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文科省が行う大規模学生調査と大学の学生調査の現状

文部科学省が大学生3年生を対象に大規模な学生調査を実施するとニュースで話題になっています。ただ、国側が主導して全国の学生を対象に調査を実施する話は突然出てきた話ではありません。

既に2018年11月出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)(中教審第211号)」に下記のように記載がされています。

各大学が地域社会や産業界等の大学の外部からの声や期待を意識し、積極的に説明責任を果たしていくという観点からも大学全体の教育成果や教学に係る取組状況等の大学教育の質に関する情報を把握・公表していくことが重要である。これらに加えて、経営状況等も含めた大学の基本的な情報について、各大学が積極的に公表することも必要である。また、社会が理解しやすいよう、国は、全国的な学生調査や大学調査を通じて整理し、比較できるよう一覧化して公表すべきである。

また2019年5月30に行われた文部科学省の中央教育審議会 大学分科会に置かれた教学マネジメント特別委員会第5回では、資料5として学生調査の目的や現状、調査結果の取扱、調査対象や調査方法、さらには設問案が示されています。

今回のニュースのような国が全国の学生を対象に一斉調査をやるというのは、今まで例にない事ですので、大学としても、社会としてもかなり気にはなる所でしょう。

なお、大学からの視点としてこの学生調査に対する懸念は下記に書いています。

www.daigaku23.com

学生調査を授業評価調査とする誤解

全国の4年生大学の3年生を対象に調査を行う事については2019年6月13日前後にニュースが出ています。気になるのはニュースの中に学生調査を「授業評価調査」としているものがあります。授業評価調査というと、授業のみに絞った調査をイメージしてしまいます。もしかすると、対象となる授業に行う授業アンケートと短絡的に結び付けてしまうかもしれません。

学生調査の調査項目について

それでは2019年5月末時点では、学生調査にはどのような調査項目が想定されているのでしょうか?教学マネジメント特別委員会第5回の資料5を見てみるとこれらの項目が示されています。

  • 大学名や学部名
  • これまでに受けた授業での経験(教え方の工夫、指導、課題、質疑応答、グループワークやディスカッションの機会等)
  • 大学に入ってからの経験とその有用性(少人数教育や留学、インターンシップ等)
  • 1週間の平均的な生活時間(勉強やアルバイト、就職活動等)
  • 今までの受講した授業形態(授業規模や授業形態)
  • 知識や能力を身に付けるのに大学教育は役に立ったか?

これらの調査を見ると、学生の学修行動や教育全般の今までの経験等についての全38の設問になっています。

ただ既に大学では上記に挙げた設問を含む多くの調査が行われています。大学では例えばこんな調査が行われています。(下記は一例ですので、大学によってかなり異なります)

大学の調査例

文部科学省が考える学生調査項目を見ると、上記の表では学修行動調査や学生生活調査、卒業時調査などの項目が合わさった調査なのかなという印象があります。

しかし、大学で働いている立場としてはこれ以上学生に調査が増えるのはきついなと感じます。例えば授業アンケートは受講している授業毎に行うので、半期に10回以上の授業アンケートをやったりします。また上記の表以外にも、学部学科やセンターからの調査もあり、学生は調査漬けというより、調査にウンザリしているという話も聞きます。

学生は調査に疲れているという話も色んな大学から聞きます。

もし可能であれば出来る限り学生の負担がないように、色んな調査を精査して少なくしていく方向を大学は考えないといけないのでしょう。

 

大学で学生アンケートはあまり行われていないのか?

では、何故この調査は行われるのでしょうか?この学生調査を取り上げたニュースを読んでいると「日本の大学は学生アンケートを行っている大学はごく一部にとどまる」といった事が書かれていました。一方、文部科学省側は学修の主体である学生の目線から大学の教育力の発揮の実態や調査結果を踏まえて大学が教育改善を行う為といった目的と示しています。

大学の学修把握の実態の実状について

ではニュースで言われているように実際に大学は学生アンケートをあまりしていない、もしくは学修把握の実態を把握していないのでしょうか?

文部科学省が行っている「平成28年度の大学における教育内容等の改革状況について※1」の中に学生の学修時間や学修行動の把握を行っている大学として、627大学、85.2%の大学が把握をしているそうです。

※1 2019年6月16日現在公表されている最新データです。

ただ上記のデータは調査だけではなくポートフォリオでの把握も含んでいます。この上記調査をさらに細かく見ていくと、学修時間を含む学生アンケート調査をやっている大学は517大学です。それでもかなりの大学は学生アンケートを実施しています。

また私立大学に限定した話ですが、私立大学の補助金で「私立大学等改革総合支援事業」というものがあります。この事業はいくつかタイプがあり、タイプごとに設定された設問の条件を満たすと点数が加算され、一定以上の点数を取ると補助対象となるものです。

平成30年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1では「学修実態把握をしているか」、具体的には「学生の学修時間の実態及び学修行動の把握を組織的に行い、②の体制における教育課程の編成に関する全学的な方針の策定の検討に活用していますか。」という設問があり、設問毎・回答毎の該当件数(タイプ1~5) を見ると私立大学等改革総合支援事業のタイプ1に申請した497大学が何らかの実態把握をしているそうです。

最新のデータではありませんが、上記2つの結果を見るとかなりの大学が何らかの調査等を行い、学修実態の把握を行っています。ニュースにあるような「日本の大学は学生アンケートを行っている大学はごく一部にとどまる」はちょっと違うのではないかと思われます。

 

終わりに~学生調査の懸念点~

今回の学生調査の懸念点の一つとして、スマホ等で調査を行う事からの回収率です。その方法としてQRコードを配布したチラシやポスターを配布・掲示するそうですが、単に配布・掲示だけでは回収率がかなり低くなるのではないかと危惧しています。

今回の教学マネジメントの委員会では回収率が低い大学は、結果を公表しないという記述もありますし、学生からしたら、国側が教育の為、政策立案の為といっても「回答が面倒ならやらない」という選択肢もある訳です。ただこの辺りは、2019年に調査を試行するので色々と問題が見えてきて対策をするのでしょう。(例えば回答率が低い大学には何らかの手が打たれるとかですね)

それよりもスマホで答えるには38問は多いと思いますがどうなのでしょうかね?