IRは、「執行部の支援」や「データから情報へ変換し報告する」といった定義が一般的であるかと思います。
また、私立大学等改革総合支援事業では、専任の教職員や部署がある事とIRは教学をやっているが設問の点数を取る条件となっております。それでは、文部科学省の答申などでは今までIRやそれに関してどのような記述がされているのでしょうか?
- 1.2008年:学士課程教育の構築に向けて(答申):文部科学省
- 2.2012年:新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申):文部科学省
- 3.2014年:「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成25年12月24日 組織運営部会):文部科学省
- 4.2015年:国立大学経営戦略
- 5.2016年: 資料3-1 大学運営の一層の改善・充実のための方策について(取組の方向性)(案) 平成28年2月17日(水曜日)16時00分~18時00分
- 6.2016年:「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・ 実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(ア ドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン 平成28年3月31日 中央教育審議会大学分科会大学教育部会
- 7.2017年:今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理(平成29年12月28日 将来構想部会)
- まとめ
今回は、学士課程答申から特徴的なものについて見ていきます。
1.2008年:学士課程教育の構築に向けて(答申):文部科学省
2 大学職員の職能開発
(1) 現状と課題
①職能開発の重要性
(ア) 大学職員は,大学の管理運営に携わる,また,教員の教育研究活動を支援するなど,重要な役割を担っている。職員の学内での位置付け,職員と教員の関係については,国公私立それぞれに状況が違うが,大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化する中,職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント,SD)はますます重要となってきている。大学職員に関しては,教員一人当たりの職員数が低下していく傾向にある中(図表3-7~3-8),個々の大学職員の質を高める必要性が一層大きくなっている。
職員の間でも,大学院での学習を含め,自己啓発の重要性への意識が高まり,学会や職能団体の発足など,職能開発の推進に向けた機運が醸成されつつある(図表3-9)。(イ) 高度化・複雑化する課題に対応していく職員として一般的に求められる資質・能力には,例えば,コミュニケーション能力,戦略的な企画能力やマネジメント能力,複数の業務領域での知見(総務,財務,人事,企画,教務,研究,社会連携,生涯学習など),大学問題に関する基礎的な知識・理解などが挙げられる。加えて,新たな職員業務として需要が生じてきているものとしては,インストラクショナル・デザイナーといった教育方法の改革の実践を支える人材が挙げられる。また,研究コーディネーター,学生生活支援ソーシャルワーカー,大学の諸活動に関する調査データを収集・分析し,経営を支援する職員といった多様な職種が考えられる。国際交流を重視する大学であれば,留学生受入れ等に関する専門性のある職員も必要となろう。これらの業務には,学術的な経歴や素養が求められるものもあり,教員と職員という従来の区分にとらわれない組織体制の在り方を検討していくことも重要である。
所謂、「学士課程答申」では、大学職員の職能開発の中で「いくつかの専門的な業務と並列で大学の諸活動に関する調査データを収集・分析し,経営を支援する職員」とIRとはつかないまでも、IRをイメージさせるものが含まれています。
2.2012年:新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申):文部科学省
(文部科学省等)
文部科学省等には、大学の主体的な取組を支える観点から、以下のような取組が求められる。
~略~
(ウ) 各大学における教学システムの確立に不可欠なファカルティ・ディベロッパー、あるいは入学者選抜や教学に関わるデータ分析、テスト理論や学修評価等の知見を有する専門スタッフの養成や確保・活用のために、拠点形成や大学間の連携の在り方等に関する調査研究を行う。なお、これと並行して、体系的FDの受講と大学設置基準第14条(教授の資格)に定める「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力」の関係の整理について検討を行う。
質的転換答申では、答申から文部科学省にいくつかの専門職に関する調査研究の提言が行われています。
なお、この後に以下の調査報告が文部科学省のHPに掲載されています。なおIRに直接関係するものと関連するものも合わせて記載致します。
平成24-25年度文部科学省大学改革推進委託事業「大学におけるIR(インスティテューショナル・リサーチ)の現状と在り方に関する調査研究」
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2014/06/10/1347631_01.pdf
