電車内で、「来年度、本学は○○学部が出来ます!」や「○○学部構想中」と見ることが誰もが少なからずあると思います。
大学で新しく学部や学科等を設置する際は、文部科学省に様々な書類を提出があり、そのために担当者は多大な労力で書類を作成する必要があります。
参考
さて今回は、大学の学部学科設置制度そのものではなく、一部にスポットをあてていきたいと思います。
近年、学部学科を新しく(もしくは改組して)設置する際に、「学生確保の見通しと社会的な人材需要」を設置申請書類に記載する事が求められています。特に学生確保の見通しについては、毎年、文部科学省の大学設置申請の説明会で質問がでるほど、設置担当者が悩む所でもあります。
そこで、大学の学部等の設置に関する書類は、文部科学省の大学設置室にほとんどが公開されていますので、平成25年度の大学の文系学部学科の設置申請書類から、各大学がどのような学生確保の見通しを立てているかを調べてみました。
なお、参考した申請年度の基準である文部科学省にある「大学の設置の手引き( 平成2 5 年度改訂版)」には下記のように記載されています。
参照元 大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き( 平成2 5 年度改訂版)
学生確保の見通しと社会的な人材需要
・長期的かつ安定的に学生の確保を図ることができる見通しがあることについて,客観的根拠となるデータを示しながら説明してください。その際,想定する受験者数,合格者数,入学者数を明示してください。
・人材の養成に関する目的その他の教育研究上の目的が,人材需要の動向等社会の要請を踏まえたものであることを客観的根拠となるデータを示しながら説明してください。
・上記の説明の際には,次に掲げる事項について必ず触れてください。
① 入学定員(編入学定員を含む)設定の考え方とその根拠となる学生確保の見通し(客観的根拠となるデータ例)
人材需給に関する公的機関や民間調査機関による調査,当該分野の入学志願動向,専門の調査機関による進学意向調査,同分野を有する近隣大学への併願動向調査等
② 卒業後の進路と養成する人材を受け入れる側の需要
(客観的根拠となるデータ例)
人材需給に関する公的機関や民間調査機関による調査,企業の人材需要調査,卒業生の採用意向調査等
今回は先述のように平成25年度に申請を行った18大学をサンプルとして取り上げます。(平成25年度申請ということは、今年設置されて、現在は1期生がいるということですね)
なお、複数の数字の根拠を示している大学があるため、全て足すと18大学以上になります。
●9大学 既存学部学科の志願者数による根拠
既存の学部学科があり、それらを改組する届出設置に見られたのが、改組前学部学科にこれだけ人が集まっているのだから、改組してもこれぐらいは集まりますよというものが多い傾向にありました。(では何故、学部学科を改組するの?と聞きたいですが、社会からの養成の変化とか、将来を見据えてなのでしょうね)
●8大学 外部機関による調査
大きくまとめましたが、申請に伴い、企業等に調査を依頼した大学や既存の調査結果(例えば日本私立学校振興・共済事業団の「私立大学・短期大学等入学志願動向」)を使用したケースもありました。
●4大学 近隣の大学の状況
近隣の競合する大学の状況や、併願状況などを記載し、(調査結果や他の数値を組み合わせて)根拠としている大学が見受けられました。
●3大学 大学が行った高校生等へのアンケート
個人としては、これが一番多いのではと思っていたのですが、外部機関による委託や既にある調査結果を流用というほうを選択した大学が多かったようです。
●1~2大学 その他
大学の学生に調査、高校の教員へのヒアリング、在学生の履修傾向。特に在学生の履修傾向は、面白い根拠ではあります。
これは平成25年度申請内容ですが、平成26年度(今年申請中)は学生確保の見通しについて厳格な取組状況の記載が求められています。また平成25年度までは、ある様式の文書(設置の趣旨の)一部に記載すれば良かったのが、「学生の確保の見通し等を記載した書類」を独立して提出することが求められました
参考として下記に一部を記載します。
参照元 大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き( 平成2 6 年度改訂版)
学生確保についての具体的な取組状況(予定含む)及びその効果,反応等を記載してください。また,効果,反応等に関し参考となる資料があれば添付してください。
なお,収容定員増加の認可申請で,基本計画書に記載した定員超過率が0.7倍未満の学科がある場合は,その学科についても説明してください。<留意点(審査の主な観点)>
ア 調査結果に客観性が担保されているか。(対応例:回答者の属性を明らかにした第三者の調査,公的機関による調査)
イ調査の適切性が担保されているか。・調査時期は適切か。(古くないか)
・調査対象は適切か。(アドミッションポリシーや受入実績との整合)
・アンケート調査の場合,対象者に必要な情報を明示しているか。
明示すべき事項例:①学部学科の名称
②設置の理念,養成する人物像
③設置場所(アクセス)
④学生納付金
⑤競合する大学・学部学科等の名称
・アンケート調査の場合,設問項目は適切か。(入学の意思を明確に確認できる設問か,単なる意識調査にとどまっていないか)
ウ 重層的な調査(確認)がなされているか。(対応例:高校生へのアンケート調査,競合校の状況(全国的な状況,近隣の状況),学校基本調査や志願動向調査に基づく自己分析を実施)
エ既設校において定員が確保されているか。(対応例:学部学科の改編,未充足学部等の定員縮小)
オ 学生納付金の設定は適切か。(対応例:既設学部や近隣の競合校等の状況を把握・分析)
カ学生確保に向けた具体的な取組を組織的に行っているか。
キ長期的かつ安定的に入学定員を上回る入学希望者がいることの合理的な説明がなされているか。
だいぶ詳細にデータを求められるようになっていると思います。本来は26年度の申請書を見てみたかったのですが、まだ文部科学省大学設置室のHPに掲載されていないので、今回は平成25年度としました。
さて何故、こんな根拠が必要になっているかというと、「大学は学生が集まるといって学部学科を設置したのに、実際は定員割れじゃないか!」という事が少なくなかったからです。
今回は学生確保の見通しについて、簡単にまとめましたが、次回は同じ資料を使って異なるものの傾向を見ていきたいと思います。