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大学の実務家教員の議論と懸念点

昨年あたりから「実務家教員」が政策文書の中でちらほらと出てきています。

例えば①工学部の組織編制に関する大学設置基準の一部改正、②高等教育の無償化、③2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申(案))あたりですね。

 

ただ、実務家教員といっても専門職大学院や臨床に係る実践的な能力を培う事を主たる目的とする薬学関係にはおりました。今回の議論は大学等が焦点となっています。

 

工学部の組織編制に関する実務家教員

平成30年6月8日の諮問で、工学部の組織編制に関して大学設置基準が改正されました。

大学設置基準等の改正について(諮問):文部科学省

<過去の開設記事>

www.daigaku23.com

さて、改正の諮問のページに掲載されている「大学設置基準・大学院設置基準等の一部改正【概要】」には、「工学分野における学部と大学院の連続性に配慮した教育を行う場合の教員」に関する実務家教員について次の通り、記載されています。

②実務家教員専攻分野におけるおおむね5年以上の実務の経験、かつ、高度の実務の能力を有する者
工学部等において学部と大学院の連続性に配慮した教育課程を編成する場合には、企業との連携による授業科目を開設するよう努めるものとする。この場合においては、工学部等に置くものとされている教員に加え、企業からの実務家教員を専任教員として置くものとする。
また、この場合に、加えて置く実務家員については、専任の教員以外の者であっても、学部にあっては1年に6単位以上、大学院にあっては1年につき4単位以上の授業科目を担当し、かつ、教育課程の編成その他の組織の運営について責任を担う者(みなし専任教員)で足りることとする。
⇒企業等と連携したPBLなど、実践的な内容を盛り込んだ教育課程の実施を促進する。

ここでは、実務家教員は専門分野における実務経験が具体的に記載、そして努めるものとされていますので、努力義務と解釈しておくのがいいかと思います。(ただ、努力義務は実質的な義務としてみなしておく必要があります。

 

高等教育の無償化に関する議論での実務家教員

高等教育の無償化は、高等教育機関などから切望されている政策ですが、高等教育支援を受けられる大学となるにはいくつかの条件が必要です。

  1. 実務経験がある教員
  2. 産業界等の外部人材を任命した学外理事
  3. 厳格な成績評価(客観的指標の設定・実施やシラバスの公表)
  4. 情報公開

この高等教育支援の中で実務経験がある教員については

①実務経験のある教員による科目の配置が一定割合を超えていること
※ 例えば、①実務経験のある教員(フルタイム勤務ではない者を含む)が年間平均で修得が必要な単位数の1割以上(理学・人文科学の分野に係る要件については、適用可能性について検証が必要)の単位に係る授業科目を担当するものとして配置されていることといった指標が考えられる。

とされています。また留意点として以下についても確認が必要です。

各学部等(学問分野の特性等により満たすことができない学部等を除く。)において、卒業に必要となる標準単位数9の1割以上、実務経験のある教員による授業科目が配置されていることを要件とし、全ての学部等が要件を満たすことが必要である。

              ~略~

教員に学外での勤務経験があるだけでは足りず、担当する授業科目に関連した実務経験を有している者を指し、「実務経験のある教員による授業科目」とは、その実務経験を十分に授業に活かしつつ、実践的教育を行っていることを指す。
経営者、技術者、研究者、行政官等の実務経験のある教員が指導する授業のほか、必ずしも実務経験のある教員が直接の担当でなくとも、例えば、オムニバス形式で多様な企業等から講師を招いて指導を行っている、企業等から提供された課題(企画提案等)に取り組む、学外でのインターンシップや実習、研修を授業の中心に位置付けているなど、主として実践的教育から構成される授業科目は、実務経験のある教員による授業科目に含むものとする。

 まず高等教育支援の対象大学となるには、全ての学部で実務家教員による授業科目を配置されることが要件です。要件ですので、これはクリアしなければならない事項ですね。

ここでいう実務家教員は授業科目を持てる実務経験があり教育が可能である者です。ただ、実務家教員も専任の教員ではなく、オムニバス形式やインターンシップなどでも該当するそうなのでキャリア科目やインターンシップ科目などは該当するかもしれません。

