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大学職員と大学設置基準②~学部を作るのは楽ではない~

だいぶ前ですがこんな記事を書いた事がありました。 

as-daigaku23.hateblo.jp

 教員数の計算は分かりにくいようですが、公式やどこを見ればいいかさえ分かっていればそんなに難しいものではないです。ただし事例は簡単な学部構成ですので、複数の分野が一緒になっている学際系の学部(例えば社会学系と経済学系が一緒になっている学部)は、計算方法が少し異なるので注意が必要です。

 

さて、インターネット上でどこの大学が○○学部を設置構想中、あの大学の新学部は志願者が集まっているらしいなど情報がすぐに入手できる時代です。ニュースだけを見ると、新しい学部学科はすぐに出来ると考えている人や大学関係者も少なくはないのではないかと感じています。

 

そこで大学設置基準から見た学部の設置の難しさについて、取り上げてみます。なお、前提としてA大学が新しくB学部を設置することを想定します。(大学を1から設置はまた話が変わってきます)

 

①教員組織

 第7条(教員組織)に『教育研究組織の規模並びに授与する学位の種類及び分野に応じ、必要な教員を置くものとする』とあります。また第13条(専任教員数)には、以前取り上げたように専任教員の最低限必要な数が記載(計算方法を示)しています。なお、最低限の人数を出し、さらに半分以上は教授である事が求められています。 では教授はどんな人がなれるの?という事ですが、第14条に教授の資格について記載があります。

(教授の資格)
第十四条  教授となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。
一  博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者
二  研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者
三  学位規則 (昭和二十八年文部省令第九号)第五条の二 に規定する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者
四  大学において教授、准教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者
五  芸術、体育等については、特殊な技能に秀でていると認められる者
六  専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者

 でも具体性に乏しいので、事例で探してみるとこんなのがありました。

http://www.atomi.ac.jp/univ/doc/pdf/dksssk.pdf

 附則を見ると平成19年ですので、今は内容が変わっているかもしれませんが、教授となる資格要件について具体的に書いてあります。

新しく学部を作ることは、教員をどうするかを検討しなければなりません。公募などをするにしても、きちんと業績がある人はいるのか?学内で教授に相応しいと審査しても、文部科学省に学部の設置をする際の教員審査は通るか?などをふまえて採用しなければなりません。まずは一つ目の大きなハードルは、適切な数の教員を集める事ができるか、そしてその先生達は科目を担当するのに該当する業績があるかが問われます。

近年看護学部がたくさん出来ましたが、審査を通過する教員は引っ張りだこという噂も耳にします。人気学部はそれだけ教員が少ないという事も考えておく必要があります。

 

②校地・校舎は設置基準で決められた以上にあるか?

 校地は、学生一人当たり10㎡の面積が必要です。ここには、寄宿舎といった面積を含まない例外もあります。また校舎は第37条の2及び別表第3に必要な校舎面積を求める計算式があります。(教員数より簡単ですのでここでは取り上げません)

 新しく学部を作るといっても校地や校舎は充分でしょうか?設置基準上では学部の種類で最低限必要な校舎面積がありますので、校舎がぎりぎりの所は注意が必要です。

 よく都心と郊外にキャンパスがある大学がありますが、この校地の所が重要ですね。都内のキャンパスでは校地面積が足りないので、郊外のキャンパスで校地面積の基準を満たしているというケースは少なくないと思います。

 

③図書はきちんと整備されているか?

 第38条では次のようになっています。

(図書等の資料及び図書館)
第三十八条  大学は、学部の種類、規模等に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備えるものとする。
2  図書館は、前項の資料の収集、整理及び提供を行うほか、情報の処理及び提供のシステムを整備して学術情報の提供に努めるとともに、前項の資料の提供に関し、他の大学の図書館等との協力に努めるものとする。
3  図書館には、その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くものとする。
4  図書館には、大学の教育研究を促進できるような適当な規模の閲覧室、レフアレンス・ルーム、整理室、書庫等を備えるものとする。
5  前項の閲覧室には、学生の学習及び教員の教育研究のために十分な数の座席を備えるものとする。

新学部の設置をし、新しい学問分野であれば、その分野の本を系統的に揃える必要があります。その為の予算は計上してあるでしょうか?それとも従来の予算で対応可能でしょうか。設置申請だけではなく、資格課程申請の場合は図書の分野ごとの冊数まで数字を出す必要がありますので、注意が必要です。

 

まずは3項目挙げてみました。他にも分野に応じて付帯施設(教員養成は附属学校とか、医師等は附属病院)等が必要なケースもあります。

 

基本としては、人(教員)・物(校地・校舎・器械や器具…etc)・金があるかどうかですね。近年は医療系の学部学科が増えましたが、それでその大学は安泰かというと、私個人はそうは思っておりません。医療系は設置時に多くの施設や器械・器具等が必要であり、運営も教員も文系と比べてたくさん必要であったりとお金が非常にかかります。学部等が出来て、定員を満たせていても、じゃあ経営的にどうなのかは別問題です。

 

新しく学部を作ればいいという人は、設置申請の大変さもありますが、まずはこのあたりの条件がクリアできるかも念頭にふまえて議論が必要と思います。

またこの人・物・金をマネジメントするのは大学職員の大きな役割でもあると感じています。