ファシリティマネジメントという言葉を聞いた事はありますか?施設管財系、財務や経営に関わっていないとあまりなじみのない言葉かもしれませんね。
公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会によれば、ファシリティマネジメントを次のように説明しています。
「企業・団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」
このファシリティには、土地や建物だけではなく設備や家具・家電、ユーティリティ(電気、ガスなど)まで含まれます。またファシリティマネジメントは単に施設管理ではなく「ファシリティ(土地、建物、構築物、設備等)すべてを経営にとって最適な状態(コスト最小、効果最大)で保有し、賃借し、使用し、運営し、維持するための総合的な経営活動」とされ、経営を支える基盤であるとされています。
さて、以前ファシリティマネジメントについて本ブログで記事を書いた事があります。ただこの記事を書いた2015年から4年経ち、特に2020年度のコロナ禍において、大学として考えるべきファシリティマネジメントは大きく変わったのではないでしょうか。
そこで前回の記事と同様に下記の本に書いてある経営組織が直面している課題「①変化に対応する、②成長を支援する、③収益性を高める、④人との場を活かす、⑤社会に貢献する、⑥安心・安全を確保する」といった視点から大学が今度ファシリティマネジメントをどう捉えるべきなのかを、大学の教学マネジメントサイドで働く立場として(素人目線で)書いてみます。
変化に対応する
大学を取り巻く環境は日々変化し続けています。18歳人口減少による2018年度問題は大きな波ではなく、さらに東京の大学の定員の抑制の影響か東京近隣の大学は受験性が大幅に増えるといった事もありました。
また教育については、ここ10年ぐらいはアクティブラーニングや学生相互で学び合える環境づくりなどが補助金等の活用で盛んに行われてきました。例えば大規模授業が少なくなり、アクティブラーニングを行うために、新棟を建てる時は小規模・中規模教室を増やすこともありました。またICTの充実などは、パソコンのハードだけではなく、LMS(ラーニングマネジメントシステム)の運用やメールアドレスは自前のサーバーではなくGoogleやMicrosoftを活用するといった動きもあります。
ただコロナ禍により、今までの教育環境は大きく見直しをする必要が出てきました。例えばコロナ禍により2020年前期は対面授業ではなく遠隔授業が多く行われています。また一部の科目を対面授業で行う場合でも教室は密にならないように、教室の定員の半分以下で授業を行えるようにするため、大教室や中教室の授業が高まったり、教室間をICT機器を用いて中継できるような設備も必要になっています。
ここ10年、300人以上の大規模授業はやらない方針をとり、新しい建物は200人教室、50人教室が中心になっていた。
— とある大学職員 (@daigaku23) 2020年6月15日
しかし密を避けなければならない状況下では、教室運用が結構厳しい(今は教室間を簡単に中継できる方法とかやっている)
施設から教育を考える(貢献する)上で中長期的な計画に基づき実施していくことは通常かと思いますが、コロナ禍のような問題が起こったときに中長期的に変化をするのではなく、今のリソースをふまえて、短期的に変化に対応し、教育の質を担保できるようにするかが求められていると感じます。計画にないからできませんではないという事です。
成長を支援する
ファシリティマネジメントの文脈でいうと企業等の成長を表すと考えられますが、大学の成長というと中々難しいですね。
ただ大学の成長は拡大ではなく、質や歴史及びブランド、そして教育研究と捉えるべきではないでしょうか。特に変化が激しいこの状況かで学生がどのような環境下でも教育が受けられるようにする、研究ができるようにするといった事も成長を支援すると含めてもいいのかもしれません。
収益性を高める
近年大学の運営は非常に厳しくなっています。例えば私立大学は補助金が出るから運営できるだろうと思うかもしれませんが、前年度と変わらない額の補助金をとるには大学内の改革ややるべき事項というのがてんこ盛りになります。また昔は入学定員の1.29倍の学生を入学させていた大学もありますが、今は定員厳格化もあり入学者数は入学定員の1.0倍を目指すことも求められています。
そのため、財産をいかに活用するかも今は重要になってきています。例えば資格や検定試験の施設貸出などは調整事項が沢山ありますが、資産を活用し収益を得ることができる手段の一つです。
例えばこのように金額を明示している大学もありますね。
そこで得た収益をさらに教育施設や設備の充実にまわす循環づくりが必要なのではないでしょうか。
人と場を活かす
コロナ禍では最も改善をする必要がある点かもしれません。ただフリーアドレスオフィスがコロナ禍のような状況下ではデメリットも大きくなってしまったように思います。また大学に十分な機材がなくテレワークを行うといっても課題がある大学もあるでしょう。
社会への貢献
大学が持つ施設や設備を活かすとなると、地域の拠点となることが考えられます。例えば避難所としてや、高台にある大学であれば津波などの被害が出た際に警察や役所などの臨時的な施設になる協定を結んでいる大学もあります。教育研究の面から社会貢献は色々とイメージがしやすいですが、既存の施設をどう活かすかによって社会貢献をすることも可能となります。
例えば熊本学園大学のインクルーシブな避難所としてのバリアフリーの施設を活用した福祉避難所はその代表例ではないかと思います。
安心・安全の確保
安心・安全の確保として以前はセキュリティや維持管理をあげましたが、実はここに保守だけではなく清掃が大きなウェイトを占めているとコロナ禍により感じます。
終わりに
話はすこしずれますが、大規模大学はともかく、小規模中規模大学にとって施設は拡大するものではなく取捨選択をする時代に入ってきていると感じています。コロナ禍により2020年度前期において施設は使いませんでしたが保守や清掃は必要で維持費はかなりかかります。その為、教育研究を鑑みながら適切に施設や設備をマネジメントしていく必要があります。
特に小規模大学などは担当者だけでやっているケースもあり、ファシリティマネジメントという考えはあまり知られていないのではないでしょうか。