平成25年度「先導的大学改革推進委託事業」大学の教学マネジメントの確立に必要な専門スタッフの養成等の在り方に関する調査研究 調査報告書
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2014/06/10/1347631_01.pdf
3.2014年:「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成25年12月24日 組織運営部会):文部科学省
大学のガバナンス改革の推進については、IRについての記載がかなり見られます。
(高度専門職の安定的な採用・育成)
◯ また,学長がリーダーシップを発揮していくためには,大学執行部が,各学部・学科の教育研究の状況を的確に把握した上で,必要な支援を行ったり,あるいは,大学執行部自らが,全学的な具体的方針を打ち出したりしていくことが前提となる。そのためには,例えば,前者の例として,リサーチ・アドミニストレーター(URA)やインスティトゥーショナル・リサーチャー(IRer),産学官連携コーディネーター等を,後者の例として,アドミッション・オフィサーやカリキュラム・コーディネーター等の人材を,大学本部が配置することが考えられる。また,その他にも,弁護士・弁理士等の資格保有者,広報人材,翻訳者等,高度な専門性を有する人材(「高度専門職」)を,各大学がその実情に応じて活用し,全学的な支援体制を構築していくことが重要である。
◯ これらの職員は,新たな職種となるため,これまでは競争的資金を原資とした任期付き採用となる例が多かった。しかしながら,こうした専門性を持った人材は,社会的要請を踏まえた大学改革の推進力として,執行部を直接支えることが期待され,安定的に採用・育成していくことが重要である。
ここでは明確に学長のリーダーシップやマネジメント・ガバナンスと結びついている事が特徴ですね。また、ここでIRのみについて下記のように記載されています。
(IRの充実)
◯ 適切なガバナンスを働かせるためには,まず何よりも,学長が各学部の事情を十分に把握した上で,改革方針を策定していくことが必要である。学長を補佐する教職員が,大学自らの置かれている客観的な状況について調査研究するIR(インスティトゥーショナル・リサーチ)を行い,学内情報の集約と分析結果に基づき,学長の時宜に応じた適切な判断を補佐することが重要である。
学士課程答申では職員でしたが、今回は学長を補佐する教職員と学長を補佐となったのが特徴であるかと考えられます。
また私立大学についても下記のように言及されています。
私立大学についても,教育の質的転換,グローバル化などの改革に 全学的・組織的に取り組む大学を支援するため,経常費・設備費・施設費を 一体として重点的な支援を行っている。選定に際しては,例えば,学長等を中心とした全学的な教学マネジメント体制の構築や教学面でのIR担当部署の設置を評価要素とするなど,大学としての機能強化のみならず,全学的なガバナンス改革も促進する事業となっており,今後とも,こうしたメリハ リある支援を充実させていくことが求められる。
私学でIR担当部署の設置の評価要素については、このあたりから私立大学等改革総合支援事業のタイプ1でIRが求められ、各私学はIRをどうしようと、とりあえずIR担当者を専任で任命しておけとIR大混乱の時代になる時であったと思います。
4.2015年:国立大学経営戦略
国立大学経営戦略では、IRは現状分析を行い学内資源の再配分や強味や特色の分野の、学長支援などを行う事とされています。
(2)学長裁量経費によるマネジメント改革 学長のリーダーシップやマネジメント力の発揮を予算面で強化する観点から、 教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進するための仕組みとして、一般運営費交付金対象事業費の中に「学長の裁量による経費」(仮称)を新たに設け、 組織の強み・特色や機能を最大限発揮できるようにする。この経費は、大学ガバナンス改革法の施行等を踏まえ、これまで各国立大学で取り組んできた実績をもとに、各国立大学のビジョンに基づき、IR(インスティトゥーショナル・リサーチ)体制の充実による学内の現状分析を踏まえて学内資源の再配分の取組(人的・物的・予算・施設利用等の見直し)などを行うことにより、教育研究活動の活性化や新たに当該大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的とする。また、この経費は、有識者の意見を踏まえつつ、各国立大学におけるこの経費を活用した業 務運営の改善の実績や教育研究活動等の状況を中期目標期間の3年目及び5年目に確認し、その結果に応じて改善の促進や予算配分に反映する。
5.2016年: 資料3-1 大学運営の一層の改善・充実のための方策について(取組の方向性)(案) 平成28年2月17日(水曜日)16時00分~18時00分
(2)大学運営の高度化に伴い新たに必要となる専門的業務を担う体制の整備
◆社会の変化の中で大学運営の高度化を図っていくためには,例えば,大学経営,研究管理,国際,インスティテューショナル・リサーチなど様々な側面において,教員,事務職員等の業務の垣根を越えた専門的な取組が新たに必要となっており,これらに関わる専門性の高い業務を担う体制をどのように整備するかについて検討することが求められている。
