・恒常が共起されていたりすることは分かります。
あと試しに同じデータで対応分析をやってみました。(下図)
寄与率はあまり高くないですが、建学・外部・PDCA・サイクル・学生などは0から外れているので出現に特徴がある言葉とも考えられます。データベースを作る中で外部評価を書いている大学が結構あったと思いましたが、実はそうでもないのかもしれません。
終わりに~本調査の限界~
本調査では、Google検索で出てきた私立大学のみを対象としているため、国立大学や公立大学、サイトで公表されていても検索されない(インデックスされない)大学は対象外となっています。
また分析も頻出語・共起を行っただけで、詳細にみていくにはきちんと処理をしなければなりませんし、全ての大学を丁寧に調査しなければなりません。
ただ、大学の内部質保証は全体としてどのような語句が使われているか、どのような方向性があるのかは別の機会に詳しく分析出来ればと思います。
今回対象大学一覧
下記が今回データを収集した大学の一覧となります。