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日本私立大学連盟の政策パッケージと大学の施設の基準の緩和について

2020年7月13日にNHKニュースで「日本私立大学連盟 遠隔授業での取得単位数 制限緩和を要望」というものがありました。

www3.nhk.or.jp

これは何かというと日本私立大学連盟がとりまとめた「新型コロナウィルスに関する政策パッケージのとりまとめ・公表」の事ですね。ここにはいくつもの提言が書いてありますが、ニュースに該当するものは、「Ⅳ.変化する国際社会に対応する規制緩和」の「1.大学設置基準や当該法律の見直し等」にあたります。

ではなぜ、大学は規制緩和をしたいのでしょうか?、また緩和をするとどうなるのでしょうか?

大学は法令や大学設置基準で最低基準が決まっている

大学は法律や大学を設置するのに最低限の基準があります。そこには大学の目的、組織、教員に関する事項、定員に関する事項、教育に関する事項、校地や校舎に関する事項が定められています。

例えば教員の数は、学部の種類(文学とか、工学とか)の収容定員で〇人以上いないとダメと定められています。この基準を満たしていないと、大学は設置(新しく大学や学部学科を作る事)も出来ないですし、設置した後で基準以下になると定期的に行われる外部からの評価(認証評価等)で大学として最低限の基準を満たしていない=大学としては不十分であると広く社会に公表されることとなります。

 

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www.daigaku23.com

日本私立大学連盟の政策パッケージと法令等の規制緩和

日本私立大学連盟は私立大学の充実発展に貢献してきた団体です。今回出された政策パッケージは、新型コロナウイルス感染症の拡大も踏まえ、学生への支援や私立大学が大学改革を進める為の事項が書かれています。

学生の定員管理の緩和

今回のパッケージでは留学生の状況や学生の流動状況がつかみづらいという理由から学生定員の基準は緩和措置と取るべきとされています。

これは何かというと、定めている入学定員や収容定員を超えた学生が多くいると補助金の不交付や新しく学部学科を作る事ができなくなるので、それの基準をゆるくしてねという事かと思います。

また東京23区は法令により定員を増やす事は原則できません。有名私立大学は23区内にあるので定員を増やしていきたいのでしょうが…。その為、この23区の定員増の規制についても言及しています。

総合すると、東京だけ規制はやめろ、定員管理はある学部の該当年度が失敗(多く取り過ぎると)影響が大きい事や学生の動きが読めないから定員の要件をゆるくしろといったあたりでしょうね。

授業の実施場所に関する要件の緩和

大学は大学設置基準で最低限の基準が決められていると書きましたが、校地は収容定員上の学生1人あたり10㎡必要です。校舎については学部の種類と収容定員で算出する必要があります。

詳細は下記を見ていただきたいのですが、

www.daigaku23.com

また授業を主に実施する場所は大学の校舎等であることが求められていますが、新型コロナウイルス感染拡大防止のために2020年度前期は大学でオンライン教育を実施したりしてきました。

今回の政策パッケージでは「学生一人当たりの校舎面積要件の緩和あるいは撤廃を行い、新たにオンライン授業やリカレント教育に要する設備と質にかかわる基準を加えることを提案」されています。

また校地や校舎が見た目は沢山あるようでも、法令上の校地面積や校舎面積に算入しないものもあります。例えば寄宿舎や駐車場、付属施設、調整池などは法令で定める校地に含まれません。なお、校舎はスポーツ施設や課外活動施設などは算入しません。

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出典:大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き(令和3年度開設用)

さて、校地や校舎の基準の緩和について自分は疑問があります。現状の大学設置基準の数値ギリギリの校地校舎の大学(キャンパス)を知っていますが、行ってみるとかなりキツキツなのですよね。お昼も学食は一杯だし、空き教室も少ないという状況で授業がない学生が行き場がないようにも思えたのです。例えるなら予備校や塾みたいな感じで勉強する為だけに行くといった感じでしょうか。

また、これを書いててふと(造語ですが)「ブロイラー型教育」というワードが思い浮かびましたね。

オンライン教育の実施=校地校舎の基準は不要か?

オンライン授業を実施するから、校地校舎の基準は撤廃については、学生がオンライン教育を行うと大学に来る頻度が減る事が前提でしょうか。ただ対面授業とオンライン授業を併用して行う場合は、科目編成や時間割編成をかなり慎重に議論しないと学生が大学に来る回数を減らす事は難しいと思うのです。

例えば1限目に対面、2限目はオンライン授業、4限目に対面だと学生は大学でオンラインの授業を受けなければなりません。そうすると大学は密にならないように施設を置いておかないといけなくなります。現行の設置基準ギリギリだと、学生が密にならないように学内に滞在できる状況は対応が難しいと思うのですよね。

看護学部の様に履修する授業がほぼ決まっている学位プログラムであれば、時間割編成で何とかなるかもしれません

新たにオンライン授業やリカレント教育に要する設備と質にかかわる基準を加えることを提案するようですが、この辺りも考慮して欲しいなと思います。

終わりに

さて、今回の政策パッケージは簡単にまとめると、学生への手厚い支援、大学への支援や助成の拡大、大学が生き残っていくため(とは言ってませんが)規制を緩和しろといった所でしょうか。

今回は話題とするのは規制緩和ですが、正直、日本私立大学連盟が言っているのであって、もう一つの私立大学の団体「日本私立大学協会」に加盟している地方の小規模中規模大学は、設置基準の校地校舎の緩和といっても、基準×nぐらいの校地校舎(特に校地)があったりしますので、実は「大きい大学が経営の為に言っているよ」と思う事もあるかもしれません。

基準を緩和しても校地校舎はすぐになくならない

仮に設置基準の校地校舎の基準が緩和されたとしても、施設設備は中長期計画もある中で運用されていますので、すぐに取り壊しとはならないと考えています。ただ将来的には都内にオンライン教育もやるからと、(ガバチョガバチョの精神を持った)狭い校地で教育を行う大学(学校法人)が出てきてもおかしくはないと思います。そうなると今までの大学の規制強化と緩和から考えると、次は規制強化に向かうこともあります。

今回の記事の内容については文部科学省中央教育審議会の大学分科会にある質保証システム部会で議論がされるかと思いますが、新型コロナウイルスへの対応も踏まえながら、一部の大学の利益になるような制度改正だけにはならないでほしいと思っています。 考えるべきは学生と教育研究ではないでしょうか。