◆ そのための在り方としては,例えば,①大学職員として「教員」や「事務職員」等と並ぶ「専門的職員」としてそのための職員を置くという考え方や,②大学職員である教員と事務職員等の職務の見直しや2.(1)に示す研修の充実を図ること等により,大学において上記のような専門的業務が組織的に遂行されるようにするという考え方がある。 なお,①の「専門的職員」については,例えば図書館に置かれる司書のように一定の資格の保有が前提となるものと,例えば URA やインスティテューショナル・リサーチャーのように通常資格の保有は前提とならないが,業務の性質上高い専門性が求められるものが考えられる。
ここで、IRは専門的な職員や高い専門性が求められると記述されています。またIRが大学運営と結び付けられているのは、今までの流れとそんなに変わりません。
なお、関連として次の調査がありますね。下記の調査は平成27年度11月発表です。
「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査研究」(2015 平成27年)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2016/06/02/1371456_01.pdf
6.2016年:「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・ 実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(ア ドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン 平成28年3月31日 中央教育審議会大学分科会大学教育部会
各大学は3つのポリシーのガイドラインもふまえて平成28年度に検討し、平成29年度から新たな3つの方針を運用しているかと思います。このガイドラインにもIRとは言及がないものの、データの活用についての文言があります。
2 三つのポリシーの策定に当たり留意すべき事項
(1)三つのポリシーの策定単位
○ 三つのポリシーの策定単位については,具体的には各大学で適切に判断すべきものであるが,「我が国の高等教育の将来像」(平成 17 年1月 28 日中央教育審議会答申)等において,今後の大学教育については,学位の取得を目指す学生の視点に立って,学位取得のた めに求められる知識・能力をあらかじめ明示し,学生が当該知識・能力を身に付けるため の教育課程を体系的に整備することが提言されていることなどを踏まえれば,三つのポリシーは,そのような教育課程(授与される学位の専攻分野ごとの入学から卒業までの課程 (以下「学位プログラム」という。))ごとに策定することを基本とすることが望ましいと 考えられる。
○ 一方,各大学の実情に応じて,例えば,学位プログラムごとのポリシーとは別に,全学 や学部・学科等を策定単位として各ポリシーを策定することも考えられる。この場合,全学としてのポリシーから教育課程ごとのポリシーまでが一貫性のあるものとして策定さ れるよう留意することが重要である。
○ なお,いずれの場合においても,三つのポリシーの策定に当たっては,学長を中心に全学的なポリシーの基本方針や策定単位等について検討した上で検討を進めることが必要と考えられる。教育,研究,財務等に関する大学の活動についてのデータを収集・分析し, 大学の意思決定を支援するための調査研究の充実など,より実効性のあるポリシーの策定に向けた体制の整備も有意義である。
7.2017年:今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理(平成29年12月28日 将来構想部会)
今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理(平成29年12月28日 将来構想部会):文部科学省
さて、平成29年度に出ている中教審の大学分科会の将来構想部会では、IRは今までのマネジメントやガバナンスではなく、「学修成果の可視化」について触れられています。
今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理 平 成 2 9 年 1 2 月 2 8 日 中央教育審議会大学分科会将来構想部会
(2.学修成果の可視化と情報公開)
各大学が上記の情報を評価するに当たっては、評価の妥当性を学内外に説明できるようにする等の観点から、各情報の評価に横断的に用いられるルーブリックや学 修ポートフォリオ等をはじめとして、具体的な評価方法をどのように用いたか明確にすること、複数の手法を適切に組み合わせつつ活用することが、より一層高い水準で求められることになる。
各大学は、学修成果の可視化に際して、こうした情報を効果的に活用するためにIR(インスティチューショナル・リサーチ)等の情報の収集・分析に係る体制を整備する必要があると考えられる。
まとめ
文部科学省のいくつかの文書を2008年から見ていくと、誰が担うかについては大学職員から専門職員へという流れがありました。またIRで何をやるかは大学経営から学長のマネジメントやガバナンスを強めるため、そして学修成果の可視化といった流れでした。また今回は紹介していませんが私立大学等改革総合支援事業では、教学のIRをする事が求められてもいますし、今後情報公開に学修成果や退学率といった公表の義務化もあります。IRにどのような目的を持たせるか、また何をやらせるかは、各大学で違うと思いますが、ガバナンスから学修成果の可視化までと言われると、小規模中規模大学でIRを1人でやっている人にはオーバーワークだろうなとも感じています。