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単位制度とキャップ制~平成10年度の議論を中心として~

 昨年度の大学基準協会の認証評価結果報告書の中で、多くの指摘をされていたのは1年間に履修できる単位数が多いというものがあります。 

www.daigaku23.com

  具体的には、1年間(もしくは1学期)に履修登録できる単位の上限を定めたキャップ制が緩いといった指摘になります。そもそもキャップ制については大学設置基準第二十七条の二に記載されているものです。

第二十七条の二 大学は、学生が各年次にわたつて適切に授業科目を履修するため、卒業の要件として学生が修得すべき単位数について、学生が一年間又は一学期に履修科目として登録することができる単位数の上限を定めるよう努めなければならない。

2 大学は、その定めるところにより、所定の単位を優れた成績をもつて修得した学生については、前項に定める上限を超えて履修科目の登録を認めることができる。

 またこの大学設置基準改正は、平成11年9月6日の大学審議会の答申に記載されています。

大学院設置基準等の改正について (答申) ((平成11年9月6日 大学審議会)):文部科学省

 

 さて、このキャップ制度ですが、大学基準協会では年間何単位を越えると指摘を受けるのでしょうか。その答えは大学基準協会のホームページで公開されている「基礎要件に係る評価の指針」から見ることができます。

www.juaa.or.jp

詳細は上記リンクから該当の資料のP4~P5を見ていただきたいのですが、「年間 50 単位未満で設定していることを目安とする」とされております。この50単位はおそらく大学設置基準のキャップ制の議論の時より、多い印象を私は持っています。そこで設置基準が制定された頃の記録や答申等について、該当する箇所を抜き出したので貼っておきます。(リンク先から全てを読んでいただくと、キャップ制や単位制度について賛成意見ばかりではなく懐疑的な意見等も読み取れます。)

 

1.大学審議会 大学教育部会(第95回)議事要旨(平成10年4月23日)

大学審議会 大学教育部会(第95回) 議事要旨:文部科学省

 質の確保のためにも、履修登録の上限を設定することは必要なことだと思う。しかし、ここで示されているように「大学の定めるところにより、各年次において36単位を越えないことを標準として・・・」とすると、大学によっては、36単位以上を上限とするところもでてくるおそれがある。やはり、現行の設置基準の単位制の趣旨からすれば、1年間の単位数の上限の基準は9科目36単位が適当ではないか。
 ただ、学部3年次卒業の問題との関係を考えると、一定の成績優秀者については36単位を越えて修得することができるとする手当は必要ではないか。その際、GPA制度も合わせて導入していけばよいと思う。

キャップ制の導入を促すような提言は必要だが、1年間の単位数の上限の設定は、あくまでも各大学の判断に委ねるべきことである。具体的に言えば、教員養成系の大学において、果たしてこのような枠で単位を修得し卒業できるのか。

 過剰登録を防ぐということは、1単位45時間の学習を確保するということが条件になると思う。そして、それは学生自身の学習のモチベーションを高めることにもつながると思う。

標準的な学生を対象に授業を展開していった場合、1日8時間の勉強を課していくと1週間で45時間になる。標準的な学生を想定してカリキュラムを編成すると、1年間に30単位程度を修得することができる仕組みになっている。現在は、世界的にも授業ごとの学習の修得が重要になってきている。つまり、1単位の学習量が異なっていたのでは国際的に通用しないということである。

 なぜ、学位授与機構の申請資格が4年以上なのかについては、4年制大学と整合性を図っているからだと思う。そして、大学が4年以上の在学期間を規定しているのは、標準的にカリキュラムを編成していくと、それだけの時間がかかる学習量を想定しているからである。また、国際的にみれば学位の水準は4年である。
 ただ、学部3年次卒業の問題は、優秀な者については、大学院への飛び級だけではなく、卒業する道もあってもよいのではないかということで提起されていると思う。

2.大学審議会 大学教育部会(第99回) 議事要旨(平成10年6月5日)

大学審議会 大学教育部会(第99回) 議事要旨:文部科学省

1時間の授業に対して、2時間の教室外の準備学習・復習を課すことは学生に過度の負担をかけることになるという意見がある。しかし、現行の単位制は年間52週あるうち、30週授業を行うという前提に立っているため、学生は4ヶ月は時間的に余裕のある生活を送れることになる。つまり、大学における学生の自主的な活動は保証される。中間まとめでは、大学の教育は、決して学生を勉強づめにするものではないということを記述していただきたい。

○ キャップ制については、履修登録の制限なのか。それとも履修の制限なのか。また、制度的に大枠を定めるということはどういうことか。さらに、履修できる単位の上限を36単位とすることは、学生にとって厳しい制度になるのではないか。

● 履修科目登録の制限のことである。キャップ制は、登録した科目については、しっかり勉強してもらうということである。ここで36単位と記述しているのは、卒業要件単位数が124単位の場合のことである。履修できる単位の上限を何単位に定めるかは、各大学の卒業要件単位数によって異なり、具体的に何単位に定めるのかは、大学が学生の状況や大学の教育理念等を勘案して定めることでよいと思う。
 制度的に大枠を定めるということは、設置基準において標準はこのように考えられるが、実施に当たっては各大学の判断に委ねるということである。

