大学の教育の質を保証するにはどうしたらいいか。これは18歳人口が減少していることや大学のグローバル化などから国は中教審答申(例えば学士課程答申等)で大学の教育の質の保証について求めています。
そのためには、例えば学生の学修成果をどうアセスメントするか?といったことや、教育の質を保証するには大学は組織としてどうすればいいかや何をすればいいかといった事も議論されたり、国からの補助事業や補助金等で求められてもいます。
(例えば、私立大学等改革総合支援事業の設問にあったシラバスの第三者チェックなどはこれにあたるでしょう)
また教育の質の保証のために、大学としてどうすればいいかを模索するため、大学外のフレームワークやモデルを使って、教育の質保証について議論することも行われています。
例えば大学では評価の中で日常的に取り組まれているPDCAサイクルは、マネジメントシステムの中で「継続的改善」を行っていくこととして行われています。
(なお、大学におけるPDCAのサイクルの適用は、教育を品質管理すること、PDCAは工程管理であり教育とは相容れない、本来のPDCAのサイクルとは異なるといった議論もあります。)
教育の質の保証はこれといった正答があるわけではありません。そこには色んな取り組みがされています。例えば品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO 9001を教育の質保証を論じたこの本もその一例です。
ISO 9001の大学教育への適用
この本ではISO 9001の概観した上で、大学教育への限界を「公的性格がきわめて強い大学への社会的責任への言及に相当する条項が少ない」と指摘しています。
その上でISO 9001の条項と大学の教育マネジメントシステムとの対応を細かく説明をされている本です。ただISO 9001の素人がこの本だけを読むと、単にISO 9001の条項と大学の説明があるのみであり、ISO 9001の条項を片手に読まないと読むのはかなり厳しかったです。
SO 9001の各項目と大学の教育改革のツールや小道具を取り上げ、各条項とどう対応できるかといった点がありますが、教育の質保証に関して何かを学ぶために最初に読む本としてはオススメできません。
ISO 9001の観点からだと、この本の中では教学という観点だけではなく、大学経営や監査といった点も含まれているように感じます。そのため、ある程度教育の質保証について取り組んでいる人が目を通すぐらいの本でしょう。むしろ、この本を読んでも教育の質保証とは何かを理解するための道標にはなりにくいと感じます。
また著書の中では教育の質のマネジメントシステムについて独自理論も多く、例えばどのような人に学位を出すかといった学位授与の方針から、どのようなカリキュラムにするかといった教育課程編成の方針から入学者の受入方針といった流れが一般的ですが、それとは異なる方針の枠組みが提示されていたりします。
タイトルの地方大学はあまり関係ない
この本の副題に「地方大学」とありますが、著者が地方大学の学長であった事からそのようにタイトルがされています。本の中では、大学でどうだったかがたまに出てきますが、地方大学がISO 9001に取り組み、どう変わったかのケーススタディが明確に記載されているわけではありません。
最初、どのように地方大学が変わったかを分析し、書いてあるのかと思っていましたが、ISO 9001の話がメインです。まあ先程も少し書きましたが、これを読んでISO 9001を軸に大学を変えようというのは、よほど強いマネジメントやガバナンス、また私学であれば法人との一体的な改革を進めようとしないとまず無理だなと思います。