ここ数年、IRに関与している方々とお話する事が多く、IRという概念・用語が、補助金の要件となった事もあり、大学の(一部)関係者にはだいぶ普及してきたと感じています。
話をする中で、なかなかIRが進まないという話や現状をお聞きしますが、いくつか気になったものと個人的体験を交えて、IRを進める上で課題となり得るものをまとめました。
Ⅰ.教育研究組織に関して
IRはデータを収集・分析・報告という流れがありますが、データを収集・分析する際に、各学部・学科・領域からご意見を頂戴します。様々な意見は重要ですし検討する必要がある事は承知しておりますが、(大学として個人情報の扱いや収集についての見解があっても)、その学部で決まった独自の取り決めを適用して欲しいという意見があったります。また学問・領域によっては、個人情報の取り扱いは非常にシビアですので、その調整が非常に大変です。
調査や分析については、学問の視点から見られる場合も多々あり、その調査・結果は(見られる先生のご専門の領域の見地から)正しいか正しくないかの議論が交わされたりします。またグラフだけでも表記の作法だけでも調整があったりします(あるプロジェクトで、無回答の取り扱いについて、間に立った事があり大変苦労しました)
この議論は全学的なIRの取組を前提としておりますが、IRはデータで語るといっても、事前に各学部・学科・領域の先生方とコミュニケーション(もしくは根回しともいう)が必要と考えます。データを収集・分析・報告すればいいわけではなく、全学として取組むものであれば、例えばキーとなる先生に「今日はここまでの段階でこういう報告をしますがどうでしょうか」というようなコミュニケーションもあるでしょう。
その為にはIR関係者は次の2点は心がける必要があると言えます。
・自大学にある各学部・学科・領域のデータや分析に関する考えや価値観、個人情報の取り扱いについて把握しておく必要がある。
・積極的にコミュニケーションを計る必要がある。
Ⅱ.事務組織に関して
事務組織としましたが、事務全般で考えると、例えば統合されたシステムではない、各部署でデータがあっても定義がバラバラでその定義を揃えるだけでも大変、データも様々なデータ形式が存在する、データ提供依頼をしても中々データが揃わない。特に定義がバラバラだと、データの結合をする際も問題が生じます。あとは過去記事のような事も未だにあるでしょうか。
責任ある仕事、教育に関わる仕事は教員の仕事と考えている人もいる事も理由として挙げられそうです。
これらの課題で必要なのは、コミュニケーションとデータマネジメント力ではないかと思います。(データマネジメントについては過去記事参照)
あとは予算とか、システムの問題、そしてIR担当者が何をできるかが分からない!、最後のが大きな問題かもしれません。知り合いのIR担当者は、着実に学内から信頼を得ながら何ができるかを明確にし業務をされているのが印象的です。これもコミュニケーションの一つですね。
大学がIRを進めていく上で、人員や予算といった財産に余裕がある大きい大学であれば、IR室長、IR担当者など複数がいて、経験や知識がある室長が学内の調整を主に担当し、IR担当者が収集・分析・報告を中心に行うといった取組は可能でしょう。
小規模大学であれば、IR担当者は(他の業務と兼務しているケースも聞きますが)学内の調整がしやすいという理由から、コミュニケーションはそう難しくないように思います(ただ業務過多になる可能性はあります。私大では、私立大学等改革総合支援事業の関係でIR担当者は50%以上IRの業務をやっていることと今まで要件がありましたので、逆を言うと49%までは違う業務を担当してもいいだろうと兼務しているケースを聞きました)また学部数があまりなければ、Ⅰのような事も起こりにくい分けです。
むしろ中規模大学、特に総合大学は、IRの人材もあまりいない(配置できない)、学部数が多いから調整が大変という事が想定できるので、IRを進める上で壁が高いのではないのかなと思っています。
今回は私論であり、個人的体験に基づくものですので、この限りではありません。IRに関する初学者向けの書籍も出ていますし、分析については大学評価コンソーシアムの機関紙や論文があります。また現場での課題や経験知を集積していく取組もあります。あと数年するとIRの概念は普及し、次は教育や組織から見た日本のIRの評価が課題となるかもしれません。