3.21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学― (答申) (平成10年10月26日 大学審議会)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_daigaku_index/toushin/1315932.htm

 2)教育方法等の改善 ―責任ある授業運営と厳格な成績評価の実施―

 1)授業の設計と教員の教育責任
 我が国の大学制度は単位制度を基本としており、単位制度の実質化は教育方法の改善にとって重要な課題である。現在の単位制度は、教室における授業と事前・事後の準備学習・復習を合わせて単位を授与するものであり、学生の自主的な学習が求められる。このため、教室における授業だけでなく、授業の前提として読んでおくべき文献を指示するなど学生が事前に行う準備学習・復習についても指示を与えることが教員の務めである。このことについて、大学当局はもとより各教員が十分自覚して授業の設計と学習指導を行うことが必要である。同時に、学生の側においても主体的に学習に取り組むことが求められる。
(ア)単位制度の趣旨

 現在の我が国の大学制度は単位制度を基本としており、1単位は、1)教員が教室等で授業を行う時間及び2)学生が事前・事後に教室外において準備学習・復習を行う時間、の合計で標準45時間の学修を要する教育内容をもって構成される。これを基礎とし、授業期間は1学年間におよそ年30週、1学年間で約30単位を修得することが標準とされ、したがって大学の卒業要件は4年間にわたって124単位を修得することを基本として制度設計されている(注*1)。

(イ)授業の準備学習等の現状

上記のように、単位は教室における授業と事前に行う準備学習・復習を合わせて授与されるものであり、学生の自主的な学習が求められる。このため、教員には教室外の準備学習・復習の指示を与え学生に勉強させる務めがあるが、それが現実には十分果たされていないとの指摘がある。同時に、学生の側についても主体的な学習への取組が十分でないとの指摘もある。

 

3)履修科目登録の上限設定と指導

 学生の履修科目の過剰登録を防ぐことを通じて、教室における授業と学生の教室外学習を合わせた充実した授業展開を可能とし、少数の授業科目を実質的に学習できるようにするためには、学生が1年間あるいは1学期間に履修科目登録できる単位数の上限を各大学が定める必要があり、その旨を大学設置基準において明確にする必要がある。また、個々の学生に対して履修指導を行う指導教員等を置くことも重要である。
ア.学生の授業科目の履修については、授業において必ずしも準備学習が要求されない、授業への出席状況が確認されない、学期末の試験結果のみで単位認定が行われる、などの理由から、単位制の本来の趣旨にも拘わらず、学生が過剰な科目履修をし、安易に単位を修得するという現象が生じ、その結果、十分な学習を行わないまま、3年で124単位近くを修得してしまうという指摘がある。

イ.このことは、単に学生の個々の科目に対する取り組み方の問題というだけでなく、個々の授業の要求する学習量が単位制度の趣旨である1単位当たり45時間相当に満たないことを示すものであり、個々の授業に問題があると同時に、単位制度の趣旨からは実行不可能な学習量の科目履修と単位修得を認めている大学の指導に問題があることを、各大学は深刻に受け止めなくてはならない。

ウ.上記のような授業の形骸化を改め、学生の主体的学習を促し、教室における授業と学生の教室外学習を合わせた充実した授業展開を実現するためには、少数の授業科目を集中的に学習することが必要である。このため1年間あるいは1学期間に履修科目登録できる単位数に上限を設けると同時に、個々の授業において1単位45時間という単位制の趣旨に沿った十分な学習量を確保することが必要である。

エ.このため、大学設置基準において、1年間あるいは1学期間に履修科目登録できる単位数の上限を、各大学が学則等において定めることを明確にするとともに、単位数の上限の取扱いの詳細については各大学が、それぞれの状況を踏まえて、自主的に判断することとするのが適当である。

オ.その際、卒業要件単位数が124単位の場合には、1年間当たりの単位数は4単位科目9科目分に当たる36単位が標準となることを踏まえ、各大学がそれぞれの卒業要件単位数を考慮して履修科目登録できる単位数の上限を定めることとするのが適当である。例えば、卒業要件単位数を124単位とし、各科目を4単位科目に単純化して考えると、1)8科目分32単位を上限とすると、卒業するためには、4年次にも7科目分28単位の修得が必要であり、3年次までの間に1科目しか落とせないということになり、厳しすぎること、2)10科目分40単位とすると、3年で120単位を修得できることとなり、単位の実質化にならないこと、から9科目分36単位を上限の標準とすることが考えられる。

カ.なお、登録単位数に上限を設ける対象となる履修科目は、卒業要件単位数に組み込み得る授業科目に限ることとするのが適当である。

 当時の議論から、現在も年間36単位のキャップ制の大学はそう多くはないと思います。また私が知っている中で、玉川大学の半期16単位が一番少ないかと思います(ただし、キャップ制に含めない科目もありますので、実際は年間32単位以上とる学生もいるかと思われます)。