 

ただ「実務経験のある教員による授業科目か否かについては、授業計画(シラバス)等で明らかにする必要がある。」ともありますが、専任の実務家教員の場合の記載についてはちょっと悩む所です。

 

2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申(案))の実務家教員

 大学分科会(第143回)・将来構想部会(第9期~)(第26回)合同会議 配付資料の中に「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申(案))」があります。

大学分科会(第143回)・将来構想部会(第9期~)(第26回)合同会議 配付資料:文部科学省

この中にも実務家教員について、いくつか記述があります。

例えば、多様な教員の具体的な方策の中として下記があります。

 多様なバックグラウンドの教員の採用と質保証
○ 社会のニーズを踏まえた教育を幅広く展開させることができるよう、実務経験を有する者の大学教育への参画を促すため、専任教員として実務家教員を配置することができる旨を、大学設置基準上、確認的に規定する。
○ また、実務家教員が自らの実務における経験を教育課程に反映することで教育の質を向上させるために、実務家教員で6単位以上の担当授業科目を持つ場合は、教育課程の編成等に責任を負う者とするよう努めることとする。
○ 質の高い実務家教員を確保するため、実務家教員の育成プログラムを開発・実施するとともに、その修了者の情報に係る共有の在り方を検討する。

 

実務家教員の懸念点

実務家教員が今度大学にどのように求められるかは、気になるところですが懸念点がいくつかあります。

実務家教員の定義

実務家教員の定義は、工学部の5年以上の経験や高等教育無償化の授業を持てる実践教育が出来る経験のみです。これだけであれば、大学として何か手を打たなければと急ぐ必要ない大学も多いだろうと感じています。

例えば、厚生労働省関連の国家資格課程(例えば保育士や看護師など)を持つ学部は、5年以上の実務経験がある教員はかなり多いです。また教職課程でも、元は初等中等教育の教員という人も一定割合います。

実学系を掲げている大学であれば、例えば経営や経済系の学部の教員組織の中で元は企業にいたという人も一定数はいるでしょう。

仮に厳しい条件だなとするのであれば、過去10年以内に5年以上の実務経験とかされてしまうと辛いですね。

大学設置基準上の実務家教員と大学の人事制度

上述のように大学設置基準に実務家教員の記載がなくとも、既に実務家教員は大学に一定割合ではいる学部も多いでしょう。

その上で大学設置基準で実務家教員についてはどのように記載されるのでしょうか?

究業績は問われずに実務経験があればいいとなるのでしょうか?それだと現状の大学の人事制度だと専任教員になるのはかなり厳しい大学も多いでしょう。現状の大学の人事制度だと、教授になるには単著や論文が求められますし、実務経験だけで教授にするのは難しいとする大学もあります。

※ただ大学設置基準では、「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」がありますので、実務家教員はこれに該当すると判断する大学もあるかと思います。

第十四条 教授となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。

一 博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者

二 研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者

三 学位規則(昭和二十八年文部省令第九号)第五条の二に規定する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者

四 大学において教授、准教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者

五 芸術、体育等については、特殊な技能に秀でていると認められる者

六 専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者

実務家教員になりたいと考える優れた実務経験を有する方へ

もし実務家教員になりたい、なれるチャンスが増えたと思う事もあるかもしれません。でもまずは大学職員として知っておいていただきたい事は、殆どの大学には貴方の部下はいません。

もちろん教育支援や研究支援、様々な手続きなどは然るべき部署や担当者がおります。でも自由に使える部下はおりません。つまり部下に命ずるのと同様に「あれやって欲しい、これやって欲しい」は出来ることに限度があります。(以前、数十名の部下がいた人が教員になった際に、かなりのギャップがあったと仰っておりました)

また大学の人事制度等によっては、論文や単著が求められるケースもあります。

 

終わりに

まだ情報はまだ全部は出ていませんので、今後の2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)や大学設置基準についての動向を見守っていく必要があります。(情報出次第、ブログに追記します)

ただ小中規模大学、地方大学は高等教育の無償化への対応はおそらく避けて通れない道ですね。