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大学改革の基本方針の柴山イニシアティブのメモと所感

2019年2月1日、文部科学省のホームページに突如「高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)」という資料が公開されました。

この資料は、今後の教育・研究改革の方向性や具体案、さらに工程表を示したものであり、各種委員会や会議の報告やまとめを集約し、具体化したものという印象があります。

 

 

高等教育・研究改革イニシアティブの概要

高等教育・研究改革イニシアティブ(以下「柴山イニシアティブ」)は、4つの柱が示されています。

  • 高等教育機関へのアクセスの確保
  • 大学教育の質保証・向上
  • 研究力向上
  • 教育研究基盤・ガバナンス強化

高等教育機関へのアクセスの確保

近年、議論されている高等教育無償化に関する内容です。低所得者の進学率を引き上げる狙いがあります。

ただ、学生の学業に関する要件や大学などの対象機関の要件があります。学生側は成績が悪いと支援を打ち切られてしまうのと、対象は高等教育機関にのみとなります。なおこれらについては高等教育段階の教育費負担軽減に既に示されているものであり、そう目新しいものではありません。 

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この取組は低所得世帯の進学率を上げたいという事でしょうが、この政策だけでどこまで効果があるのかは気になります。例えば私が働く県内でも地域によって進学率が大きく異なります。それは単に経済的な課題だけではない気がするのです。もちろん地域差があるでしょうが、最終学歴が大卒でも高卒でも影響がないという事もその地域の人と話をしていると感じます。

 

大学教育の質保証・向上

現在、中央教育審議会大学分科会教学マネジメント特別委員会で「教学マネジメントに関する指針」が検討され始めています。これらもこの柴山イニシアティブには具体的な方策として明示されています。

他には、質保証システムの確立、学修成果の可視化と情報公表、リカレント教育、留学生交流、多様で柔軟な教育体制、文理横断等社会変化に応じた教育の推進、大学院教育改革が示されています。

これだけ並べると、政策として「大学にあれをやらないといけない、これをやらないといけない」と言い、大学設置基準で何もかもを雁字搦めにしていた時代を少し彷彿としますね。

質保証システムの確立

気になるものの一つには、質保証システムですが認証評価の見直しで「認証評価において大学設置基準に適合しているか否かの認定を義務付け」とあります。既に評価の中で法令違反をしていれば、指摘を受けますし、認証評価は通りません。

横断的な学位プログラム

また学部・研究科の組織の枠を超えた学位プログラムも想定できる問題がかなりあります。現状の教育では、アドバイザーがつき、教育課程の順次性や体系性を踏まえ、DPを達成するために教育だけではなく学生支援も行います。

何も支援が要らない学生であれば問題ありませんが、実際はそんな大学は少ないでしょう。またアカデミックアドバイザーとか、カリキュラムコーディネーターとかの専門職を大学が抱えて、全学的に学生支援を行う出来る環境を作らないといけないのではと思います。

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数理・データサイエンス教育の導入と課題(私立文系は?)

全学部学生に数理やデータサイエンス科目を展開させるという事はニュースでも取り上げられています。これは大学だけでの問題ではなく、初等教育から中等教育も一体的に考える課題ではないでしょうか。

例えば私立大学の文系に進学する学生は、高校は文系コースだと数学は高校1年ないし2年で終わりとなります。データサイエンス教育の重要性は理解できますが、その状況で大学で再度データサイエンス教育は、まずは数学のリメディアルから始まるでしょう。そうすると次はリメディアル教育は単位ではないや、あの大学は高校レベルの数学を大学でやっていると公開しているシラバスなどを基にして面白おかしく書かれる訳です。

もしデータサイエンス科目をおけというのであれば、大学によっては科目は置くけど、履修者少数で開講できませんと持っていくかもしれませんね。

これに対する規制として、大学設置基準大綱化前のように科目を定めるか、大学や学部等設置の時にデータサイエンス系の科目が教育課程や履修モデルに入ってないと指摘をするといった辺りでしょうか。これで某企業あたりが数理・データサイエンスに係る教育プログラムをパッケージにして売り込み始めたら、先見の明があるのか、それとも‥‥。

研究力向上

質の高い研究人材と流動性の確保とか、研究資金改革とか言っていますが、単純に資金をきちんと担保すれば済む話ではないですかね。論文数の国際順位低下や研究人材について、何故そうなったのか自分たちの政策評価も含めて、きちんと評価をしてほしいと思います。

教育研究基盤・ガバナンス強化

今後、18歳人口が減る中で高等教育機関全体の規模の適正かについて検討する事が必要だそうです。また経営力強化や連携統合の促進などについて言及されています。

私立大学であれば私学助成の配分の見直しとして、教育の質に係る客観的な指標の導入や情報公表の状況によるメリハリ化ですね。以前から、改革しない、政策に従わない大学は救済しない、潰れて止む無しという方針でしたが、年々包囲網が狭まっている様な気がします。

大学の連携統合については今まで言われていた事ですので驚きはありませんが、何も改革しない大学は補助金を減らすし、大学が潰れそうなら円滑に破綻処理して、残せる学部とかは何処かで引き取ってねという思惑も感じます。

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柴山イニシアティブの工程表からみる2019年の取組事項

柴山イニシアティブには工程表が掲載されています。次年度の2019年度の事項で関係ありそうなのは、高等教育無償化の手続き、学校教育法改正、大学設置基準改正の検討、学生調査の試行(質保証関連)、私立学校法施行規則等の改正(私学の連携統合)、私学助成の教育の質保証等のメリハリある配分、大学ガバナンスコード策定なのでしょうか。

自分は教学系ですが、研究支援などを担当している大学職員、国立大学の職員など人によって重視すべき内容は違うでしょう。

 

終わり

今回、メモを作っていて思い出したのは平成24年の大学改革実行プランです。あの時に出ていて項目で、大学入試改革や大学ポートレートなどかなり進んだものがあれば、検討はしたけどあまり具体化されなかったものもあります。

今回も全てが一気に進むとは思っていませんが、リスクとして大学側は情報収集や準備は進めておく必要はあります。また補助金ですでに要件も含まれていますが、今まで試行的であり、課題等も踏まえて今回は指針やガイドラインの提示などより方向性を示そうとしています。

ただ高等教育機関とあるのに、大学や大学院ばかり書き立てているのはどうかと思います(奨学金は専門学校も対象ですし)。それなら大学・大学院と具体的にしてもいいのではないかと